【速報17】ウクライナ危機:ウジュホロドで赤十字の仮設診療所がオープン、中長期的な支援を目指して

 ウクライナ西部、ウジュホロドの診療所の準備の様子は以前の記事【速報13】でも紹介しましたが、ここには国際赤十字との連絡調整員として日本赤十字社の国際部から矢田主事が派遣されています。現地から最新の活動報告です:

 私は今、ウクライナ西部にあるウジュホロドという街にいます。ここでは現在、ウクライナ赤十字社により、主に国内避難民の方々に対する支援活動が行われており、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)の安全管理の下、フィンランド赤十字社、オーストリア赤十字社、そして日本赤十字社のスタッフがその活動を側面から支援しています。

 6月15日、ここに赤十字の仮設診療所が正式にオープンしました。フィンランド赤十字社と日本赤十字社のスタッフがこの診療所の立ち上げの準備に携わってきました。ウクライナ赤十字社にとって、紛争時のような緊急時における仮設診療所の運営は初めてのことです。診療所の開所により多くの国内避難民の保健医療ニーズに対応できることが期待されます。

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仮設診療所の全体写真©フィンランド赤十字社

 診療所の開所式には、ウジュホロドの市長や地元保健局の代表等が集まり赤十字に対して感謝の意が述べられました。オープン後は避難民の方々が続々と診療所を訪れ、医師の診察を受けたり、必要に応じて薬が処方されたりしています。

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開所式で赤十字に感謝の意を述べる州政府関係者©日本赤十字社

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医師の診察を受ける避難民©日本赤十字社

 診療所を含む一帯は「サービスセンター」と呼ばれ、医療だけではなく、救援物資の配付や子どもたち向けのこころのケア(心理社会的支援)など、赤十字の様々なサービスが提供される予定です。

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子どもたち向けのこころのケアのテント©日本赤十字社

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国内避難民に衣服を提供するためのテント©日本赤十字社

■人々への保健医療支援活動を拡大するために

 ウクライナ赤十字社はこれまで救急法(応急手当)のボランティア養成や戸別訪問による高齢者の体調確認等、地域に根差した保健分野の活動を行ってきましたが、特に2015年以降、「紛争の影響を受けて保健医療サービスへのアクセスが困難となっている人々を支援する」ことを目的として、保健医療の分野においても、政府の補助機関として本格的に活動を展開していくこととなりました。

 医療者とともに医薬品等を車に積み込み、一時的に医療の手が届かなくなってしまったところへ医療支援を提供する「巡回診療チーム」は当初からの活動の1つ。紛争激化以前から東部の街でも準備が進められており、現在はこの活動を全土に広げていく予定としています。ここウジュホロドでも、現在オーストリア赤十字社が中心となって巡回診療チーム配置の支援を進めています。

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オーストリア赤十字社よりウジュホロドに寄贈された巡回診療チーム用の車©IFRC/Nora Peter

 ウジュホロドのあるザカルパッティア州は西部の国境沿いで、今回多くの避難民の方が押し寄せていることから、医療の提供を受ける機会を失ってしまった避難民に対する慢性疾患の診療や医薬品の提供、プライマリーヘルスケアの拡充、家族計画や母子保健のケアの二―ズが高いことが判明しました。より多くの人びとのニーズを満たすべく、巡回診療チームの配置に先駆けてウジュホロドでは仮設診療所が整備されることとなったのです。

 中長期的には、ウジュホロドも含む3か所で診療所を開設し、これらをもとに11の準州に巡回診療チームを配置する予定です。

 ウジュホロドだけではなく、現在ウクライナ全土で、連盟とウクライナ赤十字社が中心となって保健医療を支援する長期的な計画が立てられています。

■中長期で支援を展開していくために

 今回、計画から診療所の開設に至るまでには約2か月という長い期間がかかりましたが、この間ウクライナ赤十字社ザカルパッティア州支部が中心となって、州政府との協定の締結や関係者の雇用(ウクライナでは外国人が直接医療を提供することができないため、ウクライナ人医療者の雇用が必要です)等を着実に進めてきました。ウクライナという国は現在紛争下にあるものの、西部においては緊急事態下での特別な規則や法令が適用されないため、ウジュホロドが位置するザカルパッティア州では、通常の法令に従い物事を進めていく必要があります。国内避難民の方々が様々な支援を必要としているのを目の当たりにして、診療所の準備に時間がかかったことは心苦しくもありましたが、赤十字として初めての診療所の運営、そして、紛争後にも確実に続く人道ニーズに対して、中長期の視点での支援を展開していくうえで、このような「土台作り」のプロセスは非常に大切です。

画像 州政府保健省担当者・ウクライナ赤十字社ザカルパッティア州支部長・フィンランド赤十字社・オーストリア赤十字社・連盟・日本赤十字社のメンバー       州政府との協定締結時©IFRC/Anette Selmer-Andresen

 私の役割は、まずは診療所が展開されているこの地域でのニーズを確認し、日本の皆様からのご寄付をもとに提供できる支援を確実に実行に移していくことです。現地の人びととの対話を重ねていく中で、私たちがさらに支援できる分野があることが確認できました。各国の赤十字社と協力しながら、ウクライナの人々に必要な支援を続けていきたいと思います。

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フィンランド赤十字社・日本赤十字社・ウクライナ赤十字社のスタッフ(右:矢田主事)©日本赤十字社

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「ウクライナ人道危機救援金」

受付期間: 2022年3月2日(水)~2022年9月30日(金)

使途  : 国際赤十字・赤新月社連盟、赤十字国際委員会、および各国赤十字・赤新月社が実施する、ウクライナでの人道危機対応及びウクライナからの避難民を受け入れる周辺国とその他の国々における救援活動を支援するために使われます。