【WORLD NEWS】届け、核兵器廃絶への思い

広島、長崎に原爆が投下されてから80年。今年3月にはアメリカ・ニューヨークで第3回核兵器禁止条約(以下TPNW)締約国会議が開かれ、6月には被爆治療に尽力したスイス人医師マルセル・ジュノー博士に、広島市から特別名誉市民の称号が贈呈されるなど、国内外でさまざまな動きが見られます。今回は、核兵器のない世界を目指す赤十字の国際的な取り組みをご紹介します。

ICRC駐日首席として来日し、広島の被爆者治療に力を注いだジュノー博士

ジュノー博士が来日したのは、1945年。広島に続き、長崎に原爆が投下された8月9日のことでした。当初の目的は、赤十字国際委員会(ICRC)の駐日首席代表として、連合軍捕虜などの処遇を調査し、終戦時における彼らの帰還に備えることでした。
しかし、原爆被害の惨状を知った博士は、すぐさまGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)への救援を要請。約1カ月後には、15トンの医薬品を持って自ら広島入りし、被害調査と診療に携わりました。彼の尽力により救われた被爆者は数万人とも言われ、「ヒロシマの恩人」として今も慕われています。

また、帰国後も核兵器の非人道性を訴え、日本で目の当たりにした原爆の無慈悲さを広く世界に伝えました。今年6月15日、広島市内で開催された特別名誉市民の贈呈式には、息子・ブノワさんが出席し、「広島と長崎の悲惨な経験を繰り返してはなりません」というメッセージが紹介されました。

1945年の終戦頃、東京都・捕虜情報局を訪問したジュノー博士(右端)

第3回TPNW締約国会議では核実験被害者による悲痛な訴えが

核兵器のない世界の実現を目指し、2017年7月7日には、国連本部で122カ国の賛成の下、TPNWが採択され、2021年から発効されています。これは、核兵器の開発、実験、製造、保有、使用、使用の威嚇を全面的に禁止する国際条約です。条約前文では、核兵器廃絶をめぐる赤十字の貢献についても触れられており、赤十字は締約国会議などへのオブザーバー参加が認められています。

今年3月に米・ニューヨークの国連本部にて開催された第3回締約国会議には、日赤からも2人の職員が国際赤十字・赤新月社連盟の一員として参加しました。出席者の1人、国際部・篠﨑順治さんは、こう語ります。

「今回の会議には、カザフスタンやキリバスから、第2次世界大戦が終わった後に行われた核実験の被害者も参加していました。
広島や長崎の被爆者は、現在の平均年齢が86歳で、幼少期に原爆の投下を体験している人がほとんどですが、核実験の被害者たちは、多くが40〜50代。自分たちの中に鮮明な記憶として原爆の恐ろしさが刻まれている人々の言葉を、参加者は皆、強い危機感を持って受け止めていました」
カザフスタンのセミパラチンスクには、ロシアの核実験場が1949年から1991年まで存在し、1960年代ごろから、がんや先天性疾患など、放射線の影響と思われる健康被害が出始めました。一方、キリバスでは、イギリスが1957年から2年間で9回、アメリカが1962年に24回の核実験を行い、多くの人が健康被害を訴えています。
「TPNWという条約を、そもそも知らない人も多いのではないかと思います。『世界には、核兵器を禁止する条約があり多くの国が批准している』という事実を知ってもらうだけでも、核兵器に対する認識が変わるのではないかと思っています」(篠﨑さん)

TPNW締約国会議後の4月には、同会議にもオブザーバーとして参加したことがあるアメリカ赤十字社(以下、アメリカ赤)の国際人道法上級法務官トーマス・L・ハーパーさんが広島を訪れ、平和記念資料館を訪問した他、被爆者から直接、被爆体験を聞く機会が設けられました。

「彼は、アメリカ赤がユース約1500人に向けて、一昨年から1年にわたって行ってきた『核兵器と武力紛争』のプログラムで、若者たちに教える立場にいた人です。法務官でもあり、彼自身も法律的な観点で核兵器について調査してきたこともあり、今回被爆者と直接対話できたことは、新たな気づきになったのではないでしょうか」(篠﨑さん)

広島平和記念資料館(原爆資料館)を見学するアメリカ赤の職員たち

“知る”から始める核兵器のリスク啓発 日赤とアメリカ赤の取り組み

アメリカ赤のユースに向けては、今号特集でもインタビューが掲載されている朝長万左男さんによるオンラインセッションが開催されたことも。同席した篠﨑さんは、アメリカの若者たちの印象をこう語ります。

「ひと昔前のような、『原爆投下は正義だった』という認識を持っている様子は見られませんでした。時代を経て、知識を得ることで、『核兵器は非人道的なものだ』という認識にリセットされていると感じました。
アメリカ赤の広島訪問時に被爆体験を語ってくださった小倉桂子さんも語られていましたが、『まずは知識を得ることが大切で、そこからどうアクションを取っていくかは、それぞれが考えていくこと』なのです。アメリカ赤を含む各国赤十字社がこの先も核兵器のリスクについて若者に伝える活動を行っていく中で、私たちも引き続き力になれればと思っています」

日赤広島県支部での被爆者の講演会後に、アメリカ赤ユースボランティアの活動報告をするハーパーさん

原爆投下から80年を迎えるにあたり、8月6日には、ICRCミリアナ・スポリアリッチ総裁と日赤清家篤社長が共同声明を発表。赤十字として、改めて、核兵器廃絶に向けた決意を伝えるメッセージを日赤WEBサイトでご覧ください。