「第49回フローレンス・ナイチンゲール記章」受章者発表

~日本からは、3名の看護師が受章~

 赤十字国際委員会(スイス・ジュネーブ)のフローレンス・ナイチンゲール記章選考委員会より、5月12日に「第49回フローレンス・ナイチンゲール記章」の受章者の発表がありました。
 今回は、22の国と地域から37名が受章し、日本からは、髙原美貴(たかはら・みき)さん、草間朋子(くさま・ともこ)さん、今村節子(いまむら・せつこ)さんの計3名の方が受章されました。
 髙原さんは11か国に及ぶ紛争地や被災地における長年の救護・救援活動や、新型コロナウイルス感染症に対する公衆衛生活動における功績が認められました。また、草間さんは放射線防護・安全に関する領域で、看護職としてリーダーシップを発揮した幅広い活動における功績が、今村さんは近代看護教育の牽引者として看護教育の質の向上に貢献した活動や、長年にわたる地域住民の健康増進にかかる活動における功績が認められました。
 なお、1920年の第1回授与からの受章者総数は1,580名となり、そのうち、日本からの受章者は115名と、世界最多となっています。
 授与式は年内に執り行われる予定であり、例年、日本赤十字社名誉総裁である皇后陛下より記章が授与されています。
 日程につきましては、詳細が決まりましたら改めてお知らせいたします。

【受章者のプロフィール】

20230512-87eaa9bc819da506d51b961e740fc732e84adcac.jpg 髙原 美貴(たかはら みき)

 ■兵庫県生まれ(57歳)
 ■兵庫県在住
 ■現職:
  日本赤十字社 
  姫路赤十字病院 看護副部長


■主な功績:
 髙原氏は、1999年にスーダン紛争犠牲者救援活動に携わって以来、これまでに11か国17回の国際救援活動を経験した。また、日本各地で発生した災害でも多くの救護活動に従事したほか、2020年の新型コロナウイルス感染症患者の増加にあっては、地元行政や関係機関と連携して感染制御のための宿泊療養体制の構築にも尽力した。
 同氏は、被災地に赴いた際に、まず現地アセスメントを行い、現場のニーズを多方面から情報収集し全体像を把握することを第一に取り組んでいる。さらには、救援者とはいつか撤退するものであることを踏まえ、被災地の人々の価値観を尊重するとともに、現地の人々がこれまで大切にしてきた文化を守りつつ、持続可能な方法で被災地の人々の生活が保障されるよう関係機関との連携や調整・交渉を行う思考や実践力を発揮してきた。このような姿勢と行動力は、様々な国際救援活動での経験と知識に基づくものであり、共に活動する他者にとっては良い模範ともなっていた。
 また、2002年に参加したアフガニスタン紛争犠牲者救援では、現地バーミヤンのイスラム教徒の信仰心を大切にし、地雷により損傷を受けた遺体を「整体※」して家族に引き渡す技術を病院スタッフに教授した。日本赤十字社の「整体」は亡くなられた方とその家族の心情に寄り添う活動として行われてきたが、日本と異なる海外の地においても、自身の経験を踏まえつつ宗教や文化を尊重した人道の実践となった。

※「整体」とは、1985年に発生した520名が亡くなった航空機墜落事故の際に、故人の体形を遺族から聞き取り、その場にある資材を利用して、「損傷のひどい遺体を生前の姿にできるだけ似せて整復する方法」として、日本赤十字社の看護師が救護活動として実施したものである。

20230517-416eb8f0daaaeec1c7ec7fb3af63939503a7c52d.jpg 草間 朋子(くさま ともこ)

 ■長野県生まれ(81歳)
 ■東京都在住
 ■現職:
  東京医療保健大学 名誉教授
  大分県立看護科学大学 名誉学長


■主な功績:
 草間氏は、看護職は被災者にとって最も身近で、相談しやすい存在であるにもかかわらず、自身の放射線、放射線被ばく、放射線影響等に関する知識の不足により、放射線防護・安全の視点で被災者に寄り添った看護を提供することができなかったことを2011年の原子力発電所事故を通して痛感した。その経験から、被災者の放射線に対する想いや不安に対峙した活動を目指して、一般社団法人日本放射線看護学会を立ち上げるとともに、放射線看護活動を国際的に拡大していく活動を展開した。
 また、原子力災害が発生した時に、放射線看護専門看護師を活用して住民支援のために機動性をもって活動できる原子力災害保健支援チーム(NuHAT※)を編成したうえで、長期にわたって支援できる体制を構築し、活動を行っている。
 さらには、看護にかかる専門職として、放射線・原子力・原子力災害に関する正しい理解に基づき、被災した住民と向き合うことが必要と考え、関係当局への強い働きかけにより看護基礎教育への放射線看護科目の導入を実現(2017年)したほか、母性保護の視点から、生殖可能年齢にある女性には被ばく線量の限度が必要であるとして、放射線防護関連法令への看護職等の放射線防護・安全のための「女性作業者の線量限度」の設定(2021年)についても尽力するなど、放射線防護・安全に関する専門知識を有する比類なき看護職として活動した。
 なお、同氏は看護と医学の両方の視点を持った日本版の診療看護師(Nurse Practitioner)の養成に向け、一般社団法人日本診療看護師教育大学院協議会を設立するなど、看護職の自律を目指した看護教育の具現化にも尽力した。

20230512-3794897005ba80a885c06af873070cac36efe072.jpg今村 節子(いまむら せつこ)

■鹿児島県生まれ(98歳)
■鹿児島県在住
■現職:
 公益社団法人教育・ヘルスケア振興節英会 理事
 鹿児島中央看護専門学校(3年課程)顧問


■主な功績:
 今村氏は、湯槇ます氏(第26回ナイチンゲール記章受章者)らと日本の国立大学初の看護学科となる東京大学医学部衛生看護科の草創期における教育体制の構築に尽力した。それまでの看護基礎学では、看護の内容や理念、技術が根拠に基づいたものではなかったため、同氏は「看護の考え方を整理して理論的組み立てをし、看護技術に科学的裏付けをすること」を基本に置き、「看護は論理的で科学的」という概念を日本の看護教育に与えることとなった。
 さらには、地域の健康問題にも関心を寄せ、「人生は挑戦の繰り返し、そのプロセスで大事なことは先手を打つこと、なりたい自分を創造し予防をすること」という教育理念に基づき、地域医療を担う看護師のキャリア開発の支援を願って自ら設立した法人に私財を提供し、看護を学ぶ学生に対する奨学金事業を創設するとともに、公衆衛生学的調査研究にも着手して、研究費の助成も開始した。
 また、住民と協働した地域共生社会の実現を目指す地域交流の拠点として、看護小規模多機能型居宅介護サービスを実施できる地域交流複合施設の開設を進めた。地域交流複合施設は、子ども・大人・高齢者の区分を超えて交流できる施設であるが、看護機能を活かして看護小規模多機能型居宅介護事業も展開できるようにするものであり、地元関係機関とも連携しながら地域力向上のための活動に取り組んだ。

【フローレンス・ナイチンゲール記章の概要】

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フローレンス・ナイチンゲール記章

同記章は、紛争下において敵味方の区別なく負傷者を保護する役割を担う赤十字が、1907年および1912年の赤十字国際会議において、顕著な功績のある世界各国の看護師を顕彰し、授与することを決定したものです。
フローレンス・ナイチンゲール氏の生誕100周年を記念して、1920(大正9)年に第1回の授与が行われ、それ以来、隔年でフローレンス・ナイチンゲール氏の生誕の日にあたる5月12日に赤十字国際委員会(ICRC)から受章者が発表されています。
また、同記章は、鍍銀製アーモンド型メダルで、表面は燭(ともしび)を手にしたフローレンス・ナイチンゲール氏の像と「1820~1910年フローレンス・ナイチンゲール氏記念」の文字があり、裏面には受章者名と、ラテン語で「博愛の功徳を顕揚し、これを永遠に世界に伝える」と刻まれています。

【フローレンス・ナイチンゲール記章の受章資格】
現在、医療機関や看護教育施設等の業務に従事しているか、または過去に従事した経験のある保健師、助産師、看護師、もしくは篤志看護補助者のうち、以下の条件のいずれかを満たしている者であることが受章資格とされています。

(1)平時もしくは戦時において、次のような事項に関して顕著な働きをした者。
 ア 傷病者や障がい者、または紛争や災害による犠牲者に対して、果敢に献身的な看護活動に従事した者。
 イ 公衆衛生や看護教育の分野で、模範となるような活動に従事した者。またはこれらの分野で創造的かつ先駆的な精神のもとに活動した者。
(2)国内災害救護、国際活動等の事業において、果敢かつ献身的に活動し、推薦に値すると判断される者。
(3)献血思想の普及啓発、老人看護及び障がい者への理解促進を含む保健衛生活動、看護教育活動、救急法等講習普及事業等においても、献身的に永年その業務に携わり、その実績から高い評価を得られると判断される者。

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