被災者3300万人のために救援物資を調達〜パキスタンの洪水災害〜 【 WORLD NEWS 】

洪水にのみ込まれた被災地を見つめる家族

豪雨と洪水で国土の3分の1が“水没”。
220万棟近い家屋が損壊、今なお800万人が避難生活を余儀なくされているパキスタン。
これから冬を迎える同国の救援物資の調達業務に従事する日赤職員から話を聞きました。

避難生活を送る800万の人々
支援に生かされた日赤の備蓄テント

WN_991_02.pngIFRCアジア大洋州地域事務所
調達担当
寺尾のぞみ

2022年6月中旬から2カ月間続いた豪雨とそれによる洪水のため国土の3分の1が水没。パキスタン政府は「国家非常事態」を宣言しました。洪水により、640人の子どもを含む1700人以上が犠牲となり、今なお800万人もの人々が避難生活を余儀なくされています。

一連の水害による被災者は3300万人に上ります。そして発災後に深刻化したのが感染症です。衛生環境の悪化により、マラリアやデング熱といった水・蚊が媒介する感染症やコレラも流行。そのため、パキスタン赤新月社は巡回診療や保健衛生活動に注力したほか、国際赤十字のサポートのもと、11の浄水場を設置して毎日18万リットル以上の安全な水を供給しています。また11月中旬までに58万人以上の被災者に必要な支援を届けています。

日赤では、マレーシアに備蓄している海外救援物資から、2000枚のブルーシートと923張の家族用テント(計約3100万円相当)を、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)を通じてパキスタン赤新月社に寄贈しました。

マレーシアの首都・クアラルンプールにあるIFRCのアジア大洋州地域事務所に派遣されている日赤和歌山医療センターの寺尾のぞみさんは、救援物資の調達担当としてパキスタン支援に携わっています。「特に家族用テントはこれまでの支援では経験のない量が求められており、備蓄や寄付だけでは賄えないことから現在も調達を急いでいます。とはいえ、製造に必要な天然ガスが不足しているため、予定より調達が遅れているのが現状です。一刻も早く、一人でも多く救っていかなくてはならない状況の中で、日赤からの寄贈は役に立てたと思います

エアバス社が救援物資の運搬を無償協力。寺尾さんらIFRCスタッフは物資が飛び立つのを見送った

一刻も早く届けたい!
飛び立つ救援物資に、感無量

迅速な物資調達が求められる中、寺尾さんが痛感したのがパキスタン政府の輸入品規制の壁だったと言います。
「IFRCの倉庫では緊急支援に備えて、特に需要の高い毛布や蚊帳などは常に備蓄をしています。ところがパキスタンでは、いくつかの国の製品の持ち込みを厳しく規制しており、今回の初動支援で特にニーズの高かった蚊帳の備蓄品をパキスタンに輸入するには2~3カ月かかることが分かりました。私たちのチームは備蓄品の展開を諦め、パキスタンの製造業者と新たに契約をして手配することを決めました」

IFRCが物資の提供業者と契約を締結するまでには、入札や見積もり、品質テストなど、多くの過程を必要とするため、調達物資の総額と品目にもよりますが平均1 カ月程かかります。

物資調達のプロセスには皆さまからお預かりした大切なご寄付を、不正なく適切に扱うために透明性を確保した手順とそのための時間が必要です。しかし被災地で苦しい状況下に置かれている人々のことを思うと、早く対応したいというジレンマを感じました。焦燥感を抱えながら必死に調整や交渉を行っていた中で、物資が飛行機に詰め込まれる場に立ち会ったときには感慨深く、胸がいっぱいでした」

IFRCでは被災規模の大きさと支援の長期化を見込み、支援資金の増額を発表しました。12月に実施される「NHK海外たすけあい」募金の一部も、この支援に活用される予定です。