大規模自然災害に立ち向かう「予測的支援」 WORLD NEWS:アジアの自然災害と赤十字の対応

フィリピン南部を襲った巨大台風からわずか2週間後、フィリピン赤十字とIFRCの支援を受けて、住民は家と生計の立て直しを始めた。「赤十字の支援に感謝します。忍耐力を持って、私の家を再建することができます」(©️ IFRC)

気候変動の影響によって大規模な自然災害が頻発する中、災害を予測することで失われる命を最小限にとどめる「予測的支援」の取り組みが進んでいます。マレーシアにある国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)のアジア大洋州地域事務所に出向し、事業調整官を務める日赤職員・貝淵友紀さんがリポートします。

yukikaifuchi2.jpg 年末も押し迫り、COVID-19の変異株による感染再拡大が世界中で起きていた時期に、アジアでは自然災害が同時多発的に起こり、多くの人々が避難生活を余儀なくされました。

「12月16日にフィリピンを襲った台風22号は、年末にこれだけ大きな台風がこのエリアを直撃するのは珍しく、死者約400人、被災者800〜900万人と甚大な被害をもたらしました。またインドネシアでは11~12月にかけて地震、ジャワ島の火山噴火、洪水と立て続けに災害に見舞われています」

 ジャワ島の噴火は日本でも大きく報道されましたが、アジア各地では、マレーシアの豪雨、ミャンマーの地滑り、パプアニューギニアの津波など水に関連する災害が頻発していたのです。

ジャワ島の噴火直後から24時間体制で救援を続けたインドネシア赤十字社の救急車と緊急チーム(© Indonesian Red Cross Society)

「原因とされるのが地球温暖化に伴う気候変動です。2021年夏にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が『気温1℃の上昇で1日当たりの極端な降水は約7%強まる』と報告しています。気温が高いと大気中の水蒸気が増え、そのぶん豪雨や台風などによる水害が増えます。IFRCが確定した財政支援件数も、この10年は増加傾向にあります」

 貝淵さんが所属する緊急支援調整チームは、現地とスイスのIFRC本部との連絡調整に、24時間体制で対応しています。災害発生時の緊急支援の一方で、IFRCでは事前に災害を予測し、被害や被災者を最小限にとどめる取り組みも進んでいます。

「IFRCのクライメイト(Climate:気候)センターは、気象学の科学者や、防災・環境・保健などの分野の専門家で構成される組織です。災害が予測されるエリアや時期、規模などの研究をし、各国の赤十字・赤新月社はIFRCの協力のもと、備蓄品の拡充や支援計画書の作成など、災害に備えた準備をします」

 特にアジア大洋州地域は季節性の災害も多いため、"予測的支援"の効果が高いとのことです。

「実はフィリピンの台風災害時も、台風が直撃する前から現地赤十字が避難民の誘導や備蓄品の用意といった"予測的支援"を展開しています。また被災時には世界各国から100を超える支援団体が現地入りしたのですが、フィリピン赤十字社のリードのもと各団体・政府と的確に連携することができました。迅速かつ効果的な支援をする上で、現地に赤十字社がある強みを改めて感じましたね」

 避難所では避難者だけでなくボランティアの安全を守るためにも、今なお脅威であるCOVID-19の感染予防対策が欠かせませんが、それらの膨大な支援の調整に追われる中で、貝淵さんはあることに気づきました。

「他の赤十字社が手を挙げない支援にも、日本赤十字社は必ず動きます。見過ごされそうな地域の支援にも人員や活動資金を拠出したり。国際赤十字組織の側からみて誇らしく思いました。日赤がこのようなきめ細やかな活動を継続できているのは、政府などからの公的資金ではなく、みなさんのご寄付が活動の原資となっていることが大きな要因です。あらためて日本のみなさまに感謝の思いを抱いています」

 現在、1月のトンガの火山噴火の支援にも奔走している貝淵さんの奮闘は今後も続きます。