国際赤十字の方針を決定する主要会議、開催レポート

赤十字の活動は、赤十字国際委員会(以下「ICRC」)、国際赤十字・赤新月社連盟(以下「連盟」)、及び各国赤十字・赤新月社の相互の協力体制のもとに実施されています。この国際赤十字・赤新月運動の方針を決定する重要な会議である「連盟総会※1」と「国際赤十字・赤新月運動代表者会議(以下、代表者会議)※2」が2022年6月19日~23日、スイスのジュネーブで開催されました。連盟総会と代表者会議は通常隔年で開催されますが、今回の会議は、コロナ禍において、約半年遅れで、会場入りできる各社の代表団の人数を制限して開催されました。

※1 連盟総会:連盟及び各国赤十字・赤新月社代表により構成される連盟の最高意思決定機関。2年毎に開催。
※2 代表者会議:国際赤十字・赤新月運動全ての機関(ICRC、連盟、各国赤十字・赤新月社)の代表が国際赤十字の共通課題を議論する会議。2年毎に開催。

連盟総会

会議は、まず連盟総会から始まりました。開会式では、連盟会長フランチェスコ・ロッカ氏より、世界が気候変動、新型コロナウイルス、ウクライナ人道危機など様々な危機に直面する中、国際社会が力を合わせて対応する必要があること、世界の赤十字・赤新月社のボランティアやスタッフがそれぞれの地域での対応に大きく貢献していること、地域に根差した人道支援の重要性が改めて示されたことが強調されました。また、社会の関心が高い人道危機の陰に隠れ、人々の注目や支援が集まらない人道危機(アフリカの食料危機等)が数多くあり、対応に大きな格差があることに警鐘を鳴らしました。

連盟総会では、事務総長による戦略計画の説明や理事会・財政委員会等からの報告がなされた他、将来的な課題や危機に備える体制整備を目的に、①ボランティア活動、②各赤十字・赤新月社の組織強化、③血液事業、④救急法、⑤保護・ジェンダー・包摂の分野で新たなポリシーが設けられました。また、2030年に向けた連盟の指針である「2030年戦略」に基づき、以下8項目について討議されました。

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                     (C)IFRC

1 気候・環境の危機への対応
2 人道外交の強化に向けた連盟と各赤十字・赤新月社の世界的位置づけ
3 健康・福祉における格差の拡大
4 都市におけるレジリエンス強化
5 2030年戦略の主要事項としての救急法
6 信頼と説明責任の構築
7 グローバル資金造成戦略
8 連盟全体のデジタル変革戦略

代表者会議

連盟総会に続いて開催された代表者会議では、国際赤十字の共通課題について2日間に渡って協議しました。

気候・環境危機により増え続ける人道ニーズに応えるべく人道団体が協力して役割を果たすことを約束する「人道団体のための気候・環境憲章」への支持が確認され、各国赤十字・赤新月社に対し、同憲章への署名及び目標・実施計画の策定、政府機関等への憲章署名の呼びかけが求められました。

また、従来の災害予防、対策、対応に加えて、予測に基づく人道支援(現金や衛生材料の提供等)を強化し、この分野での国際赤十字・赤新月運動としての能力、世論啓発、政策実現を促進するための決議が採択されました。熱波や干ばつなどの遅発性災害はもとより、感染症や人口移動などの人道危機や紛争地での予測型支援の適用を強化します。

都市部での武力衝突について、その苦痛の予防や対応を強化するための世論啓発や政策決定者に対する人道外交の強化を狙いとした「都市部における人道的影響を抑えるための国際赤十字・赤新月運動の行動計画(2022~2027年)」を採択し、民間人や民用物等への攻撃をしないよう国際人道法の順守を紛争当事者に求めること等を決議しました。

核兵器の廃絶に向けた取り組みとして、「核兵器の脅威に対処するための行動計画」が採択されました。これは、核兵器使用の危険性が高まり、新たな核軍拡競争に向かわないよう対応するため、核兵器の不使用、禁止、廃絶を確実にするという約束を改めて表明するものです。核兵器が使用された場合、人道的及び環境的に壊滅的な影響を与えるという懸念が強調され、関係政府への人道外交の継続や、被ばく者の声を若い世代を中心に広く伝え続けることなどの活動について合意しました。

また、次回(2023年)の代表者会議での採択に向け、移民問題にかかる戦略策定、人道支援における患者の安全とケアの質にかかる方針策定、都市住民の災害対策・対応にかかるレジリエンス強化に向けた戦略策定に取り組むことが確認されました。

連盟理事会選挙で日本赤十字社が当選

連盟総会の初日に、連盟理事会※3選挙が実施され、日本赤十字社が当選をはたしました。選挙は、「会長」、4人の「副会長」、そして各地域(アジア大洋州、欧州、アフリカ、米州)から5社、計20社の「理事社」が選ばれるもので、このうち、日本赤十字社はアジア大洋州地域の理事社に立候補していました。

理事社については、今次選挙から新たに導入された理事会のジェンダーバランスに配慮したルールにより、各地域から選ばれる5社の代表は、男女それぞれから2名以上を選出することになりました。アジア大洋州地域の立候補状況と結果は以下のとおりです(有効投票社数は171社)。

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女性候補者 ニュージーランド赤十字社 122票 当選(競合候補社不在のため、事実上の信任投票)
マレーシア赤新月社

121票

当選(同上)
男性候補者 日本赤十字社 131票 当選
サウジアラビア赤新月社 84票 当選
バングラデシュ赤新月社 73票 当選(決選投票の結果)
インド赤十字社 73票 落選(決選投票の結果)
イラク赤新月社 53票 落選

日本赤十字社は、連盟理事社として国内外の活動で得た学びを国際赤十字へ提言していくと共に、国際赤十字の方針や知見を国内事業に反映し、より良い事業展開を目指します。そして、今日の未曾有の人道危機に対し、連盟が人道の力と知見を結集することができるよう、国際的にも指導力を発揮していきたいと考えています。

なお、連盟会長は、現職のイタリア赤十字社社長、フランチェスコ・ロッカ氏が再選を果たしました。

※3 連盟理事会:連盟総会において加盟社の選挙によって選出されたメンバーで構成され、総会と総会の間の重要事項(総会で決議された決議のフォローアップ、補正予算の承認、連盟事務局幹部人事の承認など)を決定する。任期4年。連続再選は2期まで。

日本赤十字社名誉社長 近衞忠煇がアンリー・デュナン記章を受章

6月22日、代表者会議において、「第26回アンリー・デュナン記章※4」授与式が行われ、7か国から故人2名を含む7名が受章し、日本からは、日本赤十字社名誉社長 近衞 忠煇(このえ ただてる)が受章しました。同章は個人を対象とした国際赤十字・赤新月運動における最高位の褒章で、2年に1度選考が行われています。

近衞名誉社長は、アジア地域出身者初の国際赤十字・赤新月社連盟の会長(在2009年~2017年)として、世界の様々な人道支援の現場に精力的に足を運び、求められる人道支援について世界に訴えるとともに、対応にあたる赤十字ボランティアや職員の活動が広く認知され、保障されるよう現地政府等へ働きかけました。さらに、各国の首脳や国際機関の長などとも会談を重ね、世界的な人道問題への取り組みを促すための「人道外交」を展開しました。また、2011年に自国で起きた東日本大震災では、国際救援の受け入れにかかる統制と調整を行い、80か国以上の赤十字・赤新月社からの支援に基づく復興支援事業を実現しました。

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                     (C)IFRC

今回の受章は、人道・博愛の精神を具現化するため長年にわたり、広く世界の平和と福祉の増進に精力的に貢献した功績が認められたものです。

なお、1969年の第1回授与からの受章者総数は159名となり、日本からの受章者は1971年受章の橋本祐子氏(元・日本赤十字社青少年課長)に続き2人目となります。

※4 アンリー・デュナン記章:赤十字の創設者であるアンリー・デュナンの名が記された同記章は、赤十字誕生100周年を記念して1963年に赤十字代表者会議で提案され、1965年の第20回赤十字国際会議で創設された。1969年に第1回の授与が行われ、それ以来、隔年で赤十字・赤新月常置委員会(スイス・ジュネーブ)から受章者が発表されている。

誰も取り残さないために

気候変動や長引くコロナ禍、ウクライナ人道危機などが私たちの生活に深刻な影響を与える中、脆弱な環境下で暮らす人々の生活は更に厳しさを増しています。

今回の会議を通じて交わされた約束事は、世界192の国と地域にネットワークを持つ赤十字の知恵と経験を結集して考えられたものです。これらを実際の行動として実現するため、苦しむ人々のニーズを的確に捉え、効果的に対応する創意工夫が各国赤十字・赤新月社に求められています。

赤十字は、これからも、世界各地の人道危機から誰も取り残さないよう、中立・公平な立場で地域に根差した支援を届け続けます。

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