ラオス救急法普及事業:人々の健康で安全な暮らしを守る

 ラオス人民民主共和国は、インドシナ半島の内陸に位置し、人口約740万人が暮らしています。インフラの整備が不十分であることから、特に地方部において、雨季には洪水や地滑り等の自然災害が頻発しており、2022年8月には北部ウドムサイ県で大規模な豪雨災害が発生しました。また、都市部では、経済発展に伴い道路交通量が増える一方で、スピード超過や飲酒運転による深刻な交通事故が多発しています。

 そのような背景の中で、日本赤十字社(以下、日赤)は、2019年から、ラオス国内で救急法を普及するための指導員の養成や資機材の整備など、ラオス赤十字社(以下、ラオス赤)が行う救急法普及事業を支援しています。2022年9月からは、災害や交通事故のリスクが高いにもかかわらず、医療体制が十分でないラオス国内の6県の学校を対象に、第二期事業(以下、本事業)を開始しました。心肺蘇生や止血、骨折の手当など、いざという時に必要な知識と技術を広めることで、ラオスの人々の健康で安全な暮らしを守ることを目指しています。

 今号では、2023年2月に日赤職員がラオスを訪問した様子をご報告します。

■救急法普及の未来を担う、新しい指導員たち

 ラオス国内で救急法の知識・技術を普及するためには、質の高い指導者の育成が必要です。2023年2月、ラオス赤が開催する救急法指導員養成講習にあわせて、日赤から救急法指導員3名が現地を訪問し、技術支援と協議を行いました。

 新たに指導員となることを目指す、ラオス赤の6支部から集まった計21名の講習参加者は、受講者役として協力をいただいた地元の高校生を相手に、学科指導ではパワーポイント資料を用いて、実技指導では数の限られた資器材を交代で使いながら、工夫を凝らして指導を実践していました。機材トラブルや、受講者からの質問に四苦八苦する場面もありましたが、各日終了後に行われる振り返りの時間では、「同じトラブルを防ぐためにはどうすればいいか」「〇〇の質問にはどう回答すればよかったか」などの活発な議論が交わされ、救急法の普及に対する参加者の高い意欲が示されました。

 講習最終日に行われた試験の結果、無事に参加者全員が合格となり、ラオス赤の救急法の未来を担う救急法指導員21名が、新たに誕生しました。

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  ラオス赤十字社の新しい指導員たちⒸ日本赤十字社

 ここでひとつ、彼らの人柄がわかる印象的なエピソードをご紹介します。

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  心肺蘇生の練習をする高校生たちⒸ日本赤十字社

 講習初日、受講者役の高校生の中に、緊張からか表情も強張って、参加者が話しかけても反応しない生徒がいました。その日の講習終了後、参加者同士のフィードバックを見守っていると、「どうしたら〇〇さんにもっとリラックスして参加してもらえるか」というテーマで、時間をかけて話し合いが行われました。指導員としての資格取得がかかった講習に臨む中、技術や知識に関する議論以前に、全員でひとりの受講者に気を配り、思いやる。その姿勢には、弱い立場に置かれた人々に寄り添う赤十字の理念、救急法の本質が体現されていたように感じました。

 翌日、少しでもできているところに目を向け、複数の参加者から前向きな声をかけるなどを試みたところ、彼女は別人のように笑顔を見せて、自分から積極的に質問をするようになりました。それを温かく見守る指導員候補者たちの眼差しには、日赤の指導員としても学ばされることが多くありました。

■現地での経験を、国内の活動へ

 日赤から派遣された救急法指導員3名は、講習中、傷病者の搬送法などについて技術的な意見交換を行ったほか、講習の進め方や運営方法についての助言や、資器材やデータの管理方法に至るまで、幅広く日赤の知見を共有しました。
 講習に参加した日赤千葉県支部の柴崎指導員は、「ラオス赤の指導員は、全員が救急法普及に高い意欲をもっている。今後は継続的に研修を行うことで、指導員の質の維持向上につながっていく。また、ラオス赤職員との交流を通じて、改めて人を助けることへの熱意に触れ、非常に刺激を受けた。今回の経験を、今後の日本国内の救急法普及に還元していきたい」と話しました。

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 指導方法について助言を行う日赤指導員Ⓒ日本赤十字社

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   搬送法を実演する日赤指導員Ⓒ日本赤十字社

 ラオス赤の救急法普及の取り組みには、資器材や指導員数の不足をはじめ、まだまだ多くの課題があります。日赤は、今後もラオス赤と協力し、救急法の普及を通じて、ラオスの人々のいのちと健康、尊厳を守るために取り組んでいきます。

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