福岡県北九州市にある特別養護老人ホーム「豊寿園」が発行する、広報誌『豊かな樹』。表紙の撮影、レイアウト、原稿など全てが職員の手作りで、中でも目を引くのが、入所者の元気な頃から亡くなるまでを克明に記したコーナー「あなたと向き合った日々」です。
制作を担当するのは、介護課長の森英樹さん。介護の現場に携わる人間ならではの視点で、細やかな看取りの物語を紡いでいます。
「介護職は、“今、この方はどの支援が必要か”と常に考え続け、ご家族のフォローにも心を砕きます。だからこそ、自分の記憶に刻まれ、看取りの記事を書く際には、記憶があふれ出てくるのだと思います」(森さん)
入所される方の多くは最初から寝たきりではありません。介助なしで歩けた方が歩けなくなったり、穏やかだった人が認知症の“混乱期”になって暴れたり、身体の変化と共に表れる、その方の葛藤や望みに向き合うことも、介護の仕事です。森さんは丁寧にエピソードを紡ぎながら、大切にしていることがあります。
「自分の思いを書き過ぎないこと。ご家族が読むので、故人の姿よりも私の語りが前面に出ることは避けたい。そして、入所者の“人となり”がしっかり伝わること。介護サービスの記録記事ではありません。“認知症の〇〇さん”ではなく、子煩悩な優しい父だった、苦労を重ねた働き者の母だった、そういう人柄も伝えたい」。このために、元気な頃から、出身地や生活歴、好きだったこと、方言などを家族から聞き取り、関わりの深い職員の記憶も重ねながら、その人らしさを少しずつ集めていくそうです。これまで、70人以上を見送ってきた森さん。最期のときに県外に住む息子さんと電話をつなぎ、耳元で「お母さん」と呼びかけてもらいながら旅立たれた方。水も飲めなくなっていたのに、これが最後と、大好きなビールをスポンジに含ませて口に寄せたら、嬉しそうにゴクリ、とされた方。ありのままの看取りを書くことで、「自分の親の看取りを想像し希望が持てた」という声や、その方を担当していた在宅のケアマネジャーから感謝を伝えられることも。広報誌は、その人らしく過ごした日々を記録するとともに、家族や支援者の心にも、温かな時間を届けています。


「あなたと向き合った日々」はこちらで読めます
