【WORLD NEWS】ウクライナ人道危機 絶望を超え、歩み出すためのリハビリ支援

2022年2月に紛争が激化し、3年以上が経過したウクライナ。日赤では当初から、ウクライナ赤十字社(以下、ウクライナ赤)への保健医療、社会福祉、組織強化の支援を行ってきました。今回は、その中でもリハビリテーション支援にフォーカスし、現地に派遣された理学療法士の声をお届けします。

ウクライナってどんなところ?

東ヨーロッパに位置し、東はロシア、西はポーランド、スロバキア、ハンガリーなどと接する共和制国家。国土は日本の約1.6倍。紛争前の人口は約4116万人(2022年1月1日時点/ウクライナ国家統計局)。かつてはロシア帝国やソビエト連邦の統治下に置かれ、1991年のソ連崩壊に伴い、独立国に。

リハビリ支援がつないだ縁 リヴィウ市長が日赤の義肢製作所を訪問

ウクライナでは、2022年以前からリハビリテーション強化の必要性が指摘されてきましたが、人道危機が深刻化する中でそのニーズはさらに大きくなりました。ウクライナ国内には、元々270万人の障害を抱える方がいたと言われていますが、紛争の被害により手足を失ったり、頭部外傷や脊髄を損傷してしまったりと、その数は30万人以上増えて、現在は300万人にも上ります。(2025年2月現在)

日赤では、ウクライナ赤が行う訪問リハビリを含めた包括的なリハビリテーション事業を、ハード面とソフト面の双方から支援しています。ハード面では、リヴィウ市において、公立の2つのリハビリテーションセンターの建築と増改築、そして、資機材提供を資金面で支援しました。

そのリヴィウ市の市長であるアンドリー・サドウィー氏が今年7月、日赤の義肢製作所(日赤千葉県支部付属)を訪問。義肢製作の技術者から日赤の義肢製作の歴史や義肢構造・製作工程の説明を受けました。また、市長からは、日赤の支援により実現したリヴィウ市のリハビリサービスの説明があり、日本の人々の支援に対する感謝も伝えられました。

義肢製作所で日赤職員から説明を受けるリヴィウ市長(右端)と、リハビリセンター建築家の男性

リハビリ支援の成果は着々と。 一方で、赤十字スタッフも徴兵、紛争の苦悩が重くのしかかる

日赤はこれまで、リハビリ支援のために3人の理学療法士を派遣。彼らは、専門的なリハビリ人材の不足に対して、現地の理学療法士と理学療法アシスタントへの技術指導も行いました。ウクライナを支援する国際赤十字の中で、理学療法士を派遣したのは日赤のみ。そのうちの1人が、日赤愛知医療センター名古屋第二病院の理学療法士・中島久元さん。初めてリヴィウ市のリハビリテーションセンターを訪れた際の印象を、中島さんはこう語ります。

「最初の派遣は、紛争激化から約1年が経過した2023年の1月。私が赴任した病院には、紛争の激しい東部から次々に傷病者が運ばれてきていましたが、負傷によって義手・義足を必要とする人の数に対して、資機材もリハビリを行う専門の人材も不足していました」

ウクライナでは当時、義手・義足は国内であまり製造されていない状況で、ほとんどが海外からの輸入。入手するのも時間がかかり、義肢を着けた生活に慣れるためのリハビリや、退院後に日常生活を送るためのサポートもない、と、問題は山積だったそうです。その後も、2024年、2025年とリヴィウを訪れ支援を行った中島さん。今年訪れた際に目にした光景で、現地のリハビリ支援の成果と進歩を感じることができました。

「最初の派遣で訪れた病院に立ち寄った際、病院の外の売店に歩いて向かう1人の患者さんが目に留まりました。よく見ると、彼の片手と両足は義手・義足。相当大きなけがだったと想像できますが、新たに体の一部となった義足で、すごく上手に歩いていたんです。義手・義足の質の向上と、リハビリ支援が確立しつつあることを感じました」

リヴィウ州のリハビリテーションセンターで活動する中島さん

それでも、現地を取り巻く状況は決して明るくありません。
「住民は、常に不安を抱えながら生活をしています。西側でも空襲警報が鳴り響いて、いつミサイルが飛んでくるか分かりませんし、インフラが攻撃されて電気が止まってしまうことも。男性はウクライナから出ることは許されず、声がかかれば戦地に向かわなくてはなりません。実際に私も、共に働いていた同僚2人が突然、翌日に戦地に向かうことが決まり、急な別れを経験しました。男性の訪問リハビリスタッフは、『訪問先で軍の人と遭遇して声をかけられたら…と考えると不安で、外に出るのを控えている』とも話していて、軍からの『君はまだ戦地に行っていないのか』と声を掛けられ、そこから徴兵に向けて手続きが始まることを恐れているようでした」

ウクライナでは、すべての国民が紛争の当事者。負傷者や障害者をケアする側の人も、常に「いつ自分も、このような痛ましい状態になるか分からない」という危機感と隣り合わせの中、支援しています。

「病院のICUで目にした光景も、忘れられません。頭部への外傷を負って話すことさえ難しい若い男性の手を、パートナーであろう女性がずっと握りしめ、切々と話しかけていました。きっと二人で生きていく未来を考えていたはずなのに、と思うと、耐え難い気持ちでした。若者の未来を奪い続ける紛争が、一刻も早く終わることを祈っています」

終わりの見えない紛争の中を懸命に生きる人々のために、赤十字は支援を続けていきます。

巡回診療、在宅ケア、「こころのケア」に加え、訪問リハビリテーション事業も実施