アフガニスタン気候変動対策事業~日赤の支援がもたらすもの~

画像 リンゴの木を植樹した住民の農地を訪れる日赤職員ⓒIFRC

 日本赤十字社(以下、日赤)は2020年7月から、アフガニスタン赤新月社(以下、アフガン赤)と国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)と協力し、干ばつや洪水等、気候変動の影響によって生活を脅かされている人々を支援する5か年の事業を実施しています。今号では、事業モニタリングのため、現地を訪問した日赤職員からの報告をお届けします。

■アフガニスタンのいま

 2021年8月、世界の注目を集めたアフガニスタンの政変は、インフラ開発や保健医療等、財源の多くを頼っていた国際社会からの支援を停止させ、世界の関心が薄れつつある今も、その影響は変わらず続いています。また、政変以前から国内全土で深刻化していた干ばつと繰り返される洪水によって、国民の多くが従事する農業の収穫量は減少し、人口の約半数に上る2,000万もの人々が深刻な食糧危機に直面していると言われています。
 いくつもの人道危機に直面する中で、今、現地に暮らす人々が口をそろえる最大の困難は、“貧困”。アフガニスタンが国外に持つ資金の大部分が諸外国の制裁によって凍結され、アフガニスタン通貨の価値暴落とは裏腹に物価は上昇しています。加えて、多くの国際支援の撤退は、雇用機会の喪失と失業者の急増という形で現地の人々に重くのしかかっています。

■気候変動事業で生計支援をするのはなぜ?

 日赤が、アフガン赤、連盟とともに現在実施している気候変動対策事業には、大きく2つの柱があります。1つは、防災活動です。地域の災害リスクを特定・共有し、災害時対応計画の策定や、災害対応キットの整備、避難訓練等を行うことで、気候変動に伴う自然災害に“備える”活動です。そして、もう1つが生計支援です。一見、気候変動対策とは無関係と思われる生計支援ですが、貧困世帯ほど気候変動の影響を受けやすく、ひいては難民等、貧困から抜け出せない状態に追い込まれるリスクが高いことが報告されています。長期化する気候変動の影響に対して、現地の人々の“立ち向かうちからを支援する”活動が、生計支援なのです。

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ヘラート州ジャンガン村で結成された自主防災組織は毎月ミーティングを行っているⓒIFRC

■生計支援が本格始動

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裁縫ミシンを購入する住民と事業チームⓒIFRC

 2023年に入り、本事業では生計支援が本格的に始動しました。ヘラート州とサマンガン州の30村の中から、アフガン赤が策定した支援基準に合致する対象者200人を、村の人々自ら選出しました。多くの該当者がいる中で今回優先されたのは、紛争や災害により避難を余儀なくされたり職を失った人々、片親世帯や家族に障がいをもつ人がいる世帯です。選ばれた対象者は、裁縫、養鶏、ヤギの飼育、バイクの修理など、自身の経験に基づく知識と技術を生かして事業計画を作成。アフガン赤・連盟からなる事業チームは、昨年行った市場調査(参考:複雑化する人道危機への取り組み)を参考にしながら、収益性や継続性の観点から個別にアドバイスを行いました。そのような過程を経て、対象者にはまず予算の7割にあたる約3万円が提供されました。各々の対象者は、事業チームとともに自身の職業に必要な資機材を購入し、早速新たな仕事に挑戦しています。今後、各職業の進捗や継続性を確認しながら、残りの3割が提供される予定です。

 ヘラート州ジャンガン村に暮らすナシーマさんも、本事業の生計支援を受けた一人です。特定の職をもたない夫と7歳の息子を持つナシーマさんはこれまで、保有していた1台の手動ミシンを使って、伝統的な刺繍や簡易な衣類を販売することで、生計を立てていました。本事業の支援によって、電動ミシン1台と刺繍糸や布を購入し、洋服やハンカチ、マスク等、これまでより複雑なものを短い時間で作成することができるようになりました。現在は、同じ村からの注文や販売が中心ですが、今後は都市部でも販売することを目標にしています。 

 加えて、ナシーマさんは最近、事業計画にはなかった新しい活動を始めました。それは、同じ村で裁縫に興味がある若い女性たちに、裁縫の仕方を教えることです。現在は16人の女性がナシーマさんの自宅に通い、いつか自分のミシンを手に入れる日を夢見て、裁縫の技術習得に励んでいます。「本事業の支援がなければ、食料を買うお金もままなりませんでした。今では、より大きな町で洋服を販売するという目標ができ、同じ村の女性たちにも裁縫の仕方を教えることができます。自分に誇りを与えてくれたこの事業に心から感謝したいです。」とナシーマさんは語りました。

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ナシーマさん(左)と同じ村の女性たち。7人の女性がナシーマさんに裁縫を教わるために集まりました。壁には販売予定の洋服もⓒIFRC

■長期的視点に立った支援を

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生計支援について住民に説明する連盟職員ファヒムさんⓒIFRC

 本事業担当する連盟職員のファヒムさんは、帰りの車の中で語りました。「アフガニスタンのような国では、食料配付や現金給付等、緊急的支援が必要な時もあります。一方で、外部からの支援が制限されている今、魚そのものではなく魚の釣り方を教えるように、人々の自立を長期的に支援するこの事業が本当に必要です。」

 生計支援は、今後、さらに対象者を拡大するとともに、対象者と販売市場を結びつける支援へと移行していく予定です。

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