思いやりが原動力の「リーダーシップ」

思いやりが原動力の「リーダーシップ」

赤十字が育む「その“一歩”を踏み出す力」

「青少年赤十字(JRC*)」とは、日本赤十字社の青少年育成事業です。その中でも、「リーダーシップ・トレーニング・センター(トレセン)」は夏休みなどに行う体験型の研修として全国で実施しています。子どもたちは「トレセン」の中で、赤十字の人道の思いを育むとともに地域や社会の課題を発見し、仲間と議論し、仲間の協力を引き出す“体験”を繰り返します。その過程で、取り組むべきことに自ら気づく力、自分の頭で考える力、社会を少しでも良くするために自ら動き出す力(実行する力)が養われます。今回は、日赤和歌山県支部が実施した「トレセン」をリポートします。

*Junior Red Cross

青少年赤十字の育む「リーダーシップ」とは?

気づきや学びは、行動につながって初めて社会を動かす一歩になります。トレセン修了後、メンバーは学校や地域へ戻り、防災活動やボランティア活動、国際理解の活動など、自らできることを実践します。一人一人が主体的に役割を担い、時にはリーダーとして、時には協力者として、仲間と活動を進めていく。それが青少年赤十字が育むリーダーシップです。

リーダーシップ・トレーニング・センター

中学生防災士による
赤十字防災セミナー

赤十字防災セミナーの指導者の資格を取り、トレセンでセミナーを行う佐藤さん。和歌山大学 客員教授・後誠介先生による絵本「川がパンクしちゃった!」の読み聞かせは「水害が起こるメカニズムについて、子どもでもわかりやすく描かれているから」と佐藤さんの希望で実施

トレセンで赤十字防災セミナーを行う佐藤さん
絵本「川がパンクしちゃった!」の読み聞かせをする佐藤さん

炊き出し体験

夕食は、自分たちで炊き出しを。耐熱ポリ袋を使ってお米を炊くなど、非常時にも役立つ方法でグループごとに協力して調理を進める。学生ボランティアがサポート役に

炊き出し体験で子どもたちをサポートする学生ボランティア
炊き出しの料理を運ぶ子どもたち

段ボールベッド組み立て体験

学校も学年も違うメンバーがチームになって、実際に避難所で使われる段ボールベッドを組み立てる実習。完成したベッドに乗った子どもたちは、「こんなに人が乗っても崩れない!」と驚きの表情

完成した段ボールベッドに座る子どもたち
段ボールベッドを組み立てる子どもたち

防災士/JRCメンバー

大災害を知らない世代だからこそ
防災への学びと備えが必要

佐藤 愛美さん
智辯学園和歌山中学校 3年
赤十字防災セミナー指導者
佐藤 愛美(さとう まなみ) さん

トレセンへの参加は、今年で2回目です。私の学校はJRCに加盟していなかったので、個人として、昨年初めてトレセンに参加した後、日赤和歌山県支部に通って赤十字防災セミナーの指導者の資格を取りました。そして今回のトレセンで、防災セミナーと、水害の仕組みと命を守る行動を学ぶ絵本の読み聞かせを行わせてもらうことになりました。

私が防災に興味を持ったのは、小学校6年生のとき、家族旅行で和歌山県那智勝浦町の「和歌山県土砂災害啓発センター」を訪れたのがきっかけです。そこには、2011年の紀伊半島大水害*の様子が展示されていました。初めて目にする被害の光景に衝撃を受け、「災害から皆の命を守りたい、自分にできることはないだろうか」と考え、調べるようになりました。赤十字や青少年赤十字の活動について知ったのも、その頃です。子どもの自主性を大切に、学びと実践に導いてくれる取り組みに共感しました。「自分の学校もJRCに加盟して、学校全体で防災に取り組める環境を作れたら」と考え、先生たちを説得し、全校生徒の加盟が実現しました。私は防災士の資格も持っているので、これから学校で防災セミナーを開いたり、地域の防災イベントに参加したりと、活動の幅を広げていきたいと思っています。

*2011年9月。台風による大雨によって、和歌山県南部を中心に深層崩壊や土石流などの土砂災害が多数発生。多くの人が犠牲となり、建造物にも甚大な被害を及ぼした

学校を巻き込んで、全校生徒1700人弱のJRC加盟を実現させた佐藤さん

パソコンを前に防災セミナーを行う佐藤さん
指導者と一緒に資料を確認する佐藤さん

運営の中心は「生徒と学生ボランティア」、そんなトレセンの意義とは?

トレセンの主役は子どもたち
見守りながら「気づき」をサポート

滝川 樹さん
和歌山信愛大学
学生赤十字奉仕団
滝川 樹(たきがわ いつき) さん

私たち学生ボランティアは最小限の手助けをしますが、主体は子どもたち。例えば、実際に避難所で使用する段ボールベッドの組み立て体験では、どうしたら組み立てられるか子ども同士で相談しながら、手を動かしていきます。和歌山県には山と海があり、地域ごとに想定される災害が異なります。防災教育として、その地域ごとの対策を知っておくのは当然ですが、皆で協力して思考力や判断力を磨いていくという経験に意味があると感じます。私は大学2年生のときにJRCのサポートを始めましたが、赤十字の活動は大学生になるまで詳しく知りませんでした。私は教師を志しているので、小中高生に赤十字の活動を教えてあげたら、人を助ける仕事に就きたいと考える子どもたちに良いキャリア教育になるな、と感じています。

段ボールベッドの組み立てをサポートする滝川さん

大きな災害が起きたとき
「一歩踏み出せる力」を育むために

本岡 希望さん
東京医療保健大学
和歌山看護学部学生赤十字奉仕団
本岡 希望(もとおか のぞみ) さん

今回の熊本のような地震が起き、避難所で生活するとなったら、災害への恐怖と慣れない環境で何もできない子が多いのではないかと思います。それでも、周りと協力して自発的に動くという「一歩目」を、勇気をもって踏み出せたら、状況は変わってくる。このトレセンで、その「一歩目」を踏み出せる子が増えたのではないでしょうか。助け合わないといけない状況で、すぐに自発的に動き出せる、このことにとても価値を感じます。看護師を目指しているので、何か赤十字でボランティアを、と思ってJRCのお手伝いを始めましたが、他大学のボランティア仲間とのつながりやJRCのメンバーとの関わりによって、こんなに充実した活動ができるとは、と驚いていますし、私自身もたくさん学ばせてもらっています。

子どもたちの作業を見守る本岡さん

赤十字の実践的な学びが、
災害時の命を守る行動につながる

濱口 紗帆さん
東京医療保健大学
和歌山看護学部学生赤十字奉仕団
濱口 紗帆(はまぐち さほ) さん

高校の頃からボランティアに興味があり、大学で学生赤十字奉仕団の存在を知って参加しました。小学校の頃から南海トラフ地震について教わる機会があり、私も和歌山県民として、「いつか来る」という意識はずっと持っています。トレセンに参加するのは2度目ですが、赤十字の防災教育のよさを改めて実感しています。これまで自分が学校で学んだ防災教育は講義形式が多く、一方、トレセンで初めて段ボールベッドを組み立てたり、炊き出し体験をしたりと、私自身も実践的に学ぶことができました。これを体験したことがある人とない人では、実際の災害での行動が確実に変わってきます。JRCの態度目標である「気づき、考え、実行する」も、災害のときこそ、生きてくるはずです。

炊き出し体験で子どもたちと調理する濱口さん

教育現場から見た赤十字防災教育の価値

災害を乗り越える力を、赤十字の力を借りて

土山 泰弘先生
和歌山市立名草小学校 教諭
青少年赤十字指導者
土山 泰弘(つちやま やすひろ) 先生

私は、JRCの指導者として、トレセンにおいて生徒たちが安全に、活発に活動に取り組めるよう、裏から支える役割を担っています。学校教育の中でも、避難訓練や防災教育はもちろん行っていますが、赤十字の防災教育を取り入れることのメリットは、何といっても、災害支援の現場にいた赤十字の方たちのリアルな体験、避難生活の実際の様子を聞けること。大きな災害が起きて、避難所生活を強いられるようなことがあれば、一期一会の出会いの中で、助け合いながら命を守る行動を取らなければなりません。

こうして、他校のJRCメンバーとチームになって協力し合いながらカリキュラムをこなしていく体験は、必ず彼らの生きる力の向上につながると思います。

日赤の取り組み

災害現場での経験を共有し、地域の担い手を育てたい

北川 勝巳さん
和歌山県支部
事業推進係長
北川 勝巳(きたがわ かつみ) さん

和歌山県のトレセンでは、違う学校の生徒たち同士が異なる視点を持ち寄って「気づき・考え・実行する」ことを通して、防災の意識を高めていくことを重視しています。私自身、これまで、能登半島地震などの被災地で救護班やDMAT隊員として活動する中で、「助からなかった命」に接する機会がありました。災害死を少しでも減らすためには、各自の準備や知識、行動(自助)はもとより、地域での助けあい(共助)が重要であることを、痛感しています。少子高齢化が顕著な和歌山県にとって、小中学生は地元の防災教育と地域貢献の担い手です。子どもたちにはぜひ、今回のトレセンで学んだことを家庭や学校に持ち帰り、共有してほしいと思っています。そのことが、地域の防災意識の向上にもつながっていくと信じています。