「東日本大震災」を語り継ぐ... JRCオンライン語り部LIVE 昨年 1万951人が 参加したJRC(青少年赤十字)の防災教育「語り部LIVE」をご紹介します

東日本大震災から11年。当時、未就学児だった子どもたちも中学生・高校生になりました。そして震災後に生まれた多くの小学生は被災の状況をほとんど知りません。日赤では、青少年赤十字(JRC)の指導の柱として防災教育を掲げ、「正しい知識を持ち、自ら考えて判断し、危険から身を守る行動をとる」力を育んでいます。今回は、全国で展開している防災教育の中から、日赤宮城県支部がJRC加盟校を対象に実施している「オンライン語り部LIVE」活動を一部ご紹介します。宮城・岩手で被災した10人の語り部たちの体験を聞き、生徒一人一人が自分ゴト化して考え、自らの命を守る知恵を身につけることを目的としたプログラムです。
(「オンライン語り部LIVE」は公益社団法人3.11みらいサポートとの協働事業です。)

小・中学生にできること、やるべきこと

【語り部 岩手県釜石市 菊池のどか さん】

IMG_0929_b.png 2011年3月11日。私は、釜石東中学校の3年生。2日後に卒業式を控えていました。
 普通に学校に行って、いつもとなんら変わりない1日。その放課後に、突然、地震が来ました。
 その時、私は校舎の外にいました。あまりに長く揺れが続くので普通の地震ではないと感じましたが、山の方から「ゴロゴロ」と音がして、「津波が来る!すぐに避難しないといけない!」とひらめきました。この地域では、地震が起こり山から音がすると津波が来る、と言い伝えられています。地震の揺れが小さくなると、私と同じように感じた中学生たちが、校舎の中からも、校庭からも、一斉に走って避難を始めました。訓練通りの行動でしたが、隣接する鵜住居(うすのまい)小学校の前を通ったら、生徒たちがまだ校舎の中にいました。いつもの訓練では中学生は小学生と一緒に逃げます。誰からともなく、校舎にいる小学生に「津波が来るぞ!逃げろ!」と大声で呼び掛けが始まり、それは中学生全員に広がって皆が避難を呼び掛け、そして走り続けました。小学生たちも私たちの後に続き、全生徒が無事に一次避難所にたどり着きました。しかし、そこで大きな余震があり、近くの崖が崩れるのを見て、私たちはさらに高台に逃げることにしました。

 その時の写真が【A】です。中学生と小学生が手をつないで逃げています。でも皆さん、この写真を見て何か気づきませんか?…よく見ると、この時、生徒たちは走っていないのです。実は、同じ道を逃げる人があまりに多くて、人で渋滞が起き、走れずにいたのです。そしてもう1つ。車が逃げる人と逆の方向を向いているのに気づかれたでしょうか。この車列は、子どもを迎えに学校の方向、つまり海の方向に向かう保護者の車でした。ここで避難途中の子どもたちと出会えた保護者は、車を乗り捨てて一緒に高台を目指しました。ところが、別のルートで学校に車で向かった保護者もたくさんいて、津津の被害に遭いました…私たちが、家族と万が一の時にどのように避難するか、ちゃんと話ができていたら…、と苦しい気持ちになります。

 そして写真【B】は、二次避難所から見た町の様子です。ヘリコプターのような大きな音がして、辺りを見回したら、次の瞬間、魚が腐ったような匂いと共に真っ黒な海水が眼下の町をのみ込みました。どんどん迫ってくる津波に、子どもも大人も泣き叫んだり、家族の名前を呼んで津波に向かおうとしたり、パニックになりました。私も、ここで死ぬかもしれないと感じました。しかし、“死にたくない”という強い思いが湧き、裏の山を目指して、夢中で走りだしました。


 私は、津波は“いつか”来ると思っていました。でも“今日”だとは思っていませんでした。


 今日来ると分かっていたら、できたことがたくさんあったと思うのです。
私がみなさんに伝えたいのは…、(1)自分の町でたくさん遊ぼう、(2)地域の人にあいさつしよう、(3)毎日朝ご飯を食べよう、(4)災害について知ろう、(5)家族と避難について話そう、です。
 地域の人を知ることは防災につながります。避難した時に、助けたり助けられたりすることができます。また、災害はいつ起こるか分からないので、朝昼夜、しっかり食べることは大切です。そして、災害が自分たちの生活にどう関わってくるかを知り、家族とどう避難するか、どこに避難するかを話し合ってほしいのです。最後に。毎日の生活を大切にしてください。当たり前に生活できることはすごく幸せなことです。家族やまわりの人に感謝をしながら日々を大切に過ごしてほしいと思います。

※掲載用に一部内容を省略

子どもたちの学びが、やがて地域の力になる

橘小学校の「語り部LIVE」参加の様子

【参加者 徳島県阿南市立橘小学校 山本 栄 先生】

 JRC加盟校である本校では、オンライン語り部ライブに、2年連続で参加しています。今年度も全校児童で聞かせていただきました。どの子も、4人くらいの語り部さんのお話を聞かせていただき、学校全体では合計7回のライブに参加しました。
 菊池さんのお話の中で、二次避難所から眼下の町が津波にのまれている写真がありましたが、これには「必ず来る、何年か後の私たちの町の風景だ」と衝撃を受けました。高台にある町内の防災公園から見下ろした風景と重なって見えたのです。
 私たちの学校はリアス式海岸の橘湾の近くにあります。この地域は、昭和南海やチリ地震の津波で甚大な被害を経験しており、市外から転居してきた私も地元の方から当時の様子を聞きました。南海トラフ地震では8.2メートルの津波被害が予想される地域であり、数年前にそれが発表されると、多くの家庭が安全な内陸部に転居していきました。それでも、この土地を守っていきたい住民はたくさんいるので、学校でも地域でも防災避難訓練を熱心に実施しています。


 菊池さんのお話以外にも、山のお寺で避難生活を送った話や、大切な家族を津波で失った話などの体験談は、本校児童にとって、自分の住んでいる町の状況や、学んでいる防災学習と重なることが多くあります。そのため、この体験談を聞くことで、児童一人一人がさまざまなことを感じ、自分ゴトとして吸収できるのだと思います。昨年の語り部ライブで学んだ児童には、こんなエピソードがあります。今年1月に起きたトンガの噴火では、徳島の沿岸にも津波の警報が出ました。しかし、親御さんが家から避難しようとしないので、児童は泣きながら親を説得し、高台の避難所に家族で向かいました。また、低学年の子でも、話を聞いた後の感想文に、自分ができることを「(避難所で)小さい子の遊び相手・食べ物を配ること」と具体的に書いていました。備えの大切さや安全な避難についてだけでなく、一歩進んで、自分が周りの人のために何ができるかを考えたのです。


 地域の避難訓練では、小中学生のいる家庭や若い世代の参加は少ないようです。しかし、学校での防災教育が家庭に浸透することで、地域の防災力にも貢献できると思います。「いつか大きな災害が町を襲った時、子どもたちもその家族も生き延びて、この土地を立て直せるように…」。そういう学びになることを願い、これからも防災教育に力を入れていきます。

宮城県の日赤職員とオンラインで対話する橘小学校の生徒

【参加生徒の声】

「東日本大震災で起こった揺れの時間がながいなと感じました。そして、僕が一番考えたのは、想定外レベルの津波が来たときにどこに逃げたらいいか分からないということです。だから、大人(親)と想定内、外、2つの場合を考えて、再度話し合っておきたいと思いました。」(徳島県阿南市立橘小学校6年 東條天飛さん)

「子どもを助けようとむかえに行ったお母さんが津波で亡くなってしまった。お話を聞いて、とても、こわいと思いました。私は、家に帰ってから家族と津波のことを話しました。地震や津波はとつぜんやってきて、家族に会えないこともあるから、自分で考えてすぐひなんして自分の命を自分で守りたいと思いました。」(徳島県阿南市立橘小学校6年 島尾紗季さん)

「特に心に残ったことは、お迎えに来た保護者の方々が亡くなられたというところです。学校で災害がおきたときのことを親に話してなかったからと聞いて、親へ報告する大切さも知りました。菊池さんが『今日津波が来るとわかっていたらできていたことがあったし、前からやっっていないとできなかったことがある』とおっしゃったとき本当にそのとおりなんだと実感しました。」(熊本県山都町立蘇陽中学校2年 田中彩葉さん)

「東日本大震災が大きな被害をもたらしたことは知っていたけど、津波が10m以上もきたことを知り、改めて、災害とは何もかも壊していく恐ろしいものだと感じました。また、菊池さんの話の中に『ありがとう、ごめんねは思った時に伝える』ということを聞き、これから私も家族や友達に思いをその時にしっかり伝えようと思いました。これから先、必ず起こる南海トラフや首都直下型地震などに備えるために、自分の住む地域がどのような影響を受けるのか、調べたりし、少しでもできる対策をやろうと思いました。」(熊本県山都町立蘇陽中学校2年 廣瀬未紘さん)

「『いつか災害が起きる』ではなく、『今災害が起きたら』が大切だなと思いました。本当に災害が起こっても、慌てずに避難できるか不安な気がするので、これからは今よりも避難訓練に意欲的に取り組むようにしたいです。家族とも『もし災害が起きたら』のことについて、しっかり話し合うようにしたいと思います。今日は災害について様々なことを知ることができました。今日は本当にありがとうございます。」(埼玉県秩父市立尾田蒔中学校1年 関根一華さん)

日本赤十字社
青少年・ボランティア課長 
藤枝大輔