国際赤十字が「人道団体のための気候・環境憲章」を採択

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©ICRC

今年5月、赤十字国際委員会(ICRC)と国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は、「人道団体のための気候・環境憲章」を採択しました。この憲章は、気候・環境危機と対峙し、増え続ける人道ニーズを満たし、これ以上人々に死や苦しみがもたらされることがないよう協力して取り組むために、人道団体が役目を果たすことを約束するものです。

人道団体になぜ気候・環境憲章が必要なのか?                                                                              

気候と環境の危機は、人類の未来を脅かす人道上の危機です。その影響は、すでに世界中で人々の日々の暮らし、ひいては人の生き方にまで及び、なおも拡大する一方です。誰もが何かしらの影響を受けていますが、最も被害を受けているのは、厳しい状況に置かれているコミュニティーに暮らす最も貧しい人々です。こうした人々は、紛争や避難生活、脆弱なガバナンス、無計画な都市化、貧困などのために、すでに変化への適応能力が低下しています。さらに、構造的な不公平、および年齢や性別、障がいの有無、稼ぎなどの個々人の属性が相まって、追い打ちをかけられています。

国際赤十字による気候・環境憲章の採択は、こうした危機に対峙するうえで、私たちのような人道団体が重要な役割を担っていることを明確に示す必要があったからです。人道団体は、問題解決の一翼を担い、変化し続ける気候や環境に人々が適応できるよう支援し、同時に地球環境の持続可能性を高めるために自ら貢献していかなければなりません。いかなる組織であっても、単独で問題を解決できないことは明らかです。共に力を合わせて取り組む必要があります。この憲章は、気候と環境の危機下における人道活動の指針となる明確なビジョンと原則を示すことを目的として採択されました。

なぜ今なのか?

何よりもまず残り時間がありません。私たち人道団体は一致団結し、広範囲に活動する必要があり、そのような取り組みを行う準備ができています。気候変動や環境の危機はすでに大規模な人道上の被害をもたらしており、今後も続くと予測されています。従って、多くの人道団体にとって、こうした危機に対処することは今や最優先事項なのです。実務面では、人道団体の事業活動にいかに気候変動リスクを組み込み、環境への影響を軽減するかということを定めたガイドラインや基準は、すでに存在するかこれから作られようとしています。あと必要なのは、基準を満たすために自らの振舞いを変えていくことを、人道セクター全体が約束することだけなのです。残念ながら、こうした問題に対して効果的な対応が取られていないことが分かりました。危機に対処するには人道以外のセクターとの連携も強化し、共に取り組んで行くのが大切です。

IFRCとICRCはなぜ本憲章の策定・協議プロセスの旗振り役となったのか?

気候と環境の危機への対応は、かねてから国際赤十字・赤新月運動の最優先事項でした。そのため、2019年12月に行われた第33回赤十字・赤新月国際会議では、ICRCやIFRC、そして各国の赤十字・赤新月社の多くが、自らの事業活動を気候や環境への取り組みに適応させるだけでなく、人道コミュニティー全体として気候変動対策を支援・促進するための憲章を策定することを約束していました。

いま求められる、気候危機(Climate Crisis)への対応

常に最も弱い立場に置かれた人々に対する支援に取り組んできた赤十字にとって、気候危機へ対応することは決して新しいものではありません。日本赤十字社(日赤)を含む国際赤十字は、従来から被災地における救援事業や平時の防災・減災事業、医療・保健事業等を通じて、気候変動の影響や異常気象による被害を受ける可能性の高い人々に対するリスク削減、被災地域での救援活動を行ってきました(「シリーズ 気候変動の影響と人道」はこちら)。

また、気候危機への対応に際しては、赤十字だけではなく、社会の多様なステークホルダーとの連携が求められています。長年、国内外の研究機関や企業と連携し、救援技術の研究・開発に携わっている熊本赤十字病院の曽篠恭裕国際救援課長に最新の取り組みを聞きました。

なぜ、病院で救援機材の研究・開発に取り組んでいるのですか?

私は、2001年、日赤の緊急対応ユニット(ERU)が初めて出動したインド西部地震で当院の宮田昭副院長に率いられた初動チームで活動しました。この時、被災地で医療活動を行うためには、水、トイレ、電力、通信、テント、物流等、様々なインフラを迅速に被災地に設置する必要があることを痛感しました。以後、熊本赤十字病院は国際医療救援拠点病院のひとつとして、国内外の研究機関や企業等と連携し、エネルギー、給水・衛生、モビリティ等の分野横断的な研究開発に取り組んでいます。このような病院を舞台としたオープンイノベーションの取組みは、最近、国際赤十字からも革新的な取り組みとして注目されています(Kumamoto Hospital, how to integrate innovation within a healthcare facility - Red Social Innovation (red-social-innovation.com))。

私たちの研究開発の根底にある考えは、「災害時に役立つ技術を社会で普段使いする」ことです。

「災害時に役立つ技術を社会で普段使いする」とは?

災害発生後、救援要員が被災地に到着するまでにはどうしても時間がかかります。過去の救援活動を通じて、被災地の方々による「自助」を支援したいと思うようになりました。そのためには災害時に役立つ技術やサービスを多くの人に普段から使っていただくことが大事です。ハイブリッド車や燃料電池車による電源供給もその一つです。現在、これらのエコカーから被災医療施設、避難所、在宅患者さんのご自宅で使用される医療機器への電源供給に関する実験を進めています。災害時に発電機として活用できるエコカーを普段使いすることに加え、「災害時にどうエコカーを役立てるか」ということを研究することは、国際赤十字が提唱する環境に配慮した災害対策、災害への備えにもなると考えています。

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燃料電池車から救護所への電力供給実証©熊本赤十字病院

燃料電池車から救護所への電力供給実証©熊本赤十字病院

トヨタ自動車との燃料電池医療車の共同実証とは?

燃料電池医療車「Doctor Car NEO」は、水素と酸素から化学反応で電気を作り出し、その電気のみを使って走行する、二酸化炭素(CO2)を排出しない世界初のドクターカーです。また、燃料電池車は動く発電所として、電力供給にも大きな力を発揮することが強みです。トヨタ自動車株式会社は、「エコカーは普及してこそ環境に貢献できる」という考えをお持ちです。今年3月に公表した共同実証は、燃料電池車の普及に向けて、医療や災害という、地域の社会問題の解決手段(ソリューション)として燃料電池車を活用することで、将来の水素社会の実現を目指すものです。この実証も、災害に役立つ技術を普段使いするというトヨタ・熊本赤十字病院の共通思想に基づいています。普段はこの車をドクターカーとして患者搬送で活用し、災害時には被災地で動く発電所として運用することを想定しています。また、全国の医療・防災・環境関連の展示会や防災訓練への出動を通じて、赤十字運動の推進にも役立てたいと考えています。世界が気候・環境危機への対応に取り組む中で、日本発の燃料電池技術が、社会問題の解決に貢献し、災害で困っている人々を支える姿を国際赤十字の仲間と共有できればと思います。

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燃料電池医療車「Doctor Car NEO©熊本赤十字病院

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Doctor Car NEOの内装©熊本赤十字病院

熊本赤十字病院とトヨタ、世界初の燃料電池医療車の利活用実証を開始

Kumamoto Hospital launched a zero-emission hydrogen ambulance - Red Social Innovation (red-social-innovation.com)

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