職員インタビュー:コロナ禍における世界の人道危機への対応 (スイス・ジュネーブより)

今回は、2019年4月から国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)事務局に派遣されている五十嵐職員へのインタビューをお届けします。

連盟が担う人道危機への対応

 連盟は世界中に広がる192の赤十字社・赤新月社(以下、各国赤十字社)が加盟する国際的な人道団体です。主な役割は、各国赤十字社が国内で実施する人道活動をサポートすることです。また、大規模な災害などが発生した際には、それぞれの各国赤十字社が国境を越えて協力しますが、その支援の調整役も担っています。
 国によっては職員が一人だけという小さな赤十字社や、日本赤十字社(以下、日赤)のように約6万7,000人の職員を抱える大きな赤十字社まで様々ですが、「7原則」と呼ばれる赤十字共通の理念をもって活動しています。こうした赤十字のグローバルネットワークを最大限に活かすべく、連盟は世界80か国以上にオフィスを構え、国籍も職種も多様な約2,600人の職員が世界各地で働いています。
 今、連盟は新型コロナウイルスへの対応という、かつてない人道危機に挑んでいます。最近では特にインドやネパールなど南アジアでの感染拡大や医療体制の崩壊が懸念されています。この2か国だけですでに33万人以上の命が失われました。
 もちろん、人道危機は新型コロナウイルスだけに留まりません。自然災害は場所やタイミングを選ばずに発生します。先月にはコンゴ民主共和国で火山が大噴火し、およそ50万人が避難を余儀なくされています。またパレスチナとイスラエル間の武力衝突では250人以上の人々が犠牲になりました。各国の赤十字はコロナ禍であってもこれらの人道危機にいち早く対応しており、連盟もそれを多方面から支えています。
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連盟での業務とは

 私は現在、スイス・ジュネーブの事務局に勤務しています。緊急支援活動の調整とそのための資金調達が主な業務です。もちろん活動の最前線に立つのは各国赤十字社。それを現地で支えるのが連盟の地域事務所の職員。私の仕事はその地域事務所職員をさらに支えることです。具体的には現場から上がってくる活動計画書や予算の確認、医療やシェルター部門など専門職との調整、各地域をつないだ会議の実施、報告書のとりまとめなど多岐にわたります。
 また同時に、活動資金確保のため、在スイスの各国の政府代表部との交渉も欠かせません。赤十字の強みは何か、国連や他のNGOにはない強みは何かという事を常に意識しながら、赤十字への理解と協力を求めています。
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コロナ前後での変化

 コロナ禍の前から連盟が推進してきた「ローカライゼイション」(支援の主体をより現地へシフトすること)の重要性が改めて認識されるようになったと思います。何か起こった時にいち早く駆け付けられるのは、海外からの救援隊ではなくその国の人々、地域の人々です。これまでも連盟は地域に根差した赤十字ボランティアの活動強化に取り組んでいましたが、コロナによる移動制限により国外からの支援要員の派遣が難しくなり、結果として地域の赤十字が力を発揮するローカライゼーションがさらに進みました。これは持続可能性を高め、より効果的な支援にもつながります。
 また国境の封鎖等により、多くの援助機関が活動の停止や職員の国外退避を余儀なくされる中、最初から最後までそのコミュニティで活動を続ける赤十字ボランティアや職員の地道な姿は、地域住民から多くの信頼を得たものと思います。

人道危機に対応する中で、伝えたいこと

 これまで、日本で人道危機の話をすると、貧困や紛争に苦しむどこか遠い国の話、と受け止められることが多かったように思います。連盟職員として、皆様の善意を現地に届ける橋渡し役を担っている身としては、どうすればより多くの方に世界の課題を身近に考えてもらえるかが課題でした。今回のコロナ禍は、それを変える大きな機会だと思います。他方で、全ての国が同じ様にウイルスに苦しめられている中、国際支援への理解をいかに得るかということは新たな課題となりました。
 人道危機に立ち向かうことができるのは、連盟のような国際組織の支援力でも、援助団体の資金力でも、国家の政治力でもありません。一人ひとりが地域や世界の現状に目を向け、どのように行動すべきか考え続けることが、この危機を乗り越えていく力となるのではないでしょうか。