【WORLD NEWS】台湾東部洪水被害 救助に奔走する、赤十字ボランティア

2025年9月下旬、超大型の台風18号が台湾南部に接近。台風に伴う大雨により、台湾東部の花蓮県では大規模な洪水が起こるなど、深刻な被害が発生しました。2024年4月の台湾東部沖地震でも大きな被害があり、復興に向けて歩みを進める中で、2度目の被災。現地から被災者支援の状況と、今回も勇猛果敢に活躍した救助ボランティアの姿をリポートします。

台湾ってどんなところ?

東アジアの太平洋上に位置し、人口約2340万人が暮らす。2011年の東日本大震災や2024年の能登半島地震など、過去の日本の災害において、多くの義援金などで被災地の復興を支えたことでも知られる。花蓮県は、台湾でも人気の観光地だったものの、昨年4月の大地震の影響で景勝地・太魯閣渓谷も閉鎖され復興に時間を要するなど、観光産業も打撃を受けている。

せき止め湖が決壊 一瞬にして泥水に飲まれた街並

台湾花蓮県は、昨年の4月に台湾東部沖沿岸で発生したマグニチュード7.4の大地震の影響で、観光地の太魯閣(タロコ)渓谷が大規模な地滑りと落石を起こして閉鎖された他、建物の倒壊や土砂災害によって18人の犠牲者と1100人以上の負傷者を出すなど、大きな被害を受けました。

地震から1年以上経過し、懸命な復興活動が続けられている最中、今年9月22日から23日にかけて、大型台風18号が台湾南部を通過。
それに伴う大雨の影響で、23日午後3時頃に県内の河川・馬太鞍渓(ファンタアンけい)の上流にあるせき止め湖が決壊し、推定6000万トンの水がいっきに下流へ押し寄せました。大量の泥水が堤防を越えて下流の地域を襲い、馬太鞍渓橋を崩壊させ多くの住民が逃げきれず、家屋に取り残される危機的状況に。このときの様子を、「まるで津波のようだった」と住民は話します。

台湾赤十字組織(以下、台湾赤)は、知らせを受けて直ちに緊急対応を開始。花蓮県の救助ボランティアの隊員15人が3隻のゴムボート、5台の車両に分かれて被災地へ向かいました。ボランティアとして、日ごろから訓練を重ねる精鋭揃いの救助隊は、同日夕方には被災地に到着し、消防本部から得た行方不明者リストを元に捜索を行い、91歳の高齢女性をはじめ、次々と被災者の救命に成功。深夜3時まで捜索を続け、翌朝8時には再び任務に当たるなど、1人でも多くの命を救うために懸命の救助活動を行いました。

また、台北からも、台湾赤職員と水上安全ボランティア7人の支援隊が2艇のモーターボートを積んで花蓮県へ急行。ボランティアたちは救助隊と協力し、家屋の2階以上に取り残された住民の救出に当たりました。

2階に閉じ込められた高齢者を救出する救助隊

泥水が急激に上昇したため、多くの住民は靴を履く暇もなく裸足で避難。特に高齢者は、泥に足を取られて歩行すら困難な状況。赤十字ボランティアたちは、そのような高齢者や住民らを支えながら歩行を助け、ときには背負って安全な場所まで運びました。

救命救助のみならず、物資支援も即時に開始。発災当日には、緊急避難所となっている小学校に寝袋100個、衛生キット66セット、毛布200枚をいち早く届けました。その後も、9月27日までに寝袋267個、日用品セット126組、毛布500枚、寝具マット450枚の物資を配布するなど、被災者のニーズに合わせた支援を続けています。

現場は泥だらけで、高齢者はほとんど動けない状態。ボランティアが高齢者たちを背負って避難を手伝った

病院に運ばれた人々を訪問 寄り添いながら共に復興へと

救助された人の中には、一命は取り留めたものの、深い傷を負った人もいます。台湾赤職員は、発災2日目に被災者が入院する病院を慰問しました。

若い頃の事故の影響で下半身麻痺となり、長年寝たきりで生活していた黄さんは、洪水時に息子が背負って2階に避難。命は助かりましたが、その後、家は全壊し、この先の生活や介護の面で大きな不安を抱えています。
病院に見舞いに訪れた娘に「叔父(黄さんの弟)の家も流された」と伝えられた際は、実弟が流されて亡くなったと勘違いし、錯乱状態に。度重なる苦悩によって、精神的にも不安定な状態に陥っています。

高齢の呂さんは、地方自治体で働く息子と2人暮らしでしたが、災害発生時、息子は緊急対応で1人での避難を余儀なくされました。息子から「上階に避難して!」と電話があり、震えながら階段を上って避難し、救助隊によって避難所に搬送。
避難所でストレスを抱えた人から「あなたは孤独だ。誰もそばにいてくれない」という心ない言葉を投げかけられ、深く傷つき、入院してからも気持ちが落ち込んでいましたが、慰問した台湾赤職員からの「あなたの息子は英雄です。そばにいてあげられないのは、もっと多くの人を救うためですよ」という言葉に涙し、笑顔と誇りを取り戻しました。

入院先への慰問と激励を喜び、台湾赤職員との記念撮影を希望する被災者も

地震からの復興の道半ばで襲った洪水は、台湾に再び多くの喪失と傷をもたらしました。街も人々も元気を取り戻すにはまだまだ道のりは長いかもしれませんが、赤十字はこれからも被災者に寄り添い、支援を続けていきます。

地震の際に活躍した救助ボランティアの
ストーリーをご紹介します