日本とインドネシアをつなぐ防災教育のコラボレーション ~インドネシア防災強化事業のいま~

アジア有数の災害多発国、インドネシア。日本赤十字社は、2020年9月から3カ年の計画で、インドネシア赤十字社とともに同国ジャワ島南部のケブメン県とマラン県において防災強化事業を実施しています。この事業では、村落防災と学校防災という二つの活動を柱に、日本の研究・教育関係者の知見を取り入れて進めています。今号では、2022年9月に国際部職員が現地訪問した様子と合わせて、新たな連携の試みをご報告します。

災害への備えは子どもたちから

ケブメン県とマラン県は首都ジャカルタからそれぞれ約400km、800kmと遠く離れた場所に位置しています。ケブメン県には素朴な農村地帯が広がっており、マラン県は中心部は賑やかですか、事業地の村々は山間部にあります。道は非常に急こう配で、未舗装の道もあります。どちらの地域も電気や水道などは整備されています。一方、海が近くにありますが、堤防など津波から人びとを守るインフラはありません。ほとんどの海は波がとても高く、遊泳禁止で、村の人たちは水泳に馴染みがありません。一たび豪雨に見舞われると、洪水や地滑りが発生。外部とつながる道路が寸断されてしまいます。また、近い将来、巨大地震と津波の発生も懸念されています。

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こうしたことから、村々では、インドネシア赤十字社で「SIBAT(シーバット)」と呼ばれる村落ボランティアを結成。さまざまな研修を通して村落ボランティアが防災・減災への理解を深め、経験を積みながら、村人たちに知識を普及し、村の防災計画の策定や避難経路の設置など防災活動に取り組んでいます。

そして、学校に通う子どもたちへの防災教育も、この事業の重要な取り組みです。

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災害時に弱い立場に置かれやすい子どもたちの安全を確保するのみならず、子どもたちが学校で得た知識や行動を家族に伝えることで、村全体に変化をもたらすことができます。学校防災の活動は、新型コロナウイルス感染症の蔓延で学校が長期間閉鎖されたこともあり、当初計画より遅れが生じました。しかしながら、既に地元の行政機関との調整も終わり、現在は、災害時に危険な場所を教員と生徒が確かめるリスク・マッピングや、子どもたちが適切な避難行動をとるための防災教育などが徐々に始まっています。

防災教育の指導要領づくりに協力

インドネシアには国家防災庁が発行する防災教育指針があります。一方、実際に学校の先生が実用的に利用できる指導要領が十分でなく、防災教育の普及に遅れをもたらしています。この事業では、地元行政と連携しながら、学校で実際に防災教育が実施できるよう、基本的な災害メカニズムや避難行動を説明したガイドブックや、具体的な授業プラン集などを盛り込んだ指導要領の作成に力を入れています。現地主導で進めていますが、「東日本大震災などの学びを防災に」との要請のもと、日本の研究・教育者の参画と協力により、防災教育の質の向上を目指しています。

早稲田大学人間科学学術院の古山周太朗准教授は本事業を通して災害時の要援護者支援の研究を実施しており、実地調査のため日本赤十字社職員とともに現地を訪れました。

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各村の集会所や学校では、障がいのある方やご高齢の方など、災害時に誰も取り残さない防災計画の作成について、村落ボランティアをはじめ、学校長、教員、生徒、保護者、行政、インドネシア赤十字社スタッフらと協議しました。また、日本での取り組み事例を紹介し、「知識としてのみではなく、研修をくり返して、実際に動けることが大切」というメッセージを伝えました。

古山准教授からの提案をきっかけに、現地では「障がい者の避難支援」などをテーマにした授業を指導要領に反映する準備が進められています。

一方、日本の青少年赤十字加盟校の先生がたも、指導要領の作成に協力しています。日頃より、日本赤十字社が編纂した青少年赤十字防災教育プログラム「まもるいのち ひろめるぼうさい」を学校教育の中で実践している関西学院千里国際中・高等部の米田先生と熊本市立東部中学校の立野先生です。今月12日には、インドネシア赤十字社と日本の参加者をオンライン会議でつなぎ、インドネシア側で作成中の指導要領の内容を確認しながら、活発な議論を行ないました。

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立野先生は、「私自身、熊本地震で被災して『たすけあいの大切さ』を実感しました。インドネシアでも、たすけあいの心を育む防災カリキュラムを盛り込めると良い」とのアイディアを提案し、インドネシア側の賛同を得ました。また、米田先生からは、「将来は、インドネシアと日本の学校をオンラインでつなぎ、生徒同士が防災の学びを共有したい」との提案がなされました。今後は、これらの日本側からの提案を指導要領に反映し、現地の学校での活用に向けた取り組みを続けます。

日本とインドネシアは島国であることや災害が多いことなど、共通点があります。両国の赤十字社は、研究者や教育関係者の知見も得ながら、連携して、地域の人びとの防災活動を支援し、災害時に誰もが取り残されることのない仕組みづくりに取り組んでいきます。

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