コロナ禍でニーズが高まる、人道支援のICT活用 【WORLD NEWS】 世界を救うデジタル技術

赤十字職員から食料購入に使えるカードを受け取り笑顔の親子(キュラソー)/© Arie Kievit_Red Cross Curaçao

デジタル技術の発展とともに、人道支援の現場で用いるツールも進化してきました。
各国の赤十字で広がるICT(情報通信技術)の活用事例をレポートします。

混乱する支援現場をデータで支える デジタルボランティアチーム

ケニアでは地図作成ツールを使った支援が現場の救援活動の貴重な情報に

 近頃よく耳にする「ICT」という言葉。「Infor-mation and Communication Technology」の略で「情報通信技術」を意味します。世界中の医療や教育分野で急速に進むデジタル化を支えているのがICTです。赤十字でもICTを積極的に取り入れています。2018年5月、豪雨によってダムが決壊し、ケニア中部の町で起きた大規模災害では、オランダ赤十字社の支援により立ち上がったデジタルボランティアチームが大活躍しました。
 現地では多数の犠牲者が出たほか、多くの人々が避難を強いられていました。ところが被災状況を確認できる正確な地図がなかったため、救援活動は混迷を極めていたのです。
 デジタルチームはただちに現地と連携。衛星画像などのデータをもとに、被災前にあった道路や建物の位置を精緻に示した地図を作成しました。この地図によって救援活動がスムーズに行われたほか、被災者数を推計する手がかりとして、支援規模・体制を決定する貴重な情報にもなりました。


 コロナ禍においてもオランダ赤十字社のICTが活用されています。オランダ領キュラソーを含むカリブ海諸島は観光業に従事する住民が多く、感染拡大によって経済的に深刻な打撃を受けています。食料支援が急務となりましたが、この地域では島ごとに異なる言語が使われていることが支援活動の課題の一つだったため、デジタルチームは4つの言語で一斉に情報発信するメッセージアプリを構築。さらに住民が希望する支援形態(食料品、食料購入用カードなど)を入力できるデジタルデータベースを利用しました。職員はそのデータをもとに個々人のニーズを把握し、支援活動を実施。業務をデジタル化することで、職員を感染から守りながら迅速かつ的確な支援ができる体制が実現しました。

ICRCとNECが共同プロジェクト。人道支援に求められる日本の技術

ICRCと早稲田大の地雷探知プロジェクトで活躍するドローン

 地雷などの脅威の除去に取り組む赤十字国際委員会(ICRC)では、2018年より早稲田大学理工学術院総合研究所と共同で「ICTを用いた効率的で利用しやすい地雷探知システム」の研究を進めてきました。すでに赤外線カメラを搭載したドローンから撮影した画像に、人工知能(AI)を用いたデータ処理技術を組み合わせ、地中に埋まった地雷が放射する熱特性を検出する実験が成功を収めています。今後は、実際の現場でテスト飛行するなど、地雷の位置を予測・発見するシステムの実用化に乗り出す意向です。
 2021年6月にはこの共同研究に協力してきたNECと、ICRCがパートナーシップを締結。「紛争地の人道問題の解決」に日本の技術を活用するプロジェクトが本格始動しました。最先端のICT技術が人道支援の現場でより一層活用されていく見込みです。