スペシャル対談 ジャガン・チャパゲインさん×山口智子さん

スペシャル対談 ジャガン・チャパゲインさん×山口智子さん あなたにも、誰かを笑顔にする力がある

スペシャル対談

あなたにも、誰かを笑顔にする力がある

#1

なぜ、あなたが「聞く」と世界は変わるのか

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC) 事務総長であるジャガン・チャパゲイン氏と、俳優であり、世界各国を旅してその文化を発信する活動も行う山口智子さんの対談が実現。「聞く」ことから何が始まり、私たちの行動はどう変わるのか。お二人の言葉から考えます。

対談するジャガン・チャパゲインさんと山口智子さん

Profile

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC) 事務総長
ジャガン・チャパゲインさん

ネパール赤十字社のユースボランティアとしてキャリアをスタートし、アジア・大洋州地域局長などを経て、2020年2月から現職に。大規模な人道危機への対応や各国赤十字社、赤新月社との連携に豊富な経験を持つ。

Profile

俳優・プロデューサー
山口 智子さん

1988年にNHK連続テレビ小説のヒロインで俳優デビュー以降、数々のヒット作に出演。近年は、世界の音楽文化の映像ライブラリー『LISTEN.』を発信し、チャリティーイベント『GO!GO!ラリー』など、多岐にわたって活躍。

「こんなにも人を助けたいなんて」 15歳、人生が変わるほどの衝撃

(チャパゲインさん)

山口さん(以下、山口): チャパゲインさんは、初めての渡航が日本だったそうですね。

チャパゲインさん(以下、チャパゲイン): はい。赤十字ユースボランティアとして、日本の青少年赤十字との交流イベントのために来日しました。1983年、15歳のときでした。まるで映画の世界に飛び込んだような、胸が躍る経験でした。その中でも驚いたのは、日本の学生たちのボランティア活動です。それまで赤十字ボランティアは開発途上国で活動しているものと思っていました。

ところが、日本のような発展した国でも非常に活発に行われていた。日本の学生が、お小遣いを少しずつ貯めてネパールの学校の水道事業に寄付している姿を見て、「こんなにも、誰かのために何かしようとしているのか」と胸を打たれました。この気づきが、私の赤十字活動の原点です。私は、よくこう話します。「私の赤十字人としてのキャリアを導いてくれたのは、日本です」と。

山口: チャパゲインさんはネパールのご出身ですよね? 私は世界の音楽文化を映像に収める「LISTEN.」というプロジェクトで、ネパールを訪れたことがあります。隣国のインドのエネルギッシュな舞踏や映画はよく知られていますが、ネパールは素朴で控えめなイメージでした。でも、実際に訪れたら、誰もが歌と踊りを愛し、ネパール各地を舞台にしたミュージカル映画が一日中テレビで流れていました。その熱量に驚き、圧倒されました。ネパールの古都・バクタプル*1で、古い伝統歌を今に甦らせる若者たちを撮影したのですが、エネルギーにあふれた彼らの音楽と笑顔は忘れられません。

チャパゲイン: そう、ネパールの人々は裕福ではありませんが、音楽や踊りを通して生きる力を生み出しています。彼らは人生を祝福しながら生きているのです。

*1 世界遺産の1つであるバクタプルは、「祭り」が生きた遺産と呼ばれるほど、古代の儀式を数世紀前と変わらぬ熱量で受け継いでいる歴史ある町として知られる

対談前、あいさつを交わすお二人
握手を交わすお二人
世界地図の前で握手するお二人

耳を傾け、心を開く 世界を「知る」ことは、平和への道

(山口さん)

チャパゲイン: 歌や音楽がある場所には必ず人々の笑顔がありますよね。赤十字の活動において、その笑顔をもたらしてくれる存在はボランティアです。紛争や災害などで困難な状況にあっても、ボランティアの「人を助けたい」という気持ちが、笑顔の輪を生み出します。

一方で、人道支援活動の中で命を落とすボランティアがいるのも事実です。今朝、この対談に来る前に、悲しい一報が届きました。コンゴ民主共和国で流行するエボラ出血熱の対応をしていた赤十字ボランティア2人が、武装勢力に殺害された、と。彼らは人々の命を救おうとしていて、命を落としたのです。仲間の訃報に接することは、私にとって最もつらい瞬間です。私たちにできることは、その志を受け継ぎ、行動し続けることです。

私は、世界を巡る中で、ボランティアの勇気と献身が、人々に笑顔の連鎖を生むシーンにたくさん出会ってきました。例えば、2025年のミャンマー地震のとき。ミャンマー赤十字社が運営する子ども向けの施設を訪れた際、みんなが踊って楽しんでいる場の片隅に、輪に入れずにいる女の子がいました。それを見た若いボランティアはそっと彼女に近づき、何も言わずに隣で踊り始めたのです。次第に彼女は表情が和らぎ、最後には輪に入ってみんなと一緒に笑い、踊るようになりました。

ボランティアは、被災者である少女が抱えていた恐れや孤独を癒やし、少しずつ安心感や喜びへと導いてくれたのです。小さなエピソードですが、私にとってそれは、人道支援の本質を象徴する出来事でした。

笑顔で踊る少女の様子
ミャンマー赤十字社のボランティアと踊る少女

虐げられた民族が生んだ美しい音楽 心を結び、互いに憧れ合える

(山口さん)

山口: 歌や踊りは地球上で最も基本的なコミュニケーションですね。私は、「明日も元気に頑張ろう!」と思える、生きる力が湧く音楽を追いかけています。虐げられた歴史を持つ民族の音楽には、生き抜くパワーが満ちています。以前、ハンガリーでロマ*2が暮らす村を訪れ、子どもたちの洗礼式の祝宴に参加しました。互いに協力し合い、食べ物を持ち寄って、三日三晩歌い踊り続けるんです。社会的に厳しい立場に置かれ、長く差別も受けてきたであろう人々が、最高の音楽で心を結び合い、逆境を生き抜いていく姿に圧倒されました。彼らの姿に、真の豊かさを感じました。日本は物質的には恵まれていても、彼らのように仲間と笑い合う、真の豊かさを忘れてしまっているかもしれません。

チャパゲイン: 一方で、日本は逆境に置かれている人々や困難な状況に対して、素晴らしい貢献をしてきましたよ。だからこそ、日本で大災害が起こった際には、世界が動くのです。2011年の東日本大震災のときも、世界中の国々が日本を助けたいと思いました。私も震災後に日本を訪れ、被災地を訪問しました。そこで見たのは、世界からの連帯だけではなく、日本国内の連帯です。至るところに赤十字ボランティアがいました。特に日赤の医師や看護師たちは、危険かもしれない地域でも活動していました。

山口: 素晴らしいですね。チャリティーイベントで東日本大震災の被災地を訪れた際の、若い漁師さんの言葉を思い出しました。「僕たちは震災ですべてを失ったけれど、あのとき世界中の人々が助けに来てくれて、『もう何も怖いものはない』と思えた」と語っていました。彼らはその後の復興だけでなく、漁業の後継者問題などの課題に立ち向かい、副業として漁師を全国から募ったり、新しいアイデアで世界が注目する漁業を牽引しています。世界からの応援が、彼らの新たなチャレンジにつながりました。

復興支援やボランティアといった言葉に、ハードルの高さをつい感じてしまいますが、まずは「知る」ことが大切。耳を傾けて「知る」ことから愛が始まると思います。知ることで、相手への尊敬が生まれ、世界の人々が自分の家族や仲間のように感じられる。「彼らが困っていたら、助けに行こう!」と思えます。

*2 ロマとは、かつてはジプシーと呼ばれた、定住せず移動を続けた民族。歴史的に迫害や差別を受けた一方、スペインのフラメンコをはじめ、世界中の音楽や芸能文化に大きな影響を与えてきた

語る山口智子さん

スペシャル対談

あなたにも、誰かを笑顔にする力がある

#2

「Listen」「Learn」「Lead」3つの“L”を胸に

ジャガン・チャパゲインさん
山口智子さん

赤十字にとって、ボランティアの存在こそ、笑顔の源です。

チャパゲインさん

世界中の人々の歌、踊り、笑顔から、真の豊かさを学びました。

山口さん

話を聞かないリーダーに何の改革ができるというのだろう

(チャパゲインさん)

山口: 私が「LISTEN.」プロジェクトで目指しているものは、地球の魅力が詰まったタイムカプセル。100年後、1000年後の未来にも誇れる、生きる力となる素晴らしい地球の音楽文化を映像で残していきたいと思っています。これからはまさに“宇宙時代”に突入ですよね。地球外生命体に対しても自慢できる、地球の素晴らしさにもっともっと出会っていきたい。日本は小さな島国ではありますが、地球も大宇宙に漂う小さな島みたいなものですよね。資源が限られた「島」で、互いにより良く生きていくための知恵がこれから大切だと思っています。「地球」という意識を持ち、「地球人」として一丸となれる未来を目指したいです。

チャパゲイン: 素晴らしい考え方です。あなたの「LISTEN.」はとても興味深い。実は、私が大切にしているキーワードに、3つの“L”があります。その1つ目が、まさに「Listen」なんです。これはリーダーシップの考え方です。最初に「Listen(聞く)」、次に「Learn(学ぶ)」、最後に「Lead(導く)」です。変革を起こすにはリーダーシップが必要ですが、人の話を十分に聞かないリーダーが多い(笑)。まず耳を傾け(Listen)、そこから学び(Learn)、人々と目的を共有しながら行動する(Lead)。これを繰り返すことが大切だ、常々そう考えていたので、あなたが「LISTEN.」の意義を語ったとき、深く共感したのです。

山口: 3つの“L”! 素晴らしい! 私も実践します!

人道は専門家のものではない 誰しもが人を笑顔にできる

(チャパゲインさん)

チャパゲイン: 私も山口さんにぜひアドバイスをいただきたいのですが、もっと多くの人に赤十字ボランティアに参加してもらうには、どうしたらいいと思いますか?

山口: 個人個人が、特別なことではなく、自分の得意分野で、人々の喜びにつながることを見つけていけたらいいですよね。被災地を訪れたとき、現地の人々が「物資やお金の寄付に感謝すると同時に、時間経過とともに、忘れられてしまうことが怖い」とおっしゃっていました。だから、継続して心を寄せることの大切さを考え始め、自分の好きな分野ならずっと続けていけると思い立ち、夫の趣味であるクラシックカーのラリーイベントを企画しました。毎年、全国から車好きの仲間を募って被災地を走り、みんなで笑顔になれる時間を作ろうと。きっと誰しも、趣味や得意分野がありますよね? それをみんなで持ち寄れば、支援の形ももっとナチュラルで、継続的なものになるのではないでしょうか。

チャパゲイン: その通りです、誰しも支援者になることができます。そして、支援者になることは喜びにもつながります。私は元々エンジニアでした。ネパールでは貢献意欲のある学生は医師かエンジニアを目指します。私も、自分の技術力や知識を、社会の課題を解決するために使いたいと思い、その道に進みました。しかし、求めていた満足感が得られなかった。そこで気がついたのです。自分のエンジニアとしての技能を、機械やシステムを改良するためでなく、人々が抱える問題を解決するために使えばいいのでは、と。いま私は、人々を助けるために力を尽くせることができて幸せです。

また、赤十字活動に身を投じて分かったのは、人道支援は、決して専門家によるものではないということです。誰しも、世界中の人々に影響を与えられる存在になることができます。

山口: 本当にそうですね。私も旅をする中で、素晴らしい技術を持った職人さんにたくさんお会いしました。彼らに共通する精神は、人々の笑顔や幸せを心に思い、技を駆使して美しいものを生み出すことです。人生の旅の中で出会う、素晴らしい人々が生み出す奇跡のような感動を、もっともっと世界に伝え新しい風を起こしていくことが、旅人としての役割かもしれません。

語り合うジャガン・チャパゲインさんと山口智子さん

知らないまま失われていく地球の美しい宝を伝えたい

(山口さん)

チャパゲイン: なるほど、自分が見聞きした情報やリアルなストーリーを伝えていくことが重要ですね。私も、もっとボランティアの姿を伝えていかねば。紛争地を訪れると、そこにも赤十字のボランティアがいます。レバノン赤十字社のボランティアは、負傷者の救急搬送をしていますが、毎朝の出動前に、お互いを抱きしめます。なぜハグをするのか、それは、生きて帰れる保証がないからです。「これが最後かもしれない」。そんな決意で挨拶を交わし、ハグをするボランティアの姿を見ると、毎回こみ上げてくるものがあります。「ボランティアの存在があるからこそ、世界は美しい」と、心からそう思います。彼らの姿こそ、私が伝えていくべきストーリーです。

山口: 世の中の理不尽な戦いで、地球の美しい文化や自然が失われていくことに心が痛みます。今ニュースで日々目にするのはイランの紛争。以前、イランの素晴らしい歌声を紡ぐ姉妹に出会い、「LISTEN.」にぜひ参加してくださいとお願いしたのですが、自国では女性のアーティスト活動が難しく、命の危険にもつながると言うのです。結局、彼女たちの故郷ではなくてノルウェーで撮影を行いました。自国での自由な表現が叶わなくても、「この歌は、父母や家族から受け継いだもの。美しい歌を育む故郷を心から愛している」と語る彼女たちの姿に心から感動しました。

チャパゲイン: かけがえのない経験をされていますね。人と人、文化と文化をつないでいく活動です。同時に、人々が希望を持って生きられる世界につながっていく活動でもあると感じています。山口さんの活動を、赤十字のスタッフやボランティアたちにも広く紹介したいです。

ハートラちゃんと山口智子さん
日赤の公式マスコットキャラクター ハートラちゃんと

「笑顔」は危機を乗り越えた後の希望

(チャパゲインさん)

山口: 私も、3つの“L”という大切なキーワードをいただきました。「知る」ことが「愛」を育み、世界中に笑顔があふれるための第一歩。互いの「知る」を深めることができた今日の素晴らしい出会いに、心から感謝です。

チャパゲイン: 笑顔は一見すると、力を持たないささやかなものに見えるかもしれませんが、笑顔の裏には力強い意味があります。そこには、危機を乗り越えた後の安心感、失った後に生まれる希望、そして、不確実な状況を経た後に得られる自信が込められているのです。人道への投資を続け、地域社会を強化し、連帯のもとに共に行動していくことができれば、より多くの人が「笑顔」を取り戻し、夢を描き、自信を持って未来に進んでいけるはずです。山口さんの活動も、文化が継承される基盤を支えてくれることでしょう。いつか一緒に旅ができたらいいですね!

山口: ぜひ! 笑顔をクリエイトできる旅の実現を願っています!

IFRCオリジナルの赤いスカーフを受け取る山口智子さん
『LISTEN.』の書籍を手にするお二人

スペシャル対談を終えて

この日のために、互いに特別なギフトを用意していたお二人。チャパゲインさんから山口さんへは、IFRCオリジナルの赤いスカーフが、山口さんからチャパゲインさんへは、『LISTEN.』の活動をまとめた書籍が贈られました。

Activities

お二人のこれまでの活動をご紹介します。

#3

LISTEN.
(リッスン)
プロジェクト

山口 智子さん

地球を“体感”する『LISTEN.』をライフワークに

馬と向き合う山口智子さん

地球の美しい音楽文化の映像ライブラリー『LISTEN.』プロジェクトは、10年かけて世界26カ国を巡り、各地の民族音楽など、大地に根づいた「生」のエネルギーに満ちた音を収集。書籍化されている他、昨年に引き続き2026年秋から、神奈川県横浜市のアートスポット『THE MOVEUM YOKOHAMA』で体感型映像を上映予定。

夕日を背に進む馬の群れ
©Listen Project ©Twin Planet Communications,Inc.
草原で笑う山口智子さん
©Listen Project ©Twin Planet Communications,Inc.
雪原で犬とふれあう山口智子さん
©Listen Project

近年は自身のYouTubeチャンネル『山口智子の風穴!?』を立ち上げ、“大人の学び”をテーマに、国内外さまざまな地を訪れ映像記録を発信。夫で俳優の唐沢寿明氏が発起人を務めるチャリティークラシックカーイベント『GO!GO!ラリー』にも参加し、東北や熊本などの被災地を支援する取り組みも行う。

未来に伝えたい「音」に耳を傾ける

書籍『LISTEN.』の誌面
書籍『LISTEN.』表紙
生きのびるブックス
『LISTEN.』
生きる力を生む「地球の音楽」を映像ライブラリーに収めるプロジェクト「LISTEN.」の旅をまとめた一冊。26カ国で撮り溜めた写真に加え、収録した演奏シーンは二次元コードを読み取ることで“体感”できる。

『THE LISTEN PROJECT』

書籍『LISTEN.』

Mr. Chapagain's
Activities

ジャガン・チャパゲインさん

豊かな世界と、なお届かない支援—この矛盾を打開するために

現地スタッフと抱き合うジャガン・チャパゲインさん

「今日の世界には、必要なものはすべてあります。お金があり、技術があり、全てがある。それにもかかわらず、今も何億もの人々が十分な食べ物を得られず、安全な水を飲むことができず、基本的なトイレすらなく、基礎的な医療も受けられずにいます。世界の一方にあふれている豊かさを、もう一方の人々につないでいく。IFRCの活動は二つの世界をつなぐ挑戦です」(チャパゲインさん)

スラウェシ島地震・津波の被災地を訪問するジャガン・チャパゲインさん
2018年9月に発生したスラウェシ島地震・津波を受け、被災地を訪問
モザンビークを訪問するジャガン・チャパゲインさん
大型サイクロンに相次いで襲われた、モザンビークを訪問(2019年4月)
COP27にIFRCの代表として参加するジャガン・チャパゲインさん
エジプトで開催されたCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)に、IFRCの代表として参加。気候変動を「人道危機」として位置づけ、気候災害の被災住民の声を国際交渉の場に届け、各国首脳に対策強化を呼びかけた(2022年11月)
南アフリカ赤十字社のボランティアによる食事提供を支援 子どもたちに声をかけるジャガン・チャパゲインさん
地域の子どもたちに食事を提供する南アフリカ赤十字社のボランティアを支援。子どもたちへの声がけも(2025年9月)