2022年2月の紛争激化から4年。
終わりの見えない人道危機の中で、国際赤十字と日赤によるウクライナ支援は続いています。首都・キーウに駐在する日赤ウクライナ現地代表部の芳原みなみさんは、厳しい冬を迎えた現地の状況をこう話しました。
ウクライナで国際赤十字やウクライナ赤と連携し、避難民支援などの協議を重ねる芳原さん
「キーウでアパート暮らしをしていますが、昨年10月くらいから毎日、断続的な停電が起き、ひどいときは半日以上電気が来ないことも。住んでいる場所を登録しておけば、その区域がいつ停電するのか事前にわかるアプリがあり、市民はそれを利用して、電気が来ているうちにシャワーを浴びたり携帯を充電したりと、電気事情に合わせた生活を送っています。暖房は、ガスを利用したセントラルヒーティングシステムである程度まかなえますが、ガスの供給が止まってしまったときは暖房もなくなるので、厚着をして、さらに布団を被って、なんとか寒さをしのいでいます」
空襲警報が鳴り響けば、地下のシェルターや壁2枚を隔てたセーフティエリアへ避難し、じっと警報の解除を待つ生活。今年1月にも、東部ハルキウ州で大規模な攻撃があり、ウクライナ赤の緊急対応チームのボランティアが、政府と連携し、被災者支援や捜索活動を行いました。
こうした中、紛争でけがをした人々や退役軍人など、リハビリを必要とする人の数は増える一方。
また、脳卒中や心疾患などで入院した患者さんが、十分なリハビリができずに病床を空けるために退院を促され、自宅に戻っても適切なケアを受けられないといった状況も。
ウクライナ赤は、これまでの訪問リハビリに加えて、一般の人々にも、リハビリトレーニングの正しい知識を普及する活動を始めています。
ウクライナを支援する国際赤十字の中で唯一、理学療法士を派遣してリハビリ支援を行っている日赤。
最初の派遣は2023年1月、そこから3年を経て、今回、リハビリテーション・ハンドブックが誕生しました。きっかけは、北海道・栗山赤十字病院から派遣された理学療法士・鈴木聡子さん。
ウクライナ赤の訪問リハビリに同行し、家庭でのリハビリ実施をサポートする鈴木さん(左)
「ウクライナのリハビリは旧ソ連時代の医療スタイルの影響を受け、近代的なリハビリの知識や技術を持つ理学療法士は、まだ人数が少ないのが実情です。この状況でリハビリの成果を出すには、一般市民の知識向上が重要です。ゼロから教材を作るのは時間も労力もかかりますが、日本のハンドブックを翻訳して活用できればと考え、現地スタッフに提案しました」(鈴木さん)
元になったのは、日本理学療法士協会が発行する「理学療法ハンドブック」。18冊のシリーズの中から、ウクライナ赤が選んだ5冊に絞って、翻訳が進められました。
「和式トイレや座布団といった、日本の生活様式で描かれている表現や、日本の福祉制度に基づいた表記をウクライナ向けに修正。ウクライナ赤、日本理学療法士協会とのやり取りが数十回に及ぶ中、日本に留学経験のある現地スタッフ・アリナさんの協力で、英語に変換することなく、日本語から直でウクライナ語に翻訳してもらえたことは幸いでした。
治療法に関しては、現地の理学療法士の確認も取りながら進めましたが、現地スタッフの『欧米式のリハビリに移行したい』という要望が強くあったのは印象深かったです」と鈴木さん。
翻訳したアリナさんは、「日本とウクライナには多くの文化的違いがありますが、福祉制度以外はほとんど修正の必要がなく、ウクライナでも通用する内容なので驚きました。
このハンドブックは今後、ウクライナの国民に大切にされ、日常生活に活用されていくと確信しています」と、語ります。また、実際にハンドブックの活用をスタートさせたウクライナ赤の職員、テティアナさんは次のように述べました。
完成したハンドブックを手に笑顔になる、ウクライナ赤のリハビリ支援チーム(左から2人目がテティアナさん)
「紛争によって医療やリハビリサービスを受けることが困難な状況が続き、人々は身体機能を維持するための実用的な知識を必要としていました。このハンドブックは、自らの力で移動したい方、病気から回復して健康的に生きたい方の支えになります。日赤が、その経験と知識を共有してくれたことに感謝しています」
これからもウクライナ現地のニーズに合わせた支援を日赤は継続していきます。