バングラデシュ:スーパーサイクロン「アンファン」上陸

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5月16日、インド・バングラデシュの南にあるベンガル湾で大型サイクロン「アンファン」が発生。サイクロンの最強クラスである「スーパー」まで発達し、20日にはインドの西ベンガル州に上陸、バングラデシュに到達しました。今回の「アンファン」(瞬間最大風速約53m)は、2007年にバングラデシュで死者3,300人以上を出したサイクロン「シドル」以来、最大規模となるものでした。日本でも新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)流行下での自然災害という複合災害が危惧されていますが、バングラデシュでは、実際にその状況となりました。

同国におけるCOVID-19感染者数は47,153人、死者650人となっており(バングラデシュ国立疫学疾病予防調査研究所[IEDCR]6/1付発表)、感染が拡大しています。その中で、サイクロンは、バングラデシュ沿岸部に特に大きな被害をもたらしました。日本赤十字社(以下、日赤)がバングラデシュ赤新月社(以下、バ赤)とともに保健医療支援活動を行っている南部の避難民※キャンプは、サイクロンの直撃はまぬがれましたが、暴風と大雨により、土砂崩れや家屋や水衛生設備などに複数の被害が報告されています。(右図出典:バングラデシュ国連常駐調整官事務所)

※国際赤十字では、政治的・民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し「ロヒンギャ」という表現を使用しないこととしています。

サイクロン「アンファン」被災状況とバ赤の動き

バ赤スタッフ

バ赤は、5月17日には「サイクロン緊急時対応計画」を発動し、18日には「サイクロン早期行動計画(EPA)」を始動、サイクロン準備プログラム(以下、CPP)ボランティア7万人が、沿岸部13県の住民の避難誘導を開始しました。政府発表によると、サイクロンの到達する20日には、沿岸19県にて約200万人以上がサイクロン・シェルターなどへ避難したとされ、今回は避難所での混雑を避けるCOVID-19対策として、前回サイクロンの約3倍にあたる1万2,000か所の避難所が用意されました。バングラデシュにおける今回のサイクロンによる死者数は26人でしたが、約71万世帯が被災、さらに5~6万戸以上の家屋が全壊、33万戸以上が部分損壊と報告され、同サイクロンによる損害額は1億3,000万ドル(約140億円)に及ぶと推定されています(バングラデシュ国連常駐調整官事務所発表)。(左上写真:シャスキラ県にて、自宅へ戻る被災者へ食料配付を行うバ赤スタッフ ©バングラデシュ赤新月社)

国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)は、バ赤による救援活動を支援するため、サイクロン到達直後に「災害対応緊急基金」から約30万スイスフラン(約3,300万円)を拠出し、被害の大きかった沿岸部やサイクロン通過県の被災者3万人を対象に支援を開始しました。さらに28日には緊急アピール500万スイスフラン(約5億6,000万円)が発出され、日赤も資金援助を行う予定です。バ赤は、被災地アセスメントを行い、仮設シェルターの整備、被災者への現金・食料配付など、被災者5万人を対象とした支援を行っています。

避難民キャンプのサイクロン被災状況

最大級の警戒を示す旗を掲げる

およそ86万人が暮らす「世界最大の難民キャンプ」といわれる南部の避難民キャンプでは、連盟、バ赤、同国気象庁、国際機関などが協働し、CPPボランティア3,400人がキャンプ内で、サイクロン到来の情報周知と大雨暴風に備えての「Do/Don't(しないといけないこと/してはいけないこと)」の注意喚起などを迅速に行いました。バ赤医療班やCOVID-19対策の個人防護具(PPE)も備えられ、さらに34キャンプのうち、特に脆弱性の高いとされる8キャンプについては、被災状況を速やかに把握して支援が行えるよう調査チームがスタンバイされました。

サイクロンによる大雨暴風により、家屋損壊が計1,300戸以上、トイレや井戸などの水衛生設備損壊25か所、土砂崩れや土壌流出137か所、学習施設やモスクなどにも被害が確認されています。日赤現地スタッフのウドイ氏からは、「サイクロン後には通信状況が悪化し、現状把握に手間取ったが、現地ボランティアリーダーのゴニさんと電話で連絡がとれ、日赤の活動に協力してくれている避難民ボランティアや家族は全員無事とわかりました。彼らが住んでいるエリアで家屋被害が出ているようですが、34キャンプ内の人的被害はなく、ひとまず安心しています」との報告がありました。避難民キャンプ内にある日赤が支援するバ赤の診療所自体には大きな被害はなく、6月も活動が継続できる見込みです。(右写真:気象庁のサイクロン警戒発表を受け、最大級の警戒を示す旗を掲げる ©バングラデシュ赤新月社)

キャンプ13にて家屋損壊の様子 キャンプ13にて家屋損壊の様子。竹とビニールの簡素な家は被害を受けやすい ©バングラデシュ赤新月社

キャンプ15にて土砂崩れの様子 キャンプ15にて土砂崩れの様子 ©バングラデシュ赤新月社

避難民キャンプで初めてのCOVID-19感染者確認、急増への懸念

サイクロンの被害に見舞われた避難民キャンプですが、COVID-19の脅威も同時に抱えたままです。コックスバザール県全体では、すでに636人のCOVID-19感染者が確認されています(6/1時点)。5月14日には、ついに避難民キャンプ内で初めてのCOVID-19感染者が確認され、5月24日時点で計13名のCOVID-19感染者が報告されています(セクター間調整グループ[ISCG]発表)。

日赤の支援するバ赤診療所は、診療や母子保健サービスの提供を継続し、PSS(心理社会的支援)含め、避難民ボランティアが避難民キャンプに住む地域の人びとに対して、健康や感染症予防の啓発活動など、地域保健活動を行っています。バ赤は、政府の依頼をうけ、キャンプ2か所に隔離治療施設(合計80床)を急ピッチで建設中で、6月より稼働予定として、同キャンプ内での感染者の治療体制の構築を図っています。

子どもたちが手洗いの仕方を学ぶ様子 できるだけ適切な距離に配慮し、子どもたちが手洗いの仕方を学ぶ様子 ©バングラデシュ赤新月社

キャンプ7に建設されている隔離治療施設内部の様子 キャンプ7に建設されている隔離治療施設内部の様子 ©バングラデシュ赤新月社

キャンプ12にある日赤の支援するバ赤の診療所待合室で、間隔をあけ交互に座る様子 キャンプ12にある日赤の支援するバ赤の診療所待合室で、間隔をあけ交互に座る様子 ©バングラデシュ赤新月社

トゥクトゥク 避難民キャンプ内でのCovid-19感染者が確認され、バ赤ボランティアによる個別の家庭訪問が難しくなっており、トゥクトゥクでの情報伝達を開始 ©バングラデシュ赤新月社

バングラデシュ政府は、3月26日より国内のロックダウンを開始しましたが、感染者増加に歯止めがかからないまま、5月30日より外出制限の緩和を始めました。日赤はバ赤と協力し、COVID-19感染者数の増加が懸念される中、最も脆弱な立場に置かれている人びとへの支援を続けていきます。雨季が始まったばかりのバングラデシュにおいて、今後の大雨やサイクロンへの備えも、引き続き行っていく予定です。

ぜひ、みなさまの温かなご協力、ご支援のほどをよろしくお願いします。

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日本赤十字社では、バングラデシュ南部避難民救援金を募集しています。ご寄付いただいた救援金は、日赤が実施するバングラデシュ南部避難民支援に活用されます。皆様の温かいご支援をお願いいたします。詳しくは、こちら

6月14日は世界献血者デーです

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