12月は「NHK海外たすけあい」。人道支援に空白地帯をつくらない

ウクライナやイスラエル・ガザなどの人道危機、世界各地の大災害が大きく報道され、人々の関心を集める一方で、困難な状況にありながらも注目度が低く、支援が届きにくい国々もあります。今回はそのような国の中から、赤十字が支援を行う3つの国の状況をリポート。紛争、感染症、自然災害というそれぞれの難局と、それをサポートする人々の姿をお届けします。

01
スーダン共和国

スーダンで何が起きた?

2023年4月15日に、スーダンの首都ハルツームで内戦が勃発。2年半以上が経過した今でも収束のめどは立たず、この内戦をきっかけに、約1450万人の人々が国内外への避難を余儀なくされ、人口の約半分である3000万人以上が人道支援を必要としている。
1万校以上の学校が閉鎖、水・電力・衛生設備が寸断される中で、医療インフラへの打撃は特に深刻で、紛争の影響を受ける地域では80%以上の病院が機能不全に陥っている。その上、医療施設への攻撃が累計440件を超えるなど(2024年10月時点)、暴力行為や妨害行為も後を絶たない。
また、コレラ、デング熱などの感染症も流行しており、安全な飲料水の確保と公衆衛生の改善が急務となっている。

ICRCが支援する病院で治療を受けるスーダンの人々
©GUEIPEUR,Denis Sassou/ICRC
避難民キャンプで暮らす人々に声をかけ励ますスーダン赤ボランティアのワジダンさん

倉庫の略奪やボランティアの襲撃を受けてもなお、「忘れられた紛争」の支援を続ける赤十字

2023年の内戦により、スーダンでは15万人以上が戦闘により命を奪われた危機的状況にもかかわらず、「忘れられた紛争」と言われるほど、世界からの支援が足りていない現実があります。

国内全18州に支部を持つスーダン赤新月社(以下、スーダン赤)は、紛争初日からこれまでに、延べ9000人以上のボランティアと共に、絶え間ない人道支援活動を続けています。救急搬送や応急処置、食料や水の配布、避難支援、家族との再会支援など、約135万人に対して支援を提供してきました。2023年4月には、北ハルツームのスーダン赤支部の倉庫に何者かが侵入し、救急車両や物資が奪われる事件が発生した他、2025年にはスーダン赤のボランティア5人が活動中に襲撃を受け殺害されました。

スーダン赤のボランティアで看護師のワジダンさんは、「2023年の紛争以後、私は国民として、ボランティアとして、これまでの人生で最もつらい体験をしました」と語ります。彼女は、避難民キャンプで暮らす子どものケアや食事の配布に携わる中で、爆弾でひどいけがを負った人々の姿や、家族を失った人々が訴える悲しみなど、多くの凄惨な出来事に直面してきました。今なおその状況は続きますが、多くのボランティアが諦めることなく、この人道危機に対応しています

また、赤十字国際委員会(ICRC)では、戦傷者の治療にあたる国内88カ所の病院施設の支援や、水道の復旧支援、国内避難民に対する緊急生計支援などを行っています。ミリアナ・スポリアリッチICRC総裁は「国際社会はスーダンの民間人が想像を絶する恐怖に耐えているのに見て見ぬふりをしてきました」と批判。「民間人は残酷な攻撃や横行する性暴力、必要不可欠なサービスに対する故意の攻撃にさらされています」と指摘した上で、「スーダンの人々の運命は、この残虐行為を食い止めるための断固たる行動にかかっています。民間人が安全や尊厳を奪われ、民間人を守るべき戦争のルールが踏みにじられているのを、世界は傍観してはなりません」と訴えています。

ICRC保護要員として駐在する日本人職員・淡路愛さんは、「人道危機のスケールがあまりにも大きく、援助が追いつかないのが現状。それでも、私たちが提案する支援に喜び、涙する人々の姿が救いです」とも。一人でも多くの人がこの「忘れられた紛争」に関心を寄せることが、スーダンの人々の救済につながります。

【左】北ダルフール州で支援対象者にICRCの任務や活動内容を説明する職員(右端が淡路さん) 【右】戦闘が激化する地域ではICRCが大型バスを手配し、孤児院の300人の子どもを避難させた
02
コンゴ民主共和国

コンゴで何が起きた?

コンゴ民主共和国は、熱帯雨林や野生動物と距離が近い生活環境、水衛生インフラの脆弱さなどにより、マラリアや腸チフスといった風土病が常時まん延し、医療資源を圧迫している。
加えて、近年ではエボラ出血熱やエムポックス(サル痘)、コレラなどの感染症が短期間に急激に症例数を増やす事例も多く、深刻な問題となっている。

安全な水の確保と下水道の整備が課題
©コンゴ赤十字社
DRC赤は、水系感染症対策として、南キヴ州に複数の塩素消毒施設を設置

複数の感染症が同時にアウトブレイク ボランティア=“信頼できる隣人”が一丸となって啓発

コンゴ民主共和国(DRC)で2023年~2025年に流行した複数の感染症に対してDRC赤十字社(以下、DRC赤)および国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は、継続的な支援を行ってきました。

2025年、同国において16回目のエボラ出血熱の流行が発生。DRC赤とIFRCは、政府機関やWHOと連携し、即座に対応チームと地域ボランティアを派遣しました。ボランティアは誤った知識で地域社会が不安に陥らないよう啓発活動に尽力。DRC赤社長は彼らの活動を「単なる情報の伝達者ではなく、“信頼できる隣人”として、個別訪問で病気に関する正しい情報を共有し、住民の安心を支援した」と評価しています。

2023年に市中感染が拡大したエムポックスは、2025年には感染増加。DRC赤では、流行前から支援プログラムを通じて地域ボランティアの育成を行っていましたが、流行拡大後はその数を倍以上の700人超に増やしました。彼らは、地域内で症状を示す人を見つけ出し、保健局への通報、治療施設への案内、予防行動の啓発などを行っています。

また、2025年は全国で3万3000人以上がコレラに感染し、死亡率2%を記録しました。特に南キヴ州のロメラ村では、金鉱発見によって人口が急激に増加し、衛生環境が悪化したことで爆発的な感染が起こっています。DRC赤は、浄水設備の設置や衛生キットの配布などを実施。ワクチン接種キャンペーンも展開し、数千人に予防接種を実施するなど、地域住民への衛生教育と感染予防の啓発活動を強化しています。

イラストの説明ボードを用いて、感染症予防のための知識を伝える赤十字ボランティア
03
モンゴル国

モンゴルで何が起きた?

モンゴルでは毎冬、「ゾド」と呼ばれる大寒波(自然災害)が人々の生活に大きな影響を及ぼしている。
その発生頻度と規模も悪化の傾向にあり、モンゴル赤十字社(以下、モンゴル赤)によると、2023年~2024年の冬季は約800万頭以上の家畜(国の総数の12.5%)が死亡し、18万世帯以上の遊牧民が経済的困難に陥った。

©Mirva Helenius / IFRC
ゾドによる大寒波を乗り越える遊牧民と家畜

家畜を失った家族や豪雪から難を逃れた少年のため再起と「こころのケア」をサポートするモンゴル赤十字社

モンゴルのトゥブ県で、妻と4人の子どもと暮らすスフバータルさんは、2023年11月のゾドで、貴重な財産であり生計手段でもあった家畜の92%を失いました。元々育てていた家畜400頭のうち生き残ったのはわずか30頭で、暮らしは困窮。この家族の状況を知ったモンゴル赤は、すぐに職員が心理社会的支援の提供を開始し、「再び立ち上がれる」という励ましと「こころのケア」を続けました
雪が落ち着いた後は家を訪問し、家計の再建も後押し。新たな手段で収入を得るために必要な機材や物資の支援に加え、実際に収入を増やすためのレクチャーを行いました。その結果、一家は地域の注文を受けて乳製品を販売する小さな酪農事業を始め、少しずつ回復と再生の道を歩んでいます。

豪雪で知られるバヤンハイルハン郡に住む遊牧少年・ビャンバツォグトさんは、2024年2月、家族同然の羊たちの様子を見に出かけた際に、雪嵐に見舞われました。家へ帰ることができないまま日が暮れ、気温は氷点下35度に。羊の群れも吹雪で流される中、少年は群れの中に座ることで必死に寒さをしのぎました。
そばに寄り添っていたヤギが、彼が眠りにつかぬよう一晩中角で突いて起こし続けたこともあり、翌朝、無事救助隊によって救出。モンゴル赤は少年の家庭を訪問し、心身ともにダメージを受けた彼と家族に対して「こころのケア」を行うと同時に凍傷や低体温症の応急手当をレクチャーしました。天気予報や安全情報を確認する方法について助言も。少年は命を救ってくれたヤギと羊たちと共に、生活を続けています。

赤十字からの支援で入手したクリーム分離機で販売用バターを作るスフバータルさんの妻

「NHK海外たすけあいキャンペーン」は12月25日(木)まで!

日赤とNHKは、例年12月に支援を必要とする海外の国々のための募金キャンペーンを実施しています。これまで支援した国、地域は世界170カ国。今回は、「人道支援に空白地帯をつくらない。」をテーマに、集められた寄付は世界各地で紛争、災害、病気などにより苦しんでいる人々を支援するとともに、人びとのレジリエンスを高めるための活動に役立てられます。