生きる場所や資源も奪う大洋州の気候変動 【ワールドニュース】人々の安全を守り、将来的なリスクに備えて行動するために

大洋州と呼ばれる太平洋の島々は、サイクロンや地震、津波、火山噴火、干ばつといったさまざまな災害リスクが潜在し、近年は、気候変動の影響でさらに被害が深刻化しています。そこで暮らす人々の安全を守り、将来的なリスクに備えて行動ができるよう、日赤では、2023年4月から3年間の気候変動対策事業をスタートしました。今回は、フィジーにある国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)大洋州事務所を拠点として同事業の災害リスク管理を担う辰巳 碧さんに、現地の災害対応や、今、日赤に何が求められているかを聞きました。

救急法や防災教育などの青少年赤十字活動を実施している村を訪問し、子どもや若者たちにインタビュー

◆辰巳 碧(たつみ・みどり)/国際部 開発協力課
大学卒業後、開発援助機関、シンクタンク、NGOにて、主に教育と福祉分野に従事後、日赤の開発協力事業に参加。IFRC大洋州事務所にて、災害の備え・救援復興・開発協力に携わる。

気候変動に適応したコミュニティーづくりの研修。気候変動や災害、地域の脆弱性やリソースなどを学ぶ

自分より困っている人へ
分け与える心
厳しい環境が育んだ共助の精神


大洋州は、主にオーストラリア以東の太平洋に点在する14の島国を指します。その中で大洋州事務所が所管するのは私が駐在するフィジーを含めて11カ国。マーシャル諸島などサンゴ礁からなる国では、土壌が豊かではなく、高い山がないことから雲がとどまらず、降雨量が少なく、農作物もイモやバナナ、ココヤシなど生産できるものが限られます。そういった環境のためか、この地の人々は長い年月の間、助け合いながら生きてきました。この共助の精神は、分け与えることや誰かに頼ることを意味する「ケレケレ文化」として地域に根づいています。

例えば、バスに乗るお金がなくて困っている人がいたら、手持ちのお金をあげてしまうようなことは当たり前で、自分より困っている人を助けようという思いを持った人が多いです。このような助け合いは、赤十字の精神にも通じるものですが、大洋州では支援やボランティアを行う人材が不足している現状があり、それが事業を進める上で課題にもなっています。

今回、私が担当している災害リスクマネジメント調整要員は、災害が起こったときの救援から復興に向けた長期的な支援まで、シームレスにサポートすることを目的としています。基本的には、各国の赤十字社が主体となる活動を支える立場ではありますが、どこも職員が少ないため、支援物資の在庫やボランティアの管理など、現地の赤十字社と密接に関わりながら活動を行っています。

IFRC大洋州事務所の職員。フィジーの海岸に漂着する海洋ごみを減らすため、定期的に清掃活動に参加

自然災害と隣り合わせの日常
住む場所を失う
「気候難民」のリスク


大洋州は、世界で気候変動の影響を大きく受ける国のランキングで、バヌアツ、ソロモン、トンガがトップ3になるなど、多くの国が上位に入っています。特にサイクロンによる被害は頻繁に起こっていて、地すべりや洪水、住宅や農地への浸水が深刻です。現地の人々はそれらの自然災害に慣れてはいるものの、対策が不十分で、その必要性を強く感じている印象です。

近年は気候変動の影響で被害が拡大し、日常会話でも、子どもから高齢者まで気候変動というキーワードを口にします。また、気候変動による海面上昇で、数十年後には沈んでしまうかもしれないツバルのような国では、住む土地を追われ「気候難民」となる人々が増える可能性も懸念されています。これらの気候変動の影響やその後に起こりうるリスクを分析すると共に、どのような対策が取れるのかを、現地の人々の視 点に立って一緒に考えていくことも私たちのミッションです。

その他、自然災害が発生したときには、海外からの支援がすぐに現地に届かないケースもあるため、各国赤十字社が、行政や関係機関と協働してシミュレーションし、災害対応能力の強化に努めていくこと、さらに地域の人々に向けた防災知識の普及、ボランティアの育成といった活動にもつなげていく必要があります。

赤十字だからこその活動として、災害対応の初動に必要な情報を行政や各赤十字社と連携することや、支援物資や資機材の在庫の確認がスムーズに行える仕組み、また、離島やへき地でも、赤十字ボランティアによるアセスメントや救急法が実施されるなどが挙げられます。情報収集など被災状況の把握において赤十字が果たす役割は大きいです。6月にサモアで洪水が発生したときは、現地の赤十字のボランティアが収集した情報が、政府の公式情報として発信されました。IFRCとしても、そういった現地の赤十字を支えるべく、大規模な災害だけでなく、比較的小規模であっても迅速に資金援助ができる仕組みをつくることを検討しています。

日本の皆さんは、大洋州の国々の名前を聞くと南の楽園のようなイメージを抱くかもしれません。しかし、その写真や映像を彩るサンゴでできた島々で生きる人々は、実際にはとても過酷な状況に置かれています。日本も太平洋に浮かぶ同じ島国として、大洋州がどのような場所で、今、どのような支援が求められているかを、ぜひ知っていただきたいです。


大洋州ってどんなところ?

太平洋の中央部に点在する島国の総称。日赤では、キリバス共和国、クック諸島、サモア独立国、ソロモン諸島、ツバル、トンガ王国、バヌアツ共和国、パラオ共和国、フィジー共和国、マーシャル諸島共和国、ミクロネシア連邦の11カ国への支援事業に取り組んでいます。