ウクライナ避難民を支援する、日赤派遣職員のミッションとは WORLD NEWS [ウクライナ人道危機]

診療所設営地の横で物資を配布するウクライナのボランティアと共に(前列右が仲里さん)

ウクライナ国内に、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)が支援し、ウクライナ赤十字社が運営する仮設診療所が立ち上がります。日赤はウクライナと周辺各国へ職員を派遣し、さまざまな支援を行っています。現地で活動する3人の日赤職員から話を聞きました。

救援活動で大切なのはスピード感

ハンガリーのオフィスでIFRCの職員と話す松山さん(右)

 ウクライナの隣国・ハンガリーのIFRC欧州地域事務所には、今回のウクライナ人道危機に対応するための本部が設置されています。この本部に派遣された日赤本社の松山勇樹さんは、ウクライナおよび周辺7カ国でのニーズや赤十字の活動についての状況を把握しながら、国際赤十字と連携し、日赤のリソース(資金・物資・ノウハウ・人的支援)を投入するための協議・調整・手配を行いました。

「救援活動はスピード感が重要です。ハンガリーにいるメリットは、ウクライナやIFRC本部のあるジュネーブと時差のない欧州時間で活動できること。『ウクライナに国際経験豊かな薬剤師を投入したい』という要請が日赤に入った際も迅速に大阪赤十字病院の薬剤師・仲里泰太郎さんを推薦し、実現しました」

 仲里さんはウクライナ西部のウジュホロド市に4月末から派遣されています。ハンガリーの国境に近い同市は退職後の高齢者が多く住むのどかな田舎町でしたが、2月の紛争勃発以降、主にウクライナ東部の激戦地から約30万人の国内避難民が押し寄せています。

「現在はフィンランド赤十字社と美術館の中庭に仮設診療所を設営しています。私は他国での設営経験もありますが、支援の長期化を見据えて、今回は基礎工事もより本格的です」
 ウクライナでも比較的安全とされるウジュホロドですが、毎日のように空襲警報が鳴り、その度に作業を中断して防空壕へ。空襲警報が鳴ると、のどかな町の空気が一変し、通りから人の姿が消えます。

「今の私の任務はウクライナ避難民のための『薬局づくり』です。貴重な資材を無駄にしないため、薬や医療資材の出納を管理するデータベース作成や、患者に渡した薬を記録する医薬品カルテの準備などを進めています。先日、街で買い物中にウクライナ軍の青年から、支援に来てくれてありがとうと話し掛けられました。彼は6月に東部の激戦地に向かう、と…。私も、今できることに向き合います」

仮設診療所テントの中でフィンランド赤十字社スタッフと話する仲里薬剤師(© Anette Selmer-Andresen/IFRC)

終わりが見えない…前例のない人道支援

モルドバ赤十字社の新しい倉庫に救援物資を搬入する河合さん(© Kathy Mueller/IFRC )

 一方、ウクライナの隣国モルドバ共和国には大阪赤十字病院の河合謙佑さんを3月末から派遣。欧州最貧国といわれる同国には、人口の20%近い約47万人の避難民が流入。その5分の1弱が同国に留まり、多くはホストファミリー(避難民を受け入れる一般家庭)のもとにいると考えられ、避難民の全容の把握を難しくしています。

「モルドバ赤十字社とIFRCではホストファミリーのもとにいる避難民に対しても毛布や衛生キットの配布をしています。また今後は生活支援金の給付も検討しており、その実現性を模索しています」(河合さん)

 避難民を受け入れているモルドバを、国際赤十字がどう支えていくか。組織力が強固とはいえないモルドバ赤十字社自体への支援も重要だと河合さんは言います。

「モルドバ赤十字社では救援物資を管理する倉庫を借りたばかりです。適切な倉庫管理のノウハウやそれを担う人材育成なども今後の自分の役割です」

 IFRCの緊急支援は通常3~4カ月で終わる仕組みですが、ハンガリー派遣の松山さんは「この支援は復興も含めれば10年以上かかるかもしれない」と語ります。規模も期間も前例のない人道支援に、日赤の職員たちの活動はこれからも続きます。