大阪 コロナ重症センターで働く日赤看護師 感染拡大により病床がひっ迫した大阪で、重症患者を専門に受入れる臨時の医療施設が「大阪コロナ重症センター」です。 看護師の不足を補うために全国各地から派遣され、今後も派遣が予定されています。 その中には、日赤看護師の姿も…。同センターに勤務する日赤看護師の声を紹介します。

「患者さんを助けたい」 その一念で富山から大阪へ

塩原看護師、大阪コロナ重症センターにて(c)Atsushi Shibuya/JRCS

富山赤十字病院 看護師
塩原 潤 さん

「富山ではDMAT(災害派遣医療チーム)にも所属しています。いつでも出動できるようにとDMAT訓練にも参加してきましたが、コロナ禍で訓練さえも中止に。そんな中、大阪のコロナ重症センターから看護師派遣の要請が来ていると知り、迷わず派遣を希望しました。実際に現場に入って驚いたのは、集まった看護師の意識の高さです。みんなが『患者さんのために』という強い意識を持っており、普段は味わえない良い刺激をたくさんもらいました。


 新型コロナの患者さんをケアしていて悔しいと感じるのは、昨日まで回復に向かっていた方が、翌日から急激に容態が悪化し、最悪の場合はそのまま亡くなってしまうこと。回復を願って精いっぱいのケアを続けてきて、会話もできるようになっていた方が、なぜ…。やり切れなくなります。一方で、意識不明で運ばれてきた方が、歩行器を使って歩けるまで回復した姿を見ると、勇気が湧いてきます。つらいこともあるけれど、看護師の仕事は、患者さんから力をもらっていると実感します。


 僕は前職を辞めて看護学校に入り直し、その後准看護師として介護施設や病院で働きながら正看護師の資格を取りました。看護師になろうと決意したのは、兄がDMATの看護師として活躍している姿を見て、自分も困っている人を助けに行きたい、という気持ちが抑えられなくなったからです。日赤に勤めてよかったと感じるのは、富山にいても大阪に助けに行けること。他の病院だと、助けに行きたくてもなかなか動くことができません。全国に赤十字病院のネットワークがあり、救護活動を使命としているから、災害が発生したときの瞬発力がある。これこそ赤十字の強みですね」

意識のない重症患者のケアを行う塩原さん(右)(c)Atsushi Shibuya/JRCS

今日から初参加。少しでも力になれれば…

朝倉看護師、大阪コロナ重症センター前にて(c)Atsushi Shibuya/JRCS

高知赤十字病院 看護師
朝倉早紀 さん

「高知ではICU勤務でしたが、これまでコロナ患者さんを看(み)ることがありませんでした。今日、研修で防護服の着方を学び、いざレッドゾーンに入るという瞬間に『いよいよだ』と実感が湧いてきました。私は広島の赤十字看護大学を卒業しましたが、これまで赤十字の精神を意識したことはありませんでした。大阪の重症センターへの派遣希望を出したとき、上司の看護師長から『行く決断をしてくれてうれしい。それこそ赤十字の精神よ』と言われて、改めて赤十字の役割について考えました。


 重症センターで働くことに不安はありません。感染を防御する方法を徹底すれば大丈夫、と分かっているので。ただ、これまでのICU勤務と違い、より近くで患者さんに寄り添うのが難しい現場なので、日々手探りでも、患者さんのためにできることを見つけていきたいと思っています」

(左)初めてコロナの重症患者の病床が並ぶ「レッドゾーン」に入った朝倉さん(写真左端)、(右)防護服を脱ぐ際に感染しないように研修を受ける朝倉さん(c)Atsushi Shibuya/JRCS

全国からのサポートに感謝

古根川看護師長、大阪コロナ重症センターにて(c)Atsushi Shibuya/JRCS

大阪コロナ重症センター

(大阪急性期・総合医療センター所属)

看護師長 古根川綾子さん

「この重症センターの看護師は、自ら手を挙げて参加されている方がほとんどです。日赤さん含め、全国から大阪に来てくださって、本当に感謝しています。

 このセンターへ派遣された方との最初の面談で必ず聞くのが、ここに来ることを家族には話せたのか、家族や同僚はどう言って送り出してくれたのか、ということ。ここでは、食事の時は一人で、周囲との会話禁止、がルールです。遠くから来て知り合いもいない中、仕事のことで落ち込んでいても、思いを吐露する場がほとんど無い。さらには、毎日、重症センターと宿舎を往復する日々ですから、気分転換も難しい・・・。そんなとき、派遣前に快く送りだしてくれた家族や同僚の存在が、モチベーションを維持するカギになるからです。

 感染防止のN95マスクは普通に呼吸をするのも息苦しく、その上で防護服を着込んで作業をしていると、2時間ほどでヘトヘトになります。しかも、その間は水を飲むこともトイレに行くこともできないのです。でも、目の前の患者さんをケアしなければという強い使命感によって、働き続けてしまう看護師がいて、それくらいの熱い使命感で来てくださっている、ということに感動する一方で、それでは肉体も精神も追い込まれてしまうので、一緒に働く全員で注意を払う必要があると感じています。

 私たち看護師にとって最高のご褒美は、回復してこのセンターから軽症患者向けの病院に移動するときの患者さんの表情です。外に出た瞬間に、目が輝くのです。そしてずっと面会できなかった家族が離れた所で見守ってくれていることに気づいた患者さんは…こんなに幸せな瞬間はあるだろうか、と全身が喜びにあふれています。看護師として、この瞬間に立ち会えてよかった、と心から思います」

グリーンゾーン(事務スペース)で業務の話をする塩原看護師と古根川看護師長。「塩原さんを送り出した富山赤十字病院さんは、寂しがっているのでは…。塩原さんは、あたたかい人柄で頼りになるので」と古根川看護師長 (c)Atsushi Shibuya/JRCS




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