プロフィール

京都大学名誉教授・
地球科学者
鎌田 浩毅
(かまた ひろき)先生
1955年生まれ。1979年東京大学理学部地学科卒業。1997年に京都大学教授。2021年に京都大学名誉教授、2023年京都大学経営管理大学院客員教授。理学博士(東京大学)。「京大人気No.1教授」の「科学の伝道師」。近著に『大人のための地学の教室』(ダイヤモンド社)など。
静岡県・駿河湾沖から宮崎県・日向灘沖にかけての海底にある、南海トラフ。ここを震源域とする大規模地震は過去にも甚大な被害をもたらし、近い将来、その発生の周期が巡ってくる可能性が国からも発表されています。今回は、その被害予測から備えるべきポイントまで、地球科学の研究者である、京都大学名誉教授の鎌田浩毅先生に伺いました。
プロフィール

京都大学名誉教授・
地球科学者
鎌田 浩毅
(かまた ひろき)先生
1955年生まれ。1979年東京大学理学部地学科卒業。1997年に京都大学教授。2021年に京都大学名誉教授、2023年京都大学経営管理大学院客員教授。理学博士(東京大学)。「京大人気No.1教授」の「科学の伝道師」。近著に『大人のための地学の教室』(ダイヤモンド社)など。
鎌田先生が
伝えたいこと
地球科学は、地球で起こる現象の予測と(被害の)制御の学問。この学問は人の命を救うためにある。大地震が来る、そんなウワサに世間が踊らされても、本気になって備えるきっかけになればいい。死者を8割減らす!を目標に、皆の意識を高めたいんです。

西日本の太平洋側は、約100〜150年ごとに海溝型の巨大地震に襲われてきました。これが南海トラフ巨大地震です。過去には、1707年、1854年、1946年と、規則的に発生しており、過去の例を詳しく調べると、地震の発生を挟んで内陸地震の「活動期」と「静穏期」が交互にやってくることが分かっています。
現在は、ある時期から次の巨大地震の発生につながる「活動期」に入ったと考えられます。その活動期の火ぶたを切ったのが、1995年の阪神・淡路大震災です。
では、果たして、次の南海トラフ巨大地震はいつやってくるのか? その年月日を正確に予測することは不可能ですが、地震によって地盤が上下する現象・リバウンド隆起の規則性を調べることで、おおよその時期を予測することができます。現在考えられる想定では、2030年から2040年の間。今から5年~15年以内に来る、という見立てです。
内閣府が2025年3月に発表した被害想定によると、最大規模M9.1の地震が発生したとして、複数の県が震度7の大きな揺れに見舞われ、発災時刻や風速条件にもよりますが、死者数は最大29.8万人と見込まれています。
これは、2万人以上の死者・行方不明者を出した2011年の東日本大震災の15倍もの数字です。15倍と聞いてピンとこない方は、あの3.11クラスの大災害が15年間・毎年起きる規模、と想像したら、その激甚さがイメージできるでしょうか。


地震・津波・噴火は1セットで考える。富士山の地下にはパンパンにたまったマグマがあり、振った炭酸水がふたを開くと噴き出すように、地震をきっかけに噴出(噴火)する可能性が高まっている
南海トラフ巨大地震のような海溝型の地震による被害で、最も恐れられているのが津波の被害。そしてもう一つ、想定しておかなくてはならないのが、活火山の噴火です。多くの活火山の地下には「マグマだまり」があり、何らかのきっかけでマグマが地表にまで上昇することで、噴火が起きます。
例えば富士山で言えば、1707年12月に宝永噴火が起きましたが、この噴火を誘発したと考えられるのが、同年10月に起きた宝永地震(M8.6)、いわゆる南海トラフ巨大地震なのです。
その4年前・1703年には元禄関東地震(M8.2)があり、この2つの大地震によって、富士山のマグマだまりの周囲に割れ目ができたことで、マグマに含まれる水が水蒸気の泡になり、体積が500倍以上にも膨れ上がってマグマが上昇、噴火が引き起こされたと考えられています。富士山は活火山ですが300年も沈黙してきました。
いま、富士山の地下にはいつ暴発してもおかしくないエネルギー(マグマ)がたまりにたまっています。2つの巨大地震が噴火の引き金になったという前例は、東日本大震災+南海トラフ巨大地震によって富士山噴火が誘発されるというシナリオを暗示しています。
もしも富士山が噴火することがあれば、それは単なる自然災害ではなく、都市機能全体をまひさせる「複合災害」になります。火山灰がわずか数ミリ積もるだけで車も列車も走行できず物流が停止、停電と通信障害、さらには浄水場も機能停止するので、安全な水の供給が止まります。その被害は東海地方から首都圏までを襲い、日本経済の根幹を揺るがします。

南海トラフ巨大地震による被災地は、東京から九州までの広範囲が予想されます。その被災者はおよそ6800万人。これは、日本の人口の半分以上。東北や沖縄から救援が向かうとしても、対応し切れる規模ではないことは、容易に想像がつきます。物資の支援が届くのに1カ月以上かかるかもしれません。
そうしたときに、いかに個人で備えているかが、生き残れるか否かの鍵を握ります。まず、基本に忠実に、地震から身を守るための家具類の固定や耐震補強、非常用持ち出し袋の準備、救援物資が届くまでぎりぎりでも命をつなぐ水や食料の備蓄、簡易トイレの用意など、個人でできることの積み重ねが、必ず功を奏します。
私のおススメは、半日でも、電気が使えない生活を体験してみること。夏場は熱中症にならないようにしないといけませんが、エアコンも暖房もない、スマホも完全に使えない生活をしてみるのです。また、職場や学校からの帰宅ルートも、実際に歩いてみましょう。交通機関が止まり、徒歩で帰宅する場合、単純に家までの道のりを確認するだけでは不十分です。歩きながら、ビルの看板を見上げて落ちてくる危険を想像したり、倒壊した建物のがれきが道をふさいだ場合のう回路を探したり、河川の近くなどは、液状化を予測する。
危険な場所をどのように避けて帰るか、そうするとどのくらいの時間がかかるのか、自分用のハザードマップを頭に入れておくこと。あわせて、数少なくなっている公衆電話の場所を知っておけば、いざというときに大切な人に安否の連絡ができます。そうした備えの一つ一つが、自助につながります。


個人でできる備えには限界があるので、コミュニティーで力を合わせる、水や食糧をシェアする、ということが大事になってきます。あなたが頼れる人は、歩いて1時間以内の場所にいますか? 電車や車で1時間以上かかる場所は距離にして50~60km。実際に歩いてみると2~3日かかるんです。途中で寝泊まりしないとたどり着けない。だから、より近い場所にいる人たちとの協力関係が必要です。
私が赤十字に期待しているのは、赤十字なら、全国に支部があり、病院があり、ボランティアがいる。そこに関わる人たちが、防災・減災を伝える活動を続けること。地域の防災セミナーもいいですよね。備えの意識を変えた人が、その周りの3人に伝え、その3人がまた次の3人に伝えていけば、それが数珠つなぎになって、南海トラフ巨大地震の被災想定6800万人にまで広がる。夢みたいな話と思われるかもしれませんが、私は真剣にそう思っています。だって多くの人が生き延びるには、それが最も有効な戦略ですから。
巨大地震が日本を襲い、壊滅的な被害を免れることができないとしても、生き延びることができれば、立て直すことは必ずできます。私たちの文明は、大きなカタストロフィーと再建を繰り返して発展してきました。しかも、再建するときは社会も文化も進化した。「復興の後」には希望があるんです。
「生き延びて、皆で、また立ち上がる」
その強い決意と希望を一人一人が持ち、虎視眈々と「その日」が来るのに備えながら、日々を大切に過ごしてほしいですね。

「赤十字防災セミナー」は、地域に防災仲間を作り、共に高め合う場
日本赤十字社 防災業務課
山地 智仁(やまじ ともひと)さん
日本赤十字社は日頃から災害に備え、各支部・施設の医師や看護師等を中心に構成する医療救護班を全国に490班有しています。しかし、東日本大震災では救護活動を開始する前に、多くの命が失われていたことから、災害が発生する前に救える命を守るため、「赤十字防災セミナー」を始めました。同セミナーでは、災害に備える知識・意識・スキルを身につけるだけでなく、地域コミュニティーの形成も目指しています。子どもから大人まで、仲間作りも兼ねて気軽に参加して「皆で地域を守る」という絆を深める。防災力は自助と共助が合わさって高まるもの。防災セミナーは学校・町内会・各地域の団体などの要請に応じて適宜開催しています。ご興味がありましたら、お近くの日赤支部にご相談ください。
赤十字防災セミナーについて