持っていますか? 不安を和らげる 「心のゆとり」

独自調査で見えてきた「コロナ禍の心のゆらぎ」

新型コロナウイルスの初の感染者が国内で確認されてからほぼ2年が経過した昨年12月、日本赤十字社では全国の高校生、大学生・大学院生、およびその保護者、各100人を対象に「コロナ禍がもたらした心の変化」を独自調査しました。調査で明らかになったのは、コロナ禍において半数もの若者が「無気力感」に陥っていたこと。中には「孤独」を感じ、精神的に追い込まれた若者も存在していました。ところがそうした不安については保護者にほとんど相談されていない実態も浮かび上がりました。心の変化をキャッチするのが難しいこの世代に、大人たちはどのように寄り添っていけばよいのでしょうか。そして、大人たち自身も、このコロナ禍のストレスをどう乗り越えていけばよいのでしょうか。心のケアの専門家がアドバイスします。

日本赤十字社『新型コロナ禍と若者の将来不安に関する調査(2021年)』

~心の専門家からのアドバイス~

セルフケアで
不安を和らげ
心を軽やかに

日本赤十字社医療センター 臨床心理士 秋山恵子 / 関真由美

 今回の調査対象である高校生・大学生は進学や就職といった大切なライフイベントを間近に控えた、平常時であっても将来への不安を抱えやすい世代です。そんな時期に先の見通せない災害(コロナ禍)に見舞われて、頑張ろうとする気力が湧かない(無気力)のは自然な反応だと言えます。今は大人の中にも、強いストレスを抱えている方も数多くいます。
 しかし、このような心理状態は決して見過ごしてよいものではなく、もしも明らかにストレスを抱えている方が周囲にいたら、声を掛けてみてください。赤十字も災害時に「PFA:サイコロジカル・ファーストエイド」という心の応急処置を実施しますが、このPFAの基本は「見る・聞く・つなぐ」です。まずその人の様子や状況を「見る」、どうしたの?と「聞く」、本人の気持ちが和らぐような手段に「つなぐ」。この「つなぐ」は、近くでカウンセリングを受けられる場所があったら、そういう相談窓口につなぐ、ということも当てはまります。
 ここで心掛けておきたいのは、決して押しつけ(強要)にならないようにすることです。思春期の子は特にそうですが、「頼りたくない」「弱いところを見せたくない」という気持ちが強く、拒絶されることもあります。詮索(せんさく)するのではなく、いつでも相談相手になるという態度を示すこと。信頼できる「安全地帯」になって、自然と相談しやすい空気をつくっていただきたいのです。「ちょっとお茶しない?」など、気分転換できることに誘うのもいいですね。


 不安やイライラなどの心のゆらぎは、本人が気づけていないことがあります。いつもと様子が違う、など周囲の人が気づけることが大切です。そして、この「気づく」は自分自身のストレスに対しても、同じことが言えます。 強いストレスを感じるなどつらい状況にあるとき、心を回復させるためには、セルフケアが欠かせません。私たちが提案したいのが、「心の処方箋箱」を作ることです。その方法はこうです。自分がこれをやると気分が良くなる、リラックスできる、という内容を短冊に書きます。たとえば「ちょっぴり高級なアイスを食べる」「飼い猫のおなかに顔を埋める」など、自分が癒やされることをどんどん短冊に書いて、箱に入れておきます。そして心のモヤモヤや落ち込みに気づいたら、「心の処方箋箱」からくじ引きのように短冊を引き、そこに書かれていることを実践します。その後も気分が良くなることを見つけたら、短冊を増やしていき、「心の処方箋箱」をアップデートしていきましょう。短冊の数は多ければ多いほどいいです。

 「心の処方箋箱」の目的は、心のゆとりを取り戻すことにあります。心にゆとりがなくなると、イライラを周囲にぶつけてしまいがちです。そしてそのイライラは誰かのイライラを呼びます。このコロナ禍のような災害発生時は「イライラの連鎖」が生じやすい状況です。だからこそ今は一人一人がしっかりとセルフケアをして、心のゆとりを保っておくことが大切です。こうしたことが社会全体の「自ら立ち上がる回復力(=レジリエンス)」を高めることにつながると考えています。
 一人のゆとりが誰かのゆとりを呼んで、周囲へと社会へと広がっていく。そんな「ゆとりの連鎖」の1つ目の鎖に、これを読んでいるあなたがなっていただけたら、こんなにうれしいことはありません。

大切なのは「心のゆとり」。「ゆとりの連鎖」を広げていこう!

【心の健康が気になるときに】
厚生労働省「こころもメンテしよう ~ご家族・教職員の皆さんへ~