第39回NHK海外たすけあい募金キャンペーン実施報告

 日本赤十字社が毎年12月にNHKと協働して実施するNHK海外たすけあい募金キャンペーン。
 1983年から始まり第39回目を迎えた2021年度は、83,379件、計7億2,088万2,194円のご寄付をいただきました。皆さまからのあたたかいご支援に感謝申し上げます。

2021年度の支援概要 ~感染症から誰も取り残さない~

 新型コロナウイルス感染症がなかなか収束しない中、貧困層や脆弱な状況にある人々はより深刻な影響を受けています。
 ウクライナや中東地域等で起きている紛争は、人々の生活を根本から脅かします。ただでさえ紛争や暴力行為で医療体制が脆弱となった地域では、感染症の発見や管理、経過観察に手が及ばず、またそのこと自体が軽視されることで、紛争そのものがもたらす人道課題に負のスパイラルをもたらしています。
 また、自然災害の発生は、規模・頻度ともにますます顕著になっています。台風、サイクロン、干ばつ、洪水、火山噴火といった自然災害は容赦なく私たちに襲い掛かります。特にこうした気象に関連した災害は世界的に見ても増加、激甚化の傾向にあります。感染対策に引き続き注意を払いつつ、こうした様々な災害に効果的に対応し、備える必要があります。
 このように「紛争+感染症」、「災害+感染症」といった複合的人道危機への対応において、格差によって失われる命があってはなりません。また、一人ひとりが危機に対して強くなる(レジリエンス強化)ための支援も必要です。赤十字は、世界各地に広がる草の根のネットワークという強みを活かし「救うを託されている。」存在として支援を届け続けています。

紛争+感染症に立ち向かうための取り組み

バングラデシュ

 2017年8月にミャンマーのラカイン州で発生した暴力行為により、隣国バングラデシュでは現在も86 万人以上が避難民キャンプでの生活を送っています。帰還へ向けた兆しが見えない一方、避難から4年半以上が経過して支援団体は減少傾向にあります。キャンプでは人口密集や上下水道の未整備により不衛生な状態が続き、避難民の生活環境は過酷で、まだまだ支援が必要です。
 日本赤十字社では、緊急の医療救援に続いて 2018年5月から保健医療支援事業を開始し、現地のバングラデシュ赤新月社を中心に、保健医療の提供、慢性疾患への対応や疾病予防などに重点を置いて支援を行っています。コロナ禍においても感染症対策を講じながら診療所や地域保健の活動を着実に継続してきました。保健医療提供体制をさらに安定的なものとするとともに、バングラデシュ赤新月社の医師や看護師、助産師の能力強化、避難民自身が保健衛生に関する知識の普及の担い手となれるように避難民ボランティアの人材育成と避難民自身による健康保健活動を促進していきます。

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(C)Ibrahim Mollik

中東地域(レバノン、シリア、イラク、パレスチナ、イエメンほか)

 中東地域における人道危機は、70年以上続くパレスチナ・イスラエル問題や、2011年に勃発したシリア紛争、2015年からのイエメン内戦など、数多くの犠牲者と難民・国内避難民を出しながらも、紛争の長期化によって地域情勢は依然不安定なままです。シリアの隣国レバノンには現在も90 万人以上の難民が暮らしています。難民キャンプが公認されていないレバノンでは、シリア難民に対する公的サービスは限定的で、難民の多くは避難から数年が経ってもテントでの生活を余儀なくされています。劣悪な生活環境の中、特に給水や衛生面の改善が喫緊の課題です。
 日本赤十字社は、2014年8月からレバノン赤十字社と協働して、安全な飲み水へのアクセスの確保、排水設備の整備、トイレの設置、公衆衛生への啓発活動等に加えて、受入れ住民と難民の双方が通う学校の衛生環境の改善に取り組んでいます。また、2018年4月からは、70 年以上の難民生活を送るレバノンのパレスチナ難民がよりよい医療サービスを受けられることを目的に、パレスチナ赤新月社レバノン支部の運営する5つの病院で働く医療スタッフへの医療技術支援を開始しました。長年の紛争や難民問題で多くの課題や制限を抱える病院での医療体制やサービスの改善に取り組んでいます。混迷が続く中東地域で、支援を求める現地の人々に寄り添った支援を引き続き実施していきます。

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主な支援活動

・バングラデシュ南部避難民への支援
・中東地域の紛争犠牲者への支援(レバノン、シリア、イラク、パレスチナ、イエメン他)
・各地域で紛争に苦しむ人々への支援(南スーダン、アフガニスタン、ソマリア、コンゴ民主共和国、ナイジェリア、ウクライナ、マリ、エチオピア、中央アフリカ、ミャンマー、リビア他)
・その他突発的な武力紛争の犠牲者救援

災害+感染症に立ち向かうための取り組み

アジア・大洋州地域

 感染症が全世界で拡大する未曾有の状況下においても、気候変動の影響と見られる災害は各地で発生しています。災害時、被災者にとって不可欠な支援の一つに、安全な飲み水や生活用水の確保、清潔な簡易トイレの設置など衛生環境の整備があります。近年、サイクロンの発生やそれに伴う洪水などが増加しており、災害時の給水・衛生活動のニーズが一層高まっています。世界中で発生する自然災害のうち4割以上がアジア・大洋州地域に集中しています(2019年災害報告、CRED:災害疫学研究所)。
 日本赤十字社は、海外で発生する災害への緊急即応体制整備の一環として国際赤十字・赤新月社連盟と協働し、2011年度からアジア・大洋州地域における給水・衛生災害対応キットの配備に取り組んでいます。このキット一式には、浄水ユニットやタンク、浄水剤、水質検査キット、簡易トイレ設置用資材、衛生教育用の文具などが含まれています。これらのキットは、災害多発国や周辺地域に予め整備され、災害時には現地の赤十字・赤新月社のスタッフやボランティアがすぐに活用できます。災害発生の傾向や頻度を踏まえてキットを戦略的に事前配備するとともに、救援活動を行うための現地スタッフやボランティアの人材育成も併せておこない、災害発生時のより迅速な救援活動を目指しています。

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(C)バングラデシュ赤新月社

ハイチ

 2021年8月に発生したM7.2の大地震による被災者は約80万人、そのうち被害が大きかったのはハイチ南西部の3県です。ハイチ政府の発表によると、死者は2,200人以上、負傷者は12,000人以上にのぼりました。少なくとも13万棟の家屋が全半壊しており、家を失った多くの人々が、水・衛生や安全といった環境が不十分な空き地などで避難生活を余儀なくされました。
 赤十字は、発災直後から被害が大きかった地域において、食糧や毛布、衛生用品キット、水を入れるポリタンク、ブルーシート、家屋修繕のためのツールキット、キッチンセットなど救援物資を届けました。また、被災した地域では、身体的・心理的な健康へのリスクが高まる中、こころのケア、給水・衛生支援、子どもや女性の保護など、様々なニーズへの対応が必要となりました。国際赤十字は現地のハイチ赤十字社の要請により、テント型の野外病院(以下、「病院ERU」(Emergency Response Unit))を展開し、被害の大きかった地域に入院・手術機能を持つ臨時の病院を設置して医療を提供。日本赤十字社は、この病院ERUでの活動支援のために看護師や薬剤師を派遣しました。

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(C)ハイチ赤十字社

主な支援活動

・突発的な洪水や干ばつなど自然災害の被災者への支援
・感染症の急激な蔓延など、その他の突発的な災害への対応
・アジア・大洋州地域での給水・衛生災害対応キット整備
・緊急時の救援物資、資器材備蓄

人々のレジリエンスを強化するための取り組み

アフガニスタン

 アフガニスタンは、1970年代から続く紛争により、政治・経済・社会インフラが壊滅的な被害を受けていることに加え、近年は、気候変動がもたらす自然災害によって、食料や水の枯渇等により、人々は深刻な危機に晒されています。特に、深刻さを増す干ばつと度重なる洪水は、国民の8割が従事する農業の土地と家畜を奪い、家屋、社会インフラ、道路等、人々の生活のあらゆる面に甚大な影響を及ぼしています。紛争国としてのイメージが強いアフガニスタンですが、1980年から2015年までの自然災害による死亡者数は100万人あたり1,150人と、低所得国に分類される中で2番目に多く、その半数は地理的条件や気象に関連した災害であることが報告されています(世界銀行調べ)。
 その一方で、2021年8月の政変により、これまで海外からの資金援助に頼っていたアフガニスタンの公的医療システムが立ちいかなくなり、多くの医療施設が閉鎖に追い込まれています。そのような状況下、現地のアフガニスタン赤新月社は、日本赤十字社を含めた国際赤十字・赤新月社連盟の支援を得ながら医療施設の運営に加えて巡回診療サービスを全国で展開しています。
 日本赤十字社は、緊急救援の他、2020年7月から、国際赤十字・赤新月社連盟と協力し、アフガニスタン赤新月社が主体となって行う5カ年の事業を開始しました。この事業は、干ばつや洪水の影響を受けている地域において、災害時対応計画の策定をはじめとする「防災・減災活動」(防災マップや安全計画の作成、防災訓練の実施、災害対応キットの配備や救急法研修など)と、生計手段の強化・多様化から気候変動への適応を図る「生計支援活動」(研修や新規事業開始のための初期費用や技術支援の提供、植樹など)の2つを軸に、対象地域の各村落と、そこに暮らす人々のレジリエンス強化を目指しています。

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(C)アフガニスタン赤新月社

ルワンダ

 ルワンダは1990年代の内戦終結以降、急速な経済発展を遂げる一方、人口の8割が暮らす農村部は、高い貧困率、社会インフラの未整備による安全な飲料水やトイレの不足、感染症、そして気候変動の影響による自然災害といった複合的な社会課題に直面しており、首都キガリと比べ、著しい経済格差が生じています。
 日本赤十字社は2019年から現地のルワンダ赤十字社と連携し、災害や貧困に苦しむ人々への支援事業を開始しました。世帯の生活状況の改善や地域における気候変動の影響を緩和するためのコミュニティ活動として、支援対象の世帯に対して衛生用品や調理器具、野菜の種を提供するとともに、農畜産業や貯蓄融資に関する研修を実施しました。料理教室や菜園設置などの実践指導を行うことで、対象地域の全世帯に家庭菜園が作られ、特に子どもたちの栄養改善に繋がっています。また、新型コロナウイルス感染症対策として、巡回宣伝車(モバイルラジオ)や世帯訪問での予防啓発を実施し、住民への正しい知識の普及と行動変容にも努めています。

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(C)ルワンダ赤十字社

主な支援活動

・ルワンダやアフガニスタンの気候変動等に対するレジリエンス強化
・インドネシアなどでの防災活動
・大洋州地域での災害対応能力強化
・ラオスなどでの応急手当等普及
・東アフリカ地域(ブルンジ、タンザニア、スーダンほか)の地域保健強化
・南部アフリカ地域(ナミビア、マラウイ、エスワティニほか)の感染症対策

世界から届いた「ありがとう」の声

パウリナ・スズ さん(ナミビア)

「私はナミビアに住んでいますが、赤ちゃんの時に両親を失い、孤児になりました。いま世話をしてくれている夫婦には職がなく、私は学校を辞め、食べ物にも困っていました。そんな時、赤十字の世帯訪問をきっかけに支援が受けられるようになり、学校にも行けるようになりました。マットレスや制服、衛生用品など必要なものを提供してくれる赤十字に感謝しています。定期的な世帯訪問を受けることで、私の話に耳を傾けてくれる人がいると感じられます。私や私の将来について気にかけてくれる人がいることが、心の支えとなり希望が湧いてきます。 現在は医師になるため頑張っています。」

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