新社長就任あいさつ「支援者お一人お一人の気持ちを大切に」 令和4年7月1日、日本赤十字社 清家篤新社長が就任しました。

日本赤十字社の理念は、「苦しみの中にいる者は、敵味方の区別なく救う」というアンリー・デュナンの言葉、「博愛これを仁という、仁とは人を慈しむこと」という佐野常民の言葉によく表れていると思います。その事業は「命を守り支える」に直結しているものばかりです。そうした日赤の理念や事業には常々敬意を抱いておりました。

こうした理念や事業をしっかりと継承していくことは、私たちに課せられた永遠の使命です。同時に今、私たちは大きな構造変化に直面もしています。それは少子高齢化といった人口動態、第4次産業革命ともいわれる技術革新、さまざまな分野でのグローバル化、そして地球温暖化に代表される自然環境変化といったもので、日赤の理念をそうした構造変化の下で実現するために変革も求められています。目の前の困っている人々を救うのにすぐに役立つ貢献も、将来に向けて必要な改革を行うことも、どちらも大切なことだと思います。

私はもともと労働にかかわる問題を経済学で分析する「労働経済学」の研究者で、その経験から確信しているのは、どんな社会、組織にとっても「人材こそ宝」ということです。ですから、日赤の「人間を救うのは、人間だ」というスローガンには、まさに我が意を得たり、とうれしくなりました。赤十字にとって何よりも大切なのは活動を支えてくださる「人」です。赤十字の事業は世界中で1400万人以上のボランティアによって支えられ、日本でも約114万人もの方々が赤十字奉仕団・ボランティアとして活動しておられるというように、赤十字はまさに皆さまの人間力によって成り立っています。

また、赤十字の活動は会費やご寄付によって支えられています。これは税金や社会保険のように国の法律に従って納められるものではなく、「苦しんでいる人を助けたい」という会員、寄付者お一人お一人のお気持ちによるものです。皆さまから赤十字にお寄せいただくご支援は単なる「マネーフロー」というお金の流れではなく、温かく、ときに熱き思いのこもった、「マインドフロー」とでもいうべき”気持ちの流れ“であると思います。社長就任にあたり、そのようなお気持ちを常に大切にして仕事をしていきたいと決意しているところです。

[プロフィール]
せいけ・あつし◎1954年生まれ。1978年慶應義塾大学経済学部卒業、1993年慶應義塾大学博士(商学)。慶應義塾大学商学部教授などを経て、2009年から2017年まで慶應義塾長、2018年から2022年まで日本私立学校振興・共済事業団理事長。現在、労働政策審議会会長、全世代型社会保障構築会議座長なども務める。