【速報12】トルコ・シリア地震:日本赤十字社の医療調査チームが長期避難者支援のアセスメントを実施(トルコ)

 2月6日にトルコ・シリアの国境付近で発生した地震から1か月が経過しました。トルコでは、現地のトルコ赤新月社(トルコの赤十字社)を中心に、被災された方がたのいのちと健康を守り、生活を支えるための赤十字の支援が続いています。こうした中、日本赤十字社は避難生活が長期化する中での現地の保健・医療ニーズを調査するため、職員3名をトルコに派遣しました。医療調査チームは3月1日に被災地に入り、トルコ赤新月社が展開している巡回診療サービスを中心に、現地の状況と今後必要とされる支援について聞き取りました。今回は、医療調査チームからの報告をご紹介します。

■農村地域の被災者にも医療サービスを

〇日本赤十字社和歌山医療センター 医師 古宮 伸洋

 

 今回の地震は、都市部のみならず農村地域にも甚大な被害を及ぼしました。私が訪問した山間部の村では、都市部に比べブロック積みの簡素な住居が多く、数多くの建物が跡形もなく倒壊していました。日本のような耐震性の高い体育館等に大規模な屋内避難所を設けるのではなく、運動場や自宅の庭などの屋外に避難テントを立てて、そこで避難生活を送っている方が大勢います。このような小規模な避難所が点在しているため、支援物資を効率的に配ることが難しいです。その一方で、自分たちのコミュニティー内で避難しているため、顔見知り同士で助け合えるというメリットもあります。

 医療については、発災から1か月が経過し、外傷、骨折等の外科的な治療は減ってきています。一方で、厳しい避難生活が続き、十分な医療サービスを受けられないことで糖尿病などの慢性疾患が悪化することが懸念されます。また、一部の地域では衛生状態の悪化による下痢症などの報告があります。集団生活による感染症のリスクも指摘されますが、適切な予防策を講じれば、そのリスクは減らせると考えます。いずれにしても、避難生活の長期化に伴い、特に山間の農村部でも医療へのアクセスを継続的に確保することが今後の課題であると思います。

画像 カラマンマラシュ村の現地の子どもとⓒTRCS/日本赤十字社

■巡回診療で母子の健康を守りたい

〇 日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院 看護師 関塚 美穂

 トルコ赤新月社の巡回診療サービスは、医師、看護師、放射線技師、臨床心理士の4名からなるチームが1日に34カ所の村を回り、活動しています。山間部では、外部からの救助・捜索チームの到達が難しく、村の人びとがお互いに助け合って救助活動を行ったといいます。街から車で山道を1時間程走った所にある村では、人びとが住居だけではなく、貴重な生計手段である家畜をも失ってしまった状況を目の当たりにしました。それにもかかわらず、村人に「遠くから私たちの村へ来てくれてありがとう」と話しかけれた時は心を打たれました。

 また、トルコの農村地域では二十歳前後で妊娠・出産を経験する「ヤングマザー」が少なくありません。彼女たちが母子保健について正しい知識を得て、誰かに悩みを相談できる機会は限られています。そこで、彼女たちの子育ての不安を軽減し、母子の保健を守るケアを行うことが、巡回診療サービスの重要な役割の一つです。

 注目の集まる都市部だけでなく、支援の手が届きにくい山間部や農村部で避難生活を送る被災者にも同様に、支援から取り残さないために活動することが大切です。現地でお会いした小児科医は、遠くイスタンブールから駆け付けていました。「都会には医師がいるが、ここは医療へのアクセスがない。医師として、人間として何かしたかった」と語ってくれました。

画像 日本赤十字社医療調査チームによるガジアンテップ村での現地アセスメントⓒTRCS/日本赤十字社(左から古宮、宮本、関塚)

■日本の経験を生かして長期的な支援を

〇 日本赤十字社医療センター 国際医療救援部 宮本 教子

 今回の地震による建物の倒壊は、医療サービスにも大きなダメージを与えました。被害の甚大な地域の人びとが、他の地域に避難したことで、周辺地域でも医療ニーズが高まっています。しかしながら、医療施設やその機能は依然として十分には回復していません。また、避難生活が長期化する中で、人びとは疲労やストレスを感じるだけなく、世間の関心が低下し、徐々に支援団体が撤収することに不安な気持ちを抱えています。

 トルコ赤新月社は発災直後から、被災した州の子どもが楽しく遊んだり、人びとが安心して集い話ができるスペースを設置して、被災者への心理社会的支援を実施してきました。支援の最前線で働くスタッフやボランティアの話を聞くと、彼/彼女たちは、少しでも現場の役に立ちたいという想いから、休む間もなく働いている様子でした。トルコ赤新月社は、支援活動に携わる人たちも被災していることを忘れず、今後は支援者のケアをも重視するとしています。

 日本もこれまでに幾度となく災害を経験しています。私自身も、トルコに来て東日本大震災のことを思い出しました。これまでの経験や知見を共有し、被災者に長期的に寄り添い続けることが、私たちにできる支援ではないかと考えています。

 日本赤十字社は、医療調査チームからの報告をふまえて、トルコ赤新月社が行う巡回診療サービスを強化し、持続的に活動するための支援を行うことにしています。

皆さまからの温かいご支援をお願いします

 日本赤十字社は、今後も国際赤十字の呼び掛けに応えて現地の活動を支援するとともに、誰も取り残さないための支援に全力で取り組みます。日本赤十字社にお寄せいただきましたご寄付は、今も支援を待っておられる方がたのために活用させて頂きます。引き続きのご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。

「2023年トルコ・シリア地震救援金」

受付期間: 2023年2月9日(木)~2023年5月31日(水)

使途  : 国際赤十字・赤新月社連盟の緊急救援アピール等に対する資金援助、トルコ赤新月社並びにシリア赤新月社による救援・復興活動、日本赤十字社による救援・復興活動等に使われます。

本ニュースのPDFはこちら(667KB)