その人らしい暮らしをするために―京都第一赤十字病院の退院支援の取り組み―

病院の看護師の業務内容は多岐にわたります。外来患者さんへの診療補助、入院患者さんへの日常生活の援助、診療の補助のみではなく、近年では患者さんを地域につなぐ役割も重要になっています。今回は患者さんの退院支援に携わる京都第一赤十字病院退院支援課の看護師を取材しました。

退院支援とは入院患者さんが退院後も安心して療養できるよう支援することです。超高齢社会を迎えた日本では、必要とする医療や介護の内容によって行政や複数の医療機関、介護施設等が連携して必要なサービスを提供しています。そのため、重症患者を対象とする急性期病院では在院日数が短縮傾向にあり、自宅療養や、リハビリテーションを中心とした病院への転院など退院先を早期から検討する必要が生じています。患者さんが住み慣れた地域でその人らしい暮らしをしていくために、退院後の生活を見据え、主治医、担当看護師、理学療法士等の多職種が連携して、患者さんやそのご家族にとって最善の退院先を検討することが求められています。

退院支援の流れ

(詳細な図はこちらから★退院支援の流れ.png

京都第一赤十字病院(以下「京一」という)の退院支援課では通常4名の看護師が勤務し、院内の医師、看護師、社会福祉士だけでなく、地域の病院や訪問看護ステーション、ケアマネージャー(介護支援専門員)などと日々連携しながら、患者さんの療養生活をコーディネートする横断的な役割を担っています。週に一度病棟全体を回り、多いときには1日に60人から70人の患者さんについてのカンファレンスを病棟の看護師と行うなど、切れ目のない退院支援体制を整えています。

―退院支援を行うにあたって大事にしていることは何ですか。

高度急性期病院である当院の役割を患者さんに入院前からご説明し、病状や環境、ご希望に合わせて適切な転院先や退院後のケアを一緒に考えるようにしています。

また、地域医療支援病院として地域全体の医療の質の向上にも取り組んでいます。患者さんの中には、転院先の病院を検討する際に難色を示す方もいらっしゃいます。退院、転院後の患者さんが地域の病院や訪問看護サービスを受ける際にも適切な医療や支援を受けられるように、当院の老人看護専門看護師(※1)、認知症看護認定看護師(※2)など専門的な知識を持った看護師が地域に出ていき、適切なケアの方法を引き継ぐなど、地域全体の医療の質を高めるための工夫をしています。

退院支援を行う看護師

退院支援を行う看護師は、退院後に患者さんが安心して療養生活を送れるよう関係者と日々連携している。

―退院支援を行う看護師に必要なことはありますか。

思いやりや優しさ、寛容さといった人間力のうえに、積み重ねた知識と「その人らしい生活を取り戻せるようサポートする」という熱意が必要だと思います。加えて院内・院外の多職種と連携しながら業務を行うため、情報収集力や、みんなが患者さんの治療やサポートに参画できるよう問題を共有する力が必要です。

―最近患者さんから寄せられた相談で多い内容は何ですか。

患者さんのご家族から「今の状態で、自宅療養はできますか」という相談をいただくことが多いです。その場合はご家族の不安な気持ちに寄り添い、自宅療養への不安がある方には、社会保障制度や利用可能な施設の活用方法などをお伝えしています。また、日頃から感染症や合併症の予防等のベッドサイドのケアをしっかい行い、患者さんが最善の状態でご自宅に戻っていただけるよう努めています。ご家族と患者さんによっては、ご本人の間で、退院後の療養生活に対するビジョンが異なるケースもあるため、調整に入り、双方納得した形で退院後の生活を送っていただくよう支援することもあります。

―退院支援を充実させるために取り組んでいることは何ですか。

院内の看護師が退院後の患者さんの生活を想像しながらケアをできるよう、退院後の患者さんを地域の訪問看護ステーションのスタッフと訪れる「同行訪問」に取り組んでいます。退院した患者さんの中にはハンガーに点滴を吊るして使用するなどして、家の中にあるもので工夫をしながら自宅療養をしている方もいらっしゃいます。そのような状況を理解したうえで、想像力を持ち、職員一体となって患者さんの生活を支援していきたいと考えています。

※1専門看護師・・・患者さんとそのご家族に起きている問題を総合的に捉えて判断する力と広い視野を持って、専門性を発揮しながら「実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究」を行い、施設全体や地域の看護の質の向上に努める看護師。看護師として5年以上の実践経験を持ち、看護系の大学院で修士課程を修了して必要な単位を取得した後に、専門看護師認定審査に合格することで取得できる資格です。(日本看護協会ホームページより)

※2認定看護師・・よりよい看護を提供できるよう、専門性を発揮しながら「実践・指導・相談」を行い、看護の質の向上に努める看護師。看護師として5年以上の実践経験を持ち、日本看護協会が定める615時間以上の認定看護師教育を修め、認定看護師認定審査に合格することで取得できる資格です。(日本看護協会ホームページより)

京都第一赤十字病院ホームページ 》http://www.kyoto1-jrc.org/

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