【速報6】イラン及び周辺国人道危機:サプライチェーンへの打撃と各地に散らばる避難民への対応
中東全域で人道危機が深刻化する中、人びとのいのちと生活を支える人道支援物資のサプライチェーンが、かつてない困難に直面しています。爆撃や戦闘の拡大は、人命やインフラに甚大な被害をもたらすだけでなく、支援物資を「必要な人のもとへ、必要な時に届ける」という人道支援の根幹を大きく揺るがしています。
2026年2月下旬以降、イランでは全国31州中30州で攻撃による被害が報告され、3月27日時点で1,900人が死亡、2万人以上が負傷しています。レバノンでも戦闘が激化し、直近1カ月で3,790件以上の戦闘行為が記録され、1,247人が死亡、3,680人が負傷しました。4月8日には、首都ベイルートを含む都市部への大規模な空爆の影響により、女性や子ども、医療従事者を含む100人以上が死亡し、数百人が負傷したと報告されています。
レバノン国内では現在、100万人を超える国内避難民が発生しており、また、隣国のシリアにも28万人以上が避難。レバノン人をはじめ、もともと避難民としてレバノンに逃れていた人が越境するなど、国境周辺や移動の途中で緊急支援を必要としています。イランと国境を接するアフガニスタンでは、パキスタンから帰還してくるアフガニスタン人に加えて、昨今の中東情勢を受けてイランからの避難者も増加。周辺国でも情勢を注視し、各国の赤十字・赤新月社は、さらに大規模な人口移動が起きた場合への備えを進めています。
イラン赤新月社は、捜索・救助や救急搬送、診療所や薬局を通じた医療サービス、被害にあった方々への生活必需品の配付など、24時間態勢で人命救助活動を継続している。©IRCS
人道支援を支える物流が危機に
国際赤十字・赤新月社連盟(連盟)は、人道支援物資のサプライチェーンに及ぶ深刻な影響について警鐘を鳴らしています。中東情勢の緊張は世界的な物流網に影響を及ぼし、人道支援物資の輸送は「遅く、そして高額」になっています。ペルシャ湾に面したドバイに拠点を置く連盟のグローバル・サプライチェーン・ハブは稼働を続けていますが、航路変更や港湾の混雑、輸送保険料の上昇により、輸送には想定以上の時間と費用がかかっています。こうしたコスト増は、限られた人道支援予算の中で、支援の規模や速度に直接の影響を及ぼすものです。
【輸送費の上昇率(連盟発表/2026年3月23日)】
- 海上輸送:約70%増(特定航路では最大300%増)
- 航空輸送:50~70%増
- 陸上国際輸送:20~30%増
エジプト赤新月社よりレバノンへ海上輸送で届けられた、約1,000トンの食料や医薬品、生活必需品、医療資機材などの支援物資(2026年3月27日)©Egyptian Red Crescent
この影響は中東地域にとどまりません。世界の石油供給量の約20%が通過するホルムズ海峡ですが、その石油の80%以上がアジア向けであることから、エネルギー価格の上昇はアジア大洋州地域にも波及しています。燃料や食料価格の高騰、湾岸諸国で働く移民労働者からの本国の家族などへの海外送金の減少、物流の混乱が重なり、最も弱い立場に置かれている人びとの生活を直撃しています。
南アジアでは、パキスタンやバングラデシュで燃料価格が高騰し、病院では発電機の運用に支障が出ています。東南アジアでは、フィリピンでエネルギー確保のため政府による非常事態が宣言され、タイでは医薬品供給が制限される事態となっています。燃料の大部分を輸入に依存する太平洋諸島諸国では、生活コストが急上昇し、マーシャル諸島では経済非常事態が宣言されました。
連盟は各国赤十字・赤新月社と連携し、医薬品などの供給網強化や現金給付支援体制の見直しを進めています。状況の悪化を待たずに支援を早期に拡大し、長期化する危機の中でも人道支援を継続できる体制づくりを急いでいます。
制限なき紛争が脅かす市民と支援の現場
市民生活に欠かせないインフラが被害を受ける中、救援にあたる赤十字・赤新月社のスタッフやボランティアの安全も脅かされています。それでも、救急車は走り、物資を届け、いのちを守る活動は続いています。この活動を続けてゆくには、物流と人道支援活動のための安全な環境の確保が不可欠です。
最近では、4月8日にレバノン各地の人口密集地が激しく破壊され、死傷者が多数出ました。この事態を受けて、赤十字国際委員会(ICRC)は「私たちは憤慨している」との声明を発出。ICRCは、レバノン赤十字社や地元当局とともに、次々と運ばれてくる負傷者に対応するための医療支援に力を尽くしています。
ミリアナ・スポリアリッチICRC総裁は、「いかなる制限もなく行われる戦争は法と相いれず、正当化できません。非人道的で、社会全体に壊滅的な影響を及ぼします」と警鐘を鳴らし、「あらゆる戦闘行為において、民間人および民間施設を保護することは、国際人道法の下での義務です」と、すべての紛争当事者に対して強く訴えています。
国際人道法は、民間人や民間施設、人道支援要員を守るためのルールです。赤十字・赤新月の標章が尊重されなければ、人道支援そのものが成り立ちません。国際赤十字は今後も、国際人道法の遵守を一貫して訴え続けていきます。
空爆の影響を受けたイラン・ハマダーン州を訪れ、住民の声に耳を傾けるイラン赤新月社の心理社会的支援(こころのケア)チーム©IRCS
「イラン及び周辺国人道危機救援金」
受付期間:令和8(2026)年3月16日(月) ~ 令和8(2026)年5月29日(金)
使途:連盟、ICRC、各国赤十字社・赤新月社および日本赤十字社が中立・公平・独立の立場を堅持しながら行う、イランおよび紛争の影響を受ける周辺国その他の国々における被災された方への救援・復興支援活動などに充てられます。