17年間にわたる東ティモール救急法普及支援事業を終えて

 日本赤十字社(以下、「日赤」)は、2004年から2021年までの17年間にわたって、東ティモール赤十字社(以下、「東ティモール赤」)の救急法普及事業を支援してきました。今号では、2022年10月に職員が現地訪問した様子と併せて、本支援事業の成果をご報告します。

■人びとの健康で安全な暮らしを支える応急処置

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2021年4月に発生した大洪水に対応する赤十字ボランティアⒸ東ティモール赤十字社

 東ティモール民主共和国は、東南アジアのティモール島の東端に位置し、人口約130万人が暮らしています。2002年にインドネシアから独立し、アジアで最も新しい国として知られています。インフラ整備が不十分であることから、雨季には洪水や地滑りが頻発し、2021年4月の洪水被害では53人の死者・行方不明者が出ました。また、道路交通量の急激な増加に伴い、交通事故も多発しています。

 このような背景をふまえて、本支援事業は、東ティモールの一般市民が災害や交通事故などのいざという時に必要な手当(心肺蘇生や止血、骨折の手当などの応急処置)を実施できるよう、東ティモール赤の救急法普及を強化することを目的に実施されてきました。

 日赤は、東ティモール赤の支部における救急法指導員養成講習や、学校や地域での救急法普及ワークショップを開催するための活動費、包帯等の資器材整備にかかる財政支援のほか、日赤の救急法指導員を現地に派遣して技術支援を行ってきました。
 2004年に6人だった東ティモール赤救急法指導員の数は、この17年で全国128人にも増え、養成された指導員やボランティアは国内全土で救急法の知識や技術を普及するほか、スポーツイベント等の大勢の人が集まり怪我などのリスクの高い会場において応急処置班として協力するなど幅広い活動を実施し、東ティモールの人びとの健康で安全な暮らしに貢献しています。

■自らの手で誰かのいのちと健康を守るー赤十字の価値の普及

 2022年10月、支援終了後のフォローアップとして、日赤職員2名が現地を訪問し、東ティモール赤の職員やボランティアと事業成果や課題について協議しました。また、首都ディリと首都に隣接するエルメラ県ララワ村で、地域の中高生が参加する救急法ワークショップを視察しました。

 東ティモール赤の救急法指導員は、よく通る声で次々に応急手当の方法を紹介し、随所で参加者に理解度を問いかけ、参加者たちが集中して取り組めるような雰囲気づくりをしながら、わかりやすく教えていました。「止血と骨折の固定のどちらの手当を優先したらよいか」「保温したり冷却したりするのはなぜか」という熱心な質問にも、指導員自らの体験を交えて丁寧に答え、参加者が理解を深めていく様子が見られました。首都から離れた地域などプロジェクターが使えない環境下では紙芝居形式の教材を活用するなど、創意工夫を凝らす東ティモール赤の熱意には、学ぶことが多くありました。

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足の怪我の手当の方法をデモンストレーションするエルメラ県の指導員チームⒸ日本赤十字社

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指導員のお手本披露後、手当の方法を実践し苦戦しながらも楽しそうに学ぶ高校生たちⒸ日本赤十字社

 また、参加者からは、技術的な質問だけでなく、「東ティモール赤はどんな組織なのか」「赤十字のはじまりや理念は」と尋ねられる場面も多くありました。ワークショップ終了後のインタビューでも、「もっと救急法を学び家族や友達が怪我をした時に助けられるようになりたい」「今日教えてくれたお兄さんお姉さんのような赤十字のボランティアになってみたい」という声を生徒たちから聞きました。本支援事業が、救急法の普及のみならず、“苦しんでいる人のいのちと健康を守る”赤十字の人道の理念を広め、将来の赤十字ボランティアを育む役割を担えていることは、長年支援を続けてきた日赤にとっても大変喜ばしいことです

■最前線で活躍する支部職員・ボランティアたちの想い

 東ティモール赤の救急法普及は、日本と同じく、救急法指導員とボランティアによって支えられています。ボランティアの多くは大学や専門学校に通っている若者であり、彼らは学業の合間を縫って、講習やイベントの運営から、洪水などの災害救援に至るまで、東ティモール赤の活動を広く支えています。今回、ディリとエルメラの両支部を訪問し、職員に加え、指導員やボランティアの方々にもインタビューを行いました。ある大学生ボランティアは、「最初はまわりの友達がやっていたから、なんとなく赤十字の活動への参加を始めたけれど、今では救急法の普及を通して誰かの助けになれることがモチベーションになっています」と目を輝かせて語ってくれました。また支部職員は、「救急法の普及は、単なる知識と技術を広めているだけではなく、ボランティアを巻き込んで、“誰かのために行動する思いやり”を広め、この国の人たちの考えと行動をより良い方向へと変える力にもなっている」と、この活動への誇りを話していました。東ティモール赤の職員・ボランティアの声を集めた動画をぜひご視聴ください。

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熱意をもって救急法普及のやりがいを語ってくれたディリ支部のボランティアたちⒸ日本赤十字社

 日赤は、17年間という長期にわたる本支援事業を通じて、新しい国の新しい赤十字社として活動に取り組む東ティモール赤の発展に伴走してきました。本支援事業はこれで終了となりますが、これまで築いてきた友好関係を基盤に、今後も互いに学び合い、人びとのいのちと健康、尊厳を守る活動をより一層展開できるよう、連携していきます。17年間という長きにわたって本支援事業にご支援、ご協力いただいたすべての皆さまに、深く感謝を申し上げます。

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