[ WORLD NEWS ] 映画を通して人々の生きる力に寄り添う ショートショートフィルムフェスティバル&アジア 2020レビュー。“気づき”が「人道」を考える最初の一歩に。

『HOPE:彼女の命を救えなかった理由』。2018年、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルのフィルムクラフト部門でグランプリを受賞。

今年は「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア 2020」(SSFF)の特設プログラム、
「戦争と生きる力プログラム supported by 赤十字」がオンラインで開催されます。
その中からオススメの作品を赤十字国際委員会(ICRC)と日赤のスタッフが解説します。

齊藤:2015年にスタートしたSSFFと赤十字のコラボは今年で6回目。私も拝見しましたが、感情に訴えかける作品ばかりですね。

眞壁:戦争や争いがテーマなのでショッキングな描写もありますが、コメディもあり、作品を通して紛争や難民問題に関心を持ってもらえる機会になると考えています。

齊藤:インパクトある作品の一つが「HOPE」。私は大学で国際人道法※の講義をする際この作品を使用することがありますが、「二度と見たくない」と漏らす学生もいますよ。

眞壁:私も一般向けの講演会で紹介するのですが、涙を流される方もいます。結末が辛すぎて耐えられないと感じる人がいるのは当然で、一方で「病院が機能しなくなったら命が救えない」ということが現実味を帯びて伝わる作品です。作品を通して何かしらの気づきがあれば、その先を考え、行動するきっかけになると思います。

『ウタスズメ』よりよい生活を求め冷凍トラックに乗り込む人々。その過程で悲惨な状況に巻きこまれていく様子を人形劇で描く。

齊藤:人形劇「ウタスズメ」も印象的な作品の一つ。人形劇のファンタジーさはありますが、冷凍車内の人々の描写は衝撃的です。

眞壁:“想像力”を喚起させる優れた作品だと思います。命懸けで冷凍車に乗り込まざるを得なかった移民、彼らを違法に運ぶ密航業者の存在によって、移民がここまで追い詰められた事情や背景について考えさせられます。この「ウタスズメ」では移民の国籍・人種を限定しないように描いているのもポイントです。

『ホーム』8歳の少女サラは紛争で荒廃した街で、武器を拾い食料や衣服と交換しながら孤独に暮らす。ある日、交換した手りゅう弾が…。

齊藤:シリア問題を扱った「ホーム」。主人公の8歳の少女は2011年から始まったシリア危機の最中に生まれ、ずっと紛争と破壊が当たり前の世界で生きてきた設定ですね。

眞壁:描かれているのは紛争地での「生きる力」。拾った手りゅう弾を物々交換して生活の糧を得るしかない日々、それでも無邪気に見える子どもたちの様子など、シリアの現状が浮き彫りになりつつ、説明の無い描き方なのでラストシーンまで答えが分からない作品です。どう読み解くか、他の人と意見交換するのもいいですよね。

齊藤:人間であれば誰しも感じる痛みや苦しみ…まずそれに気づくことが「人道」の始まり。まっさらな状態で映画の世界観に身を浸すことでそういった気づきを得る機会になれば。

眞壁:日本では現代の戦争の実態があまり知られていなかったり、日常で戦争を語ること自体がまれですが、そのムードを変えていきたい。戦いの中に身を置く人たちの生活や力強く生きる姿に目を向け、自分たちの気づきをもとに大いに語り合ってもらいたい。そんな場を、このプログラムを通して提供できたらうれしいです。

※負傷兵や捕虜、民間人、赤十字などを保護する戦時のルール

★作品はこちらからご覧いただけます。(2020年9月27日まで無料公開)