日赤の現役看護師が受章(F・ナイチンゲール記章)! 第48回 フローレンス・ナイチンゲール記章の受章者発表

苫米地 則子(とまべち のりこ)◎青森県生まれ。日本赤十字社医療センター 看護師長(国際医療救援部)。1997年、スーダン紛争での国際救援活動に携わって以来、計16回の国際派遣を経験。2020年2月、世界からも注目を集めた「ダイヤモンド・プリンセス号」船内のコロナ対応では、看護師としての専門知識と数多の国際経験を遺憾なく発揮した。

世界的な栄誉であるフローレンス・ナイチンゲール記章。第48回では18の国と地域から25人が受章。日本からは日本赤十字社医療センターの苫米地則子さん(現在、バングラデシュに派遣中)、ペシャワール会/PMSの藤田千代子さんが受章されました。1920年の第1回授与からの受章者総数は1543人にものぼり、日本からの受章者は世界最多の112人となります。

受章記念インタビュー:苫米地 則子さん from バングラデシュ

Q.まずは受章の感想をお願いします。

A.受章は驚きました。赤十字の国際的な活動に数多く関われてきたことに加え、初期の新型コロナウイルス感染症の対応が注目されて今回の栄誉を頂いたのだと思いますが、いま、これまで普通にできていた「苦しんでいる人を救う」という活動がコロナ禍で制限される中、現役の看護師として使命を全うしなさい、という意味があるのかなと感じています。

Q.コロナ禍の初期、クルーズ船で救護班の総括調整員として活動し、どのようなことを考えましたか。

A.未知のウイルスが、クルーズ船内で蔓延している――。厚労省から日赤に対して船内の救護活動と、薬の支援の要請があり、私は、救護班のとうかつ総括調整員として派遣されることになりました。任命の際、クルーズ船の中は人種のるつぼで特殊な環境だと聞かされても、それに対するプレッシャーはありませんでした。これまでの海外救援と条件は近いので。それよりも、通常の海外派遣では事前に複数のワクチンを接種して備えるのに対し、未知のウイルスへの対応でワクチンもなく、その時点でできる感染対策を徹底することが唯一の備え。また、風評被害への懸念からそこで活動しているということを伏せなければならない、ということに通常と違う緊張感やストレスがありました。全国の病院から継続して医療チームを派遣することができ、なおかつ海外救援の経験が豊富な日赤は、このような特殊な医療支援でも、国や行政から期待されます。未知の感染症対応という厳しい業務に、国としてもDMAT要員を派遣し続けるのがどんどん難しくなっていったので、実際に「日赤には最後まで残って活動して欲しい」という依頼も受けました。


Q.クルーズ船の業務については、船内で救護活動にあたった医療従事者に、大変なストレスがかかっているという報道もありました。

A.感染予防の知識がある私たちにとっても、未知のウイルスに対して、どうすればしっかりと防御できるか、何が正しい情報なのか、正解がわからない中で不安やストレスを感じてしまうのは仕方がなかったと思います。しかし、今になってみれば、業務に対する不安を払拭するためにもっとできることはあったのではないか。医療に従事するプロフェッショナルとして、必要以上に恐れることなく、かつ徹底的に正しい感染対策をとる。今後このような感染症の流行が再び起こることも想定し、備えの質を高めて行かねば、と考えています。

Q.このコロナ禍で、現在、苫米地さんはバングラデシュで活動されています。過去にも3回バングラデシュに派遣されており、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し始めた時、現地のことが心配になったのではないでしょうか。

A.ミャンマーからバングラデシュ南部に避難してきた人々は、もともと医療サービスへのアクセスが制限され、国が実施するワクチン接種の機会も限られていたため、感染症の流行が起きたらたちまち深刻な影響を受けてしまいます。実際に、2017年11月から、2018年にかけてキャンプ内でジフテリアのアウトブレイクが発生し、封じ込めに苦戦しました。新型コロナウイルスは飛沫感染で、人との距離を取らないと感染してしまう。人が密集したキャンプでは、感染予防がとても難しい。正直、この感染症の流行が始まった時には最悪の事態も想像しました。しかし、世界はこの脆弱な立場にいる人々を取り残さず、国際赤十字もそうですが、国連が動き、バングラデシュ政府とも連携して資材を投入し、避難民キャンプでのアウトブレイクを食い止めようとしています。私は、そのチームの一員である日赤の現地代表として任務を遂行していきます。


Q.来年3月末までの長期間、バングラデシュでどのような業務に携わるのでしょうか。

A.バングラの感染流行はおさまらず、ロックダウンが続いています。バングラ国内を移動するのにも制約がある中で、私たちが支援に向かうコックスバザールの避難民キャンプには外国人が入るのは難しいと聞いています。しかし、日赤が支援しているバングラデシュ赤新月社の施設(ヘルスポスト)は、診療を続けています。過去の緊急救援では、私たち赤チームは、避難民キャンプ内での直接的な医療支援活動をしてきましたが、今回はそういう活動ではなく、バングラデシュ赤新月社のスタッフが主体となってヘルスポストの運営をすること、そして、改善点がないかを共に考えていきます。
避難民キャンプ内では、感染を恐れるあまり医療機関の受診を控える人たちも増えているようです。バングラデシュ赤新月社のスタッフや、避難民のコミュニティボランティアは、感染予防の啓発活動をしたり、ウイルスに関する正しい情報を提供したり、諦めることなく活動を続けています。こういった保健医療支援事業をより骨太に進めていき、健全なヘルスポスト運用と、コミュニティ活動の充実を彼ら自身で実現させる、これが私のミッションの一つです。

<活動記録①>2010年/チリ大地震

マグニチュード8.8の大地震とそれに伴う広域な津波被害の救援活動を行うため、日赤医療チームの一員として派遣。入院病棟が全壊した公立パラル病院の機能回復を支援した。

<活動記録②>2017・2018年/バングラデシュ南部避難民キャンプ

第1回目の派遣では医師、看護師、助産師などの専門家で構成されたERU※のヘッドナースを務めた。2回目の派遣ではチームリーダーとして全体を統括。心理社会的支援(こころのケア)や避難民の衛生上の行動変容も促進させた。

<活動記録③>2020年/新型コロナウイルス感染症

※写真は医療センター内の新型コロナウイルス感染症対策本部で対応中のもの

大型クルーズ船内における新型コロナウイルス感染症対応救護班の総括調整者の任を担った。未知のウイルスへの対応、多国籍の乗員乗客計3711人が乗船という特異な環境下において、国際救援活動での経験を生かした。

「フローレンス・ナイチンゲール記章」とは

第1回(1920年)受章者、萩原タケ女史に贈られたメダル

近代看護の礎を築いたフローレンス・ナイチンゲールの生誕100周年を記念して、1920年(大正9年)に創設されました。
 このF・ナイチンゲール記章は「傷病者、障害者または紛争や災害の犠牲者に対して、偉大な勇気をもって献身的な活動をした者や、公衆衛生や看護教育の分野で顕著な活動あるいは創造的・先駆的貢献を果たした正規看護師や篤志看護補助者」に贈られるもの。第1回以来、隔年でF・ナイチンゲール生誕の日である5月12日に赤十字国際委員会(ICRC)から受章者が発表されています。