今年の夏は熱中症にも十分な対策と予防を

世界中が新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)に立ち向かう中、私達はマスクを着けて過ごす時間が以前よりも格段に長くなっています。マスクを着けていると、呼吸によって身体の熱を体外に発散できず、熱が体内にこもってしまいます。そして、マスクによって口の中が保湿されるため、喉の渇きを感じにくくなり、また、マスクを着けていると水分補給を億劫に感じることなどから熱中症のリスクが高まっています。そのため、今年はより一層熱中症への注意が必要です。

画像 コロナ禍での熱中症予防を呼び掛ける日本赤十字社 広島県支部の動画©JRCS

熱中症のリスクが高まっている背景には、地球温暖化に伴い熱波の激しさが増していることもあります。どのような状況を熱波と呼ぶかについては、世界共通の定義がなく、国によって異なります。例えば、オランダでは最高気温25度以上の日が5日以上続くこと、インドでは最高気温40度以上の日が2日以上続くことを熱波と呼び、日本では気象庁が「広い範囲に4~5日以上にわたり、相当に顕著な高温をもたらす現象」と定めています。本記事では、世界の赤十字社によるコロナ禍での熱中症対策に着目し、各社の地域に根差した取り組みをご紹介します。

熱中症予防を通じて孤独や孤立を感じる人々の心にも寄り添う

オーストラリアは、日本と同じく高齢化が進んでいます。そのような中で、2009年には同国南部で最高気温が48度に達し、熱波の影響により多くの方が亡くなられました。オーストラリア赤十字社は、熱中症リスクが最も高いのは、家族や近所の人びと、町内会のような地域コミュニティなどから支援を受けにくい人々であることに着目。そこで、一人暮らしの高齢者等の健康を見守る取り組みとして赤十字ボランティアが運営する「熱中症予防に関する電話見守り活動」を開始しました。

画像 赤十字ボランティアから毎日電話を受け、 会話するサービス利用者©ARC

この活動は、赤十字のコールセンターで活動するボランティアが毎日、サービス利用を希望した高齢者に電話をし、水分の摂取状況やエアコンの利用有無、その他、体の具合などをお話しするものです。会話から心配な状況などが疑われた場合、赤十字ボランティアは近隣の行政に連絡して救急車の手配等を支援します。さらに、サービス利用者が電話に出ない場合は、行動マニュアルに基づき、一回目の電話から90分以内に二回目、三回目の電話を掛けます。それでも、サービス利用者が電話に出ない場合は、予め登録した緊急連絡先を経由するか、警察署・消防庁と連携してサービス利用者の自宅まで駆けつけるなど、その方の無事が確認できるまで措置を講じます。

昨年(2020年)の夏は、2,493件の電話が赤十字コールセンターより掛けられ、緊急連絡先を経由して生存確認の措置に至った事例が413件、警察署・消防庁と連携して自宅を訪問した事例が32件に上りました。この活動は、同国内で高く評価され、活動を運営するボランティアの活躍に賞賛の声が集まっています。

熱中症リスクが高い人達は誰か?行動するアジア各社

本年5月、日赤を含むアジアの赤十字各社がオンラインで集まり、熱中症のリスクが高い人々や状況について話し合われました。その中では、高齢者や子どもに加えて、その地域の気候をよく知らない旅行者や馴染みの土地から離れて暮らす出稼ぎ労働者、エアコン等を持たない低所得世帯、社会的なつながりを持ちにくい単身世帯などが挙げられ、対応策が協議されました。

中国紅十字会の香港支部は、20年前からボランティアによる地域の見守り活動を推進してきました。しかし、熱波が香港で広く社会問題となると、2018年からは、夏のシーズン中に活動回数を増やし、対策を強化しています。訪問した一人暮らしの高齢者の生活環境を調査し、状況に応じて扇風機の提供やボランティアによる買い物への付き添いを行うなど、熱中症を予防するための人びとのニーズに応じたきめ細かな支援を行っています。

画像 夏季に高齢者の買い物に付き添う香港支部ボランティア©RCSC

ベトナム赤十字社では、「早期行動」をテーマに掲げ、熱波が到来する時期や場所をある程度予測した上で、①公園など公共の場におけるスプリンクラー設置など涼しい空間づくり、②熱中症予防の知識普及や健康状態のチェック、涼しい休憩スペース、冷たいおしぼりなど通行人がサービスを受けられる冷却大型バスの配車、③エアコン等を持たない貧困層の見回りと予防啓発の3つの活動を軸に熱中症予防に取り組んでいます。

画像 熱波の中、貧困世帯を見回り、健康状態を確認するベトナム赤十字社ボランティア©VNRCS

ボランティアによる貧困層の見回り活動では、近隣にボランティア拠点を設け、熱中症の疑いがあれば、直ちに救急法に基づく応急手当を講じるほか、深刻な状況では、医療機関への連絡をボランティアが行い、行政による患者の搬送につないでいます。

世界の赤十字社による熱中症予防の取り組みはいかがでしたでしょうか。冒頭でご紹介した、日本赤十字社広島県支部が作成したおよそ5分間の動画「リスさんと学ぶ熱中症の予防について」では、暑さが本格化する前に知っておいてほしい熱中症を引き起こす3つの要因とその予防について、わかりやすく解説しています。この機会にぜひご視聴ください。この動画は、アジアの赤十字各社にも紹介され、動画を視聴した参加者からは「熱波の問題や熱中症のリスクについて、地域の人々に関心をもってもらう必要があるので日本赤十字社の取り組みは大いに参考になった」などの声が挙がりました。

最後になりますが、いつも赤十字の人道支援活動に温かいご支援をいただき、ありがとうございます。今年も万全な熱中症対策と予防で夏をお迎えください。

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