過去数十年で最も深刻なアフリカの食料危機 ウクライナにおける武力紛争の陰で

視察中、ケニア赤十字社の食料配布に協力する吉田さん

国際赤十字はアフリカ各地の状況を調査し、被害が深刻な地域に有力赤十字社の代表者らを派遣。ケニアに派遣された日赤職員に現地の状況と赤十字の活動を聞きました。

ナイジェリアで赤十字関係者と話し合う田中国際部長(写真:©IFRC)

ウクライナにおける武力紛争が
アフリカに及ぼす影響

 ウクライナで起きた武力紛争の影響で、食料価格の高騰が全世界に広がっています。小麦の85%をロシア、ウクライナからの輸入に依存するアフリカのサハラ以南諸国ではより深刻な食料危機が発生。人口2億614万人のナイジェリアでは、440万人が飢餓に直面し、5歳未満の子ども約138万人が栄養失調に苦しんでいます。

 アフリカ全土では近年の干ばつや洪水などの異常気象により作物の収穫量が大幅に減少。自然災害に加え、政情不安、暴力、貧困が複雑に絡み合い、飢餓人口が過去最悪のレベルで増加の一途をたどっています。さらに新型コロナウイルス感染症のまん延による所得の減少や武力紛争の影響で、人々がどのような窮地に追い込まれているか、実態を把握するため、国際赤十字はアフリカ各地を調査。

ナイジェリアには日赤本社国際部長の田中康夫さんが、ケニアには日赤の職員でルワンダ首席代表を務める吉田拓さんが派遣され、赤十字職員やボランティアと共に住民への聞き取りや視察を行いました。

9月8日、国際赤十字は現地調査の結果を踏まえ、ケニアの首都ナイロビで「アフリカ食料安全保障危機会議」を開催

10月6日、食料危機対応を支援すべく、国際赤十字・赤新月社連盟およびアフリカの被災国赤十字社は総額2億スイスフラン(約300億円)の支援要請を世界に向けて発信しました。日赤も前年度から同危機への資金援助を繰り返し行ってきましたが、このたびの大規模な支援要請を受け、新たに3000万円の緊急支援を実施しました。

現地赤十字社スタッフやボランティアと一緒にオリエンに参加する、日赤ルワンダ現地代表部主席代表 吉田拓さん(写真中央)

唯一の財産、家畜も失い…
ケニアの深刻な食料危機


 吉田さんはケニア北部のマルサビット地区を調査しました。46万人の遊牧民が暮らすこの地区は、現在2人に1人が食料危機にひんしています。

「遊牧民はヤギなどの家畜を連れ、水を求めて移動しますが、近年の深刻な干ばつにより推定7頭に1頭の家畜が死滅、残る家畜もやせ細り、もはや市場で売ることもできません。ケニア赤十字社が行った食料配布の現場で出会った女性は、飼っていたヤギをほとんど失ったと嘆いていました。また、食料配布の現場まで10キロ以上歩いてきた母親の家には6人の子どもがいますが、配布した7kgの食料は3日で消費されてしまいます。この食料難をどう乗り越えるのか…。私たちが最も懸念するのは、この場に来られなかった多くの人々。食料配布の現場に来た人々は一見元気ですが、彼女らを家で待つ家族は、炎天下に食料を取りに来られないほど弱っている場合もある。先のお母さんには、次に失うのは人命だろう、と言われ言葉を失いました」(吉田さん)

 赤十字の活動は、その国の政府や国連機関とも協力して行われますが、へき地の人々にも支援を行き届かせる活動は赤十字が担います。

赤十字の強みは世界中のどこにでもボランティアがいること。特に都市部から遠く離れたコミュニティに暮らす人々の、声なき声に耳を傾けられるのは赤十字だけなのです」(吉田さん)

 赤十字の支援は食料の配布だけでなく、人々が自らの力で食料課題の解決に向けて立ち上がれるように生活力を向上させる支援や、命と健康を守るための保健・衛生指導、生きるための水を供給する簡易水道の敷設など、多岐にわたります。これら全ての支援が、皆さまからの寄付で実現しています。