ウクライナ
人道危機救援
2022年2月以降、ウクライナ各地で戦闘が激化。日々、子どもを含む死傷者が多数報告され、多くの人びとがウクライナ西部及び周辺国(ポーランド・ハンガリー・スロバキア・モルドバ・ルーマニア・ロシア・ベラルーシ)やその他の国々に避難するなど極めて深刻な人道危機が起こっています。
未だ続く戦闘により、一般市民の命は危険にさらされ、インフラや経済は混乱。避難民を受け入れる地域でも、医療体制のひっ迫や食料安全保障の状況悪化などが報告され、紛争が中長期化すると共に人道支援のニーズは高まり続けています。
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国際赤十字は「ヨーロッパ最大級の人道危機」と呼ばれる同危機に対し、緊急の「救援活動」に加え、中長期的な「復興支援」も視野に、懸命に活動を続けています。
日本赤十字社は、資金援助に加えて、ロジスティクス要員、薬剤師、こころのケア要員、放射線技師等、多岐にわたる人材をウクライナ及び周辺国に派遣し、この人道危機に対応してきました。今後、増大し、複雑化することが予測されるニーズに対し、中長期的な視点での支援を拡大していく予定です。2022年8月中旬には、日本赤十字社から医療アセスメントチームを派遣し、ウクライナ西部のリヴィウのリハビリテーションセンターの改修・拡充の支援について医療的視点から調査・協議を行いました。日本赤十字社の強みである保健医療の分野を中心に、引き続き支援を実施していきます。
主な支援活動の実績
保健医療支援
ウクライナ国内やハンガリーの国境付近における仮設診療所での診察や、ウクライナ国内における巡回診療車を使った医療のアクセスが難しい地域への医療など、71万8,000人に保健医療を提供しました。
給水衛生支援
攻撃によって破壊された水供給システムの復旧やパイプ、水タンクの修理支援を行い、800万人に安全な水を提供しました。
心理社会的支援
ウクライナ及び周辺国や避難民を受け入れている国で心理社会的支援(こころのケア)の活動を36万8,000人に対して実施しました。紛争で非日常の体験をしている避難民の方々の精神的・身体的な健康を守るために、各地で子ども向けの遊び場(チャイルドフレンドリースペース)や必要な時に避難者の方が電話できる「こころのケアホットライン」などが設けられています。
物資支援
500万人以上に生活に必要な物資(石鹸やトイレットペーパー、子どものおむつなど)や食料、水や衣服、SIMカードなどを配付し、人びとが生活するための基本的なニーズに対応してきました。
現金給付
62万6,000人に対して、現金給付が実施されました。これは、避難民に対する当面の生活支援金とするものが大半ですが、特定の目的のための支援金、例えば家屋の修繕費用としての給付なども検討されており、今後は中長期的なニーズに対する現金給付支援が本格化する予定です。
※国際赤十字全体
(上記、数字は2022年7月末までのもの)
バングラデシュ
避難民支援
2017年8月にミャンマーのラカイン州で発生した暴力行為の結果、バングラデシュに逃れた人びとが避難民キャンプでの生活を送っています。5年以上が経過した今も解決の兆しはなく、90万人の避難民を取り巻く社会及び生活環境に大きな改善は見られません。避難民の支援ニーズは依然高い状態が続いています。
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日本赤十字社では、2017年9月から緊急医療救援を行い、2018年5月からはバングラデシュ赤新月社とともに保健医療支援事業を実施しています。人びとの心と身体の健康を保つため保健医療サービス等の提供を行っています。切れ目のない支援活動を継続し、日本赤十字社からは医師、看護師等を派遣しています。
主な支援活動の実績
診療活動
延べ26,531人を診療し、人びとの健康を支えました。
母子保健活動
産前産後健診を1,529件、乳幼児健診を192件、家族計画カウンセリングを1,167回実施し、妊産婦の健康の維持と子どもの健やかな成長を支えました。
地域保健活動
衛生や栄養、疾病予防などに関する啓発活動を計5,125回実施し、延べ21,327人の避難民が参加しました。また、避難民ボランティアが戸別訪問を52,827回実施し、新型コロナウイルス感染症の予防方法や応急手当法を伝え避難民の感染症予防や健康維持に寄与しました。
こころのケア活動
※2021年度
中東地域
レバノン、シリア、イラク、パレスチナ、イエメンほか
紛争犠牲者支援
2011年にシリア紛争が始まって以来、隣国レバノンでは現在でも150万人とも言われるシリア難民が避難生活を送っています。その多くは収入不足のために住居を確保できず、非公認居住区で暮らしています。非公認居住区は都市部から離れている場合が多く、一般的な支援の対象外となりがちです。
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日本赤十字社は現地レバノン赤十字社と協力し、2015年から2020年の6年にわたって、各戸へのトイレ設備設置など、非公認居住区に暮らすシリア難民の水・衛生環境の改善に取り組んできました。紛争の長期化やレバノン国内の政治・社会の混乱、経済破綻などの複雑な状況下、難民の生活は窮状を極めています。2021年には燃料、電力、医薬品の不足などのさらなる問題も浮上し、シリア難民に対する支援ニーズが今後も増していくことは明らかです。長期化する人道危機の中で支援の在り方も多様化しています。日本赤十字社は、これまでの水・衛生分野での支援を継続する一方、子どもや女性など、より脆弱な立場に置かれやすい人びとに対するアプローチを強化していきます。
主な支援活動の実績
対象50世帯への水・衛生用品の配布、水・衛生設備の敷設を完了しました。
対象地区7学校への水・衛生設備の敷設を完了しました(1,340人に裨益)。
ホストコミュニティのために河川堤防を設置しました。河川はシリアとの国境沿いにあり、堤防は洪水からシリア難民とその地域のレバノンの人びとの命と生活を守ります。
レバノン南部での皮膚感染症の発生報告を受けての啓発キャンペーンを実施しました。この中で新型コロナウイルス感染症に関する啓発活動も行われました。
※2021年度
世界からのありがとう
「3歳の息子と足を骨折した母を連れて避難しました。食べ物も服も何もなく、孤独で恐ろしかったですが、赤十字の方が家族のように迎え入れてくれました。息子は赤十字ボランティアのサーシャさんと遊ぶのが大好きです。私たちを支援してくれるすべての人にありがとうと伝えたいです。」
「私には幼い子どもが2人います。2歳と1歳の男の子です。赤十字の診療所に初めて来たのは1週間前です。近所に住む親戚の女性が『いい診療所だよ、私の子どもが病気の時も親切に診てくれた』と勧めてくれたので来ました。ここでは安心して助産師さんに相談できます。」
アフリカ地域
食料危機
干ばつなどの気候変動の影響やコロナ禍で悪化した社会経済状況に加えて、ウクライナ人道危機による食料供給の不安定化がアフリカの食料危機に拍車をかけています。ロシアとウクライナを合わせると、両国は小麦の世界シェアの約 30 %を占めており、特に、東アフリカは小麦の輸入の 90 %を両国に依存しています。
国際赤十字・赤新月社連盟の報告によると、サハラ以南のアフリカ(サブサハラアフリカ)では日本の全人口を超える1億4,600万人もの人びとが深刻な食料不足に陥って緊急の人道支援を必要としていると言われています。
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2022年9月、国際赤十字はアフリカの食料危機に対する関心を高め、対応をより強化するために、深刻な被害を受けているアフリカの国々へ支援国赤十字社の代表を派遣し、その視察結果に基づき支援戦略会議を開催しました。日本赤十字社の職員はナイジェリアとケニアをそれぞれ訪問し、今後の支援強化に向けての協議を行いました。
これらの協議を経て、国際赤十字・赤新月社連盟及びアフリカの被災国赤十字社は、食料危機への対応を強化するために、総額2億スイスフラン(約300億円)の緊急救援要請を発出しました。2023年12月までに最も危機的な状況に置かれている14か国(ソマリア、ケニア、エチオピア、スーダン、南スーダン、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、マリ、コンゴ民主共和国、カメルーン、アンゴラ、ジンバブエ、マダガスカル)の760万人を対象とするものです。特に支援を必要とする人びと(例えば、最貧困世帯や子どもが家長の世帯等)を対象に、様々な目的に使える現金の給付や緊急時の食料生産の道具の提供、特に栄養失調状態にある子どもへの調査と彼らへの食事の提供、栄養に関する啓発活動等を実施します。
日本赤十字社は、緊急支援要請に資金拠出をする一方で、南部アフリカを中心に、特に脆弱な環境下で暮らす孤児や貧しい家庭への教育支援や食料自給を促す家庭菜園など、人びとのレジリエンス強化にかかる開発協力を続けてきました。深刻化する食料危機への緊急対応に加え、地域社会の人びとの自助・共助に向けた開発協力のアプローチにも取り組んでいます。
主な支援活動の実績
エチオピア、ニジェール、アンゴラに対し、計1500万円の緊急資金援助を実施
アフリカ地域14か国(ソマリア、ケニア、エチオピア、スーダン、南スーダン、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、マリ、コンゴ民主共和国、カメルーン、アンゴラ、ジンバブエ、マダガスカル)に対し、計3,000万円の緊急資金援助を実施
※2022年度
パキスタン
洪水対応
2022年6月中旬から約2か月間パキスタンで降り続いた豪雨は、同国の半分以上の地域で大規模な洪水被害をもたらしました。人口の15%にも及ぶ3,300万人が被災し、1,700人以上が命を落としたとされる今回の大災害。深刻な水没被害により、多くの人びとが家屋への影響を受け、住む場所を失いました。家屋の被害は11月8日時点で220万戸以上と報告されており、冬を前に早急な家屋修繕や、家族用テントの配付、住宅再建支援等が急がれています。
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国際赤十字・赤新月社連盟は、4,000万スイスフラン(約58億4,000万円)の緊急救援要請を発出しており、これに対し日本赤十字社も資金援助を行っています。この資金は、避難支援、保健・医療支援、給水・衛生および衛生促進のような基本的なニーズの対応や、生計支援などを通じて、最も被害を受けた地域を支援するために活用される予定です。また、日本赤十字社がマレーシアに備蓄している海外救援物資の一部、2,000枚のブルーシートと923張の家族用テント(計約3,100万円相当)を、国際赤十字・赤新月社連盟を通じてパキスタン赤新月社に寄贈しました。こうした救援物資は、家をなくした被災者などに優先して配付されます。
主な支援活動の実績
20,818基のテントを配付。145,000人以上が利用。
13の巡回診療所、17の医療施設、及び継続的な応急処置の支援を通じて、44,000人以上に医療支援を提供。
250,000人以上に救援物資を配付。(24,634個の食料セット、13,944食の温かい食事、33,371張の蚊帳、30,310個の衛生用品キット、78,532個の毛布や調理器具等の日用品)
11の浄水施設を設置。37,400人に安全な水を供給。
※国際赤十字全体(上記、数字は2022年10月末までのもの)
世界からのありがとう
「以前は食料を買うことができず、一日に三度の食事もままならない状況でした。赤十字の支援を受けて私たちの生活は良くなりました。食事をとることができるようになったのです。支援を受けることができ、とても嬉しく、感謝しています。」
ルワンダ
気候変動等 レジリエンス強化
ルワンダは1990年代の内戦が終結して以降、急速な経済発展を遂げており、「アフリカの奇跡」と呼ばれています。一方で、人口の8割が暮らす農村部では、高い貧困率、社会インフラの未整備による安全な飲料水やトイレの不足、感染症、そして気候変動の影響による自然災害といった複合的な社会課題に直面しており、首都キガリとの著しい経済格差が生じています。
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日本赤十字社は2019年、ルワンダ赤十字社と連携し、災害や貧困に苦しむ人びとへの支援事業を開始しました。本事業では、住民が主体となって地域の様々な課題に取り組む「モデルビレッジアプローチ」という手法を用い、「レジリエンス=自ら立ち上がる力」を高めます。具体的には、水・衛生環境改善、環境・緑化対策、生計支援、持続性強化の4つの分野で活動を実施しています。
主な支援活動の実績
車両にスピーカーを搭載したモバイルラジオが村々を周回し、地域の住民に感染症予防対策などの啓発を行いました。
貧困世帯を対象として衛生的なトイレ建設を支援し、101世帯のトイレ建設と、75世帯のトイレ補修工事が完了しました。
貧困世帯に対する生計手段や食料資源の利用を支援する目的で、家畜(ウシ、ヤギ、ブタ)の配布を開始し、192の家畜小屋の建設を支援しました。住民は家畜飼育研修も受けており、今後繁殖により産まれた子の家畜は他世帯に配布をする予定です。
アフガニスタン
気候変動対策
アフガニスタンは、1970年代から続く紛争によって政治・経済・インフラが壊滅的な被害を受けたことに加え、近年は、気候変動がもたらす自然災害の影響が深刻化しています。特に、深刻さを増す干ばつと繰り返す洪水は、国民の8割が従事する農業の土地と家畜を奪い、家屋、公共インフラ、道路等、人びとの生活に甚大な影響を及ぼしています。アフガニスタンの1980年から2015年までの自然災害による死亡者数は100万人あたり1,150人と、低所得国に分類される国々の中で2番目に多いことが報告されています(世界銀行)。
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日本赤十字社は2020年7月から、国際赤十字と協力し、アフガニスタン赤新月社が主体となって行う5カ年の事業を開始しました。本事業は、干ばつや洪水の被害を強く受ける地域において、災害時対応計画の策定をはじめとする「防災・減災活動」と、生計手段の強化・多様化から気候変動への適応を図る「生計支援活動」の2つの活動を通じ、対象地域の各村落とそこに暮らす人びとのレジリエンス強化を目指しています。
主な支援活動の実績
アフガン赤職員、
事業スタッフへの研修
アフガニスタン赤新月社職員及び事業スタッフを対象とした3日間の研修を首都カブールにて開催しました。事業地域の多様性に目を向け、地域の人びとに根ざした事業づくりの利点についてグループワーク等を通じて学びました。研修の最後には、投書箱の設置や定期集会の開催等、各参加者が地域住民の声を聞き取り事業に反映させていく具体案を作成し、各事業地へ持ち帰り同僚と協議した上で最終化することとなりました。
食料配付支援
2021年8月に同国で起こった政変は、経済活動や国際社会からの支援を滞らせ、以前から深刻化していた食料危機に拍車をかけることとなりました。事態の深刻化を受けて、日本赤十字社はアフガニスタン赤新月社、国際赤十字・赤新月社連盟と協議し、予定していた本事業の活動を、対象地域において最も必要とされていた食料支援に変更しました。物価の高騰等を受けて隣国パキスタンでの食料調達に切り替えながら、ヘラート州の900世帯、サマンガン州の600世帯に対し食料配付を実施しました。
世界からのありがとう
「4年前に息子夫婦をHIV/AIDSで失い、4人の孫を育てることになりました。孫たちは皆、小学校に通っておりお金がかかる時期ですが、赤十字からもらったヤギのおかげで、そこから得られる収入で孫たちの教育費を出せるようになりました。」