子どもたちにとって「いつでも帰ってこられる場所」を目指して(松江赤十字乳児院)

 夏休み真っ只中の7月29日。松江赤十字乳児院では、「おかえりなさい会」が開かれました。
 
 この会は、かつて乳児院で過ごし、現在は児童養護施設などで生活している小学生から高校生までの子どもたちが、夏休みを利用して乳児院を訪問し、当時の担当職員や在籍児と交流するイベントです。
 このイベントには、乳児院を巣立った子どもたちに、自分が多くの人に大切に育てられてきたことを感じてもらいたい、そして退所後も自分を応援してくれる人がいることを伝えたいという職員の思いが込められています。
 一昨年度に行われた秋田赤十字乳児院の取り組みに共感した職員が、「当院でも開催したい」と企画し、昨年度から始まりました。

 今年度は7年ぶりに乳児院を訪れる子どももいて、職員たちは「どんな表情で来てくれるだろう」「また来たいと思ってもらえる1日にしたい」と、少し緊張しながらも子どもたちとの再会を心待ちにしていました。

■変わらない絆を感じる「おかえりなさい会」

 当日は、小学校1年生から6年生の8名が乳児院を訪れました。
 乳児院のドアが開くと、子どもたちは緊張した表情を浮かべていました。職員たちは「大きくなったね!」「何年生になったの?」と頭をなでたり肩をたたいたりしながら次々に声をかけ出迎えました。
 昨年度に続いて参加した子から「また来たよ」と元気な声が上がる一方、久しぶりの再会に少し照れくさそうな様子の子もおり、いろいろな気持ちが入り混じるなか、「おかえりなさい会」はスタートしました。
 はじめは自由時間で、子どもたちは当時受け持っていた職員(以下、担当職員)と一緒に乳児院を巡りながら、自分が過ごした部屋を「なんとなく覚えている」と懐かしそうに見渡していました。思い出の部屋では、担当職員へ手紙を渡す姿も見られました。手紙を受け取った職員のうれしそうな表情に、子どもたちも自然と笑顔になり、再会を楽しみにしていたお互いの気持ちが伝わる場面でした。
 昨年度も参加した子どもたちは、すぐに「赤ちゃんを抱っこしたい」と保育室へ向かいました。「かわいいね」と優しく抱っこしたり、ミルクをあげたりする姿に、職員たちは成長を感じていました。職員から「○○ちゃんもこんな小さな赤ちゃんだったんだよ」「みんなに愛されて育ったんだよ」と声をかけられると、子どもたちはうれしそうに耳を傾けていました。
 その後は、風船割りや缶積みゲームに挑戦しました。担当職員と協力しながら取り組むゲームは大いに盛り上がりました。会場は笑い声に包まれ、最初はぎこちなかった子も、気が付くとすっかり打ち解けていました。

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赤ちゃんを嬉しそうに抱っこする子ども

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声をかけ合いながら協力する姿に、職員も頼もしさを感じます

 たくさん話して遊んだあとは、みんなで栄養士や調理師手作りのカレーライスを食べながら、夏休みの宿題や好きな食べ物の話で盛り上がりました。食後には、子どもたちが持参した乳児院時代のアルバムを広げ、思い出話に花を咲かせます。乳児院で作られたアルバムは、子どもたちにとって今も大切な宝物です。「顔、そのまんまだ!」「身長伸びたね」と、写真を指差しながら楽しい時間を過ごしました。
 イベントの後半には、「抱っこして」と職員に甘える姿も見られ、到着したときの緊張した様子が嘘のように、乳児院で過ごしていた頃と変わらない関係がそこにはありました。
 そして迎えたお別れの時間。「またいつでも遊びに来てね」「応援しているからね」「また来るね」。そんな言葉を交わしながら、ハイタッチやハグで別れを惜しみました。乳児院を後にする子どもたちの表情には、満足そうな輝く笑顔があふれていました。
 子どもたちを見送った後、職員たちは「去年よりたくさん話していたね」「表情も柔らかくなっていたね」と、成長した姿をうれしそうに振り返りました。

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「この公園行ったね」と思い出の場所をアルバムで振り返るあたたかいひととき

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ありがとうの気持ちをこめて、職員に手紙のプレゼント

■「おかえりなさい会」に込めた思い

 「久しぶりに会ったらみんな上手に話していて、赤ちゃんだったころを思い出しその成長に驚きました。」そう話すのは、この「おかえりなさい会」を立ち上げた保育士です。

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「いつでもみんなの味方です」職員全員の思いを言葉にして子どもたちに伝えました

 イベントの終了後、改めて「おかえりなさい会」に込めた思いを聞きました。
 「当院では“愛されていたことが心の底に残るように”との理念のもと養育を行っています。この会を通して、自分はこんなにもかわいがられて育ったんだ、愛されていたんだと実感してもらうことで、自分を肯定する気持ちにつながり、乳児院が心のよりどころの一つになればと思っています。
 乳児院は困ったときに相談してもよい、頼ってもよい場所であってほしいという思いもあります。担当職員をはじめ、みんながあなたのことを応援しているよ、いつも見守っているよということを伝えたいです。
 また、毎年こうして帰ってくる機会があることで、乳児院とのつながりが切れることなく続いていきます。将来、自身の子育てに悩んだときなどに相談に来てもらえるような、帰りやすい場所でありたいと思っています。そのような存在があることは、家庭的養護を必要とする子どもたちにとって大切なことだと感じています」と話していました。

■子どもたちの“心のふるさと“を目指して

 松江赤十字乳児院では、「おかえりなさい会」のほかにも、里親家庭で生活する子どもたちやその家族との交流の場である「ひまわりネットの会」も開催しています。
 そこには、乳児院を巣立った子どもたちとのつながりを大切にすることで、子どもたちにとって乳児院が"いつでも帰ってこられる場所"であり続けたいという願いが込められています。
 実際に、成長した子どもたちがランドセル姿を見せに訪れたり、里親家庭で育った子どもが人生の節目に当時の担当職員へ相談に訪れたりすることもあります。

 また、日本赤十字社が運営する他の乳児院でも、同様に、乳児院で育った子どもたちとの交流会や、将来子どもたちが自分の生い立ちを振り返ることができるように記録を残す取り組みなどを行っており、安心して相談できる関係づくりや、つながりを絶やさない支援を続けています。

 乳児院で過ごす時間は人生のほんのわずかな期間ですが、幼い頃に受けた愛情や、自分を大切に思ってくれる人がいるという実感は、子どもたちの心の支えになり、前向きに生きる力となります。
 困ったときにはいつでも帰ってこられる場所であり続けられるように。
 日本赤十字社の乳児院では、これからも子どもたちにとっての“心のふるさと“となれるよう、一人ひとりに寄り添った支援を続けていきます。