赤十字と核兵器
核兵器の廃絶に向けた赤十字の歩み

2022年6月、核兵器禁止条約第1回締約国会議の中で赤十字の声明を発表した日赤ユース代表
赤十字は、第二次大戦後からいち早く原爆(核兵器)の問題を取り上げ、国際社会に向けて核兵器の使用禁止を求めてきました。
2017年には、核兵器の開発、実験、配備、使用、威嚇などを全面的に禁止する国際条約が誕生しましたが、広島・長崎に原爆が投下されてから80年が経過しようという今も、世界には今なお数多くの核兵器が存在しており、その脅威を完全に拭い去ることはできていません。
核兵器禁止条約(TPNW)において、赤十字は、条約の前文でこれまでの貢献を認められ、条項の中では、支援の分野で役割を担うことと、締約国会議などにオブザーバーとして参加できることが認められています。
赤十字は、国際人道法の番人として、また救護団体として、武力紛争の影響を最小限にしたいという思いから、いざ核兵器が使われるようなことがあってはその被害規模があまりに破滅的でいかなる政府も団体も支援しきれないために、事態を未然に防ぐ観点から核兵器の廃絶に取り組んでいます。
国際赤十字としてのかかわり
赤十字代表者会議

2011年赤十字代表者会議で演説する朝長万左男 日本赤十字社長崎原爆病院院長(当時)
2011年の国際赤十字・赤新月運動代表者会議(以下、赤十字代表者会議)※では、核兵器の使用禁止を強く訴える決議が採択されており、日本赤十字社もこの決議の共同提案社30社のうちの一つです。
この決議の中では、「核兵器廃絶に向けての歩み」が話し合われ、それは以下のようなものでした。
1.核兵器の使用によってもたらされると予想される計り知れない苦痛や、それに対する十分な人道的援助能力の不在、そして核兵器使用を阻止する絶対的な必要性を強調する。
2.国際人道法の基本原則と両立しうるような核兵器の使用が想定できないことを確認する。
3.すべての各国政府に対して次のことを訴える。
①核兵器の適法性に関する各国政府の見解のいかんにかかわらず、核兵器が再び使用されることがないように保証すること。
②核兵器の使用を禁止し、廃絶するために、早急かつ決定を伴う交渉を、誠意をもって行い結論を導くこと。
※世界中の赤十字・赤新月社と国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、赤十字国際委員会(ICRC)が集い、2年に1回開催される国際会議
核兵器廃絶へ向けた行動計画
2011年の決議は、核兵器をめぐる近年の世界情勢の変化などを背景に、「核兵器の使用は国際人道法の定める理念と両立しない」「もし核兵器が使用された場合、その結果に対応できる人道的援助能力が欠如している」との見解を世界に示しました。この行動計画は、「国際赤十字・赤新月運動代表者会議決議『核兵器の廃絶に向けて:2022~2027年行動計画』」として2022年に更新されています。
核兵器廃絶に向けたこれまでの世界の動き
ICJ(国際司法裁判所)勧告的意見
国連は1994年12月、総会で「いかなる事情の下においても、核兵器の威嚇または使用は、国際法上許されるか」について、ICJに勧告的意見を要請することを決議しました。
ICJは1996年7月、「核兵器の威嚇または使用は、武力紛争に適用される国際法の諸規則、特に国際人道法の原則および規則に一般的には違反するだろう」としながらも、「国家の存亡そのものがかかった自衛の極限的な状況の下では、合法であるか違法であるかを裁判所は結論できない」とした上で、「すべての国が核軍縮交渉を誠実に行い、それを達成する義務がある」と宣言しました。
オバマ大統領によるプラハ演説/国際連合事務総長潘基文の5つの提案
その後、潘基文国連事務総長が2008年10月に行った核軍縮に向けた5つの提案や、オバマ大統領が2009年4月にプラハで「アメリカは核兵器のない平和で安全な世界を希求する」と表明した演説などにより、核兵器廃絶は夢物語ではなくなりました。
潘基文国連事務総長による5つの提案
①すべての核兵器不拡散条約(NPT)締約国、とりわけ核保有国が軍縮の義務を履行すること。核兵器禁止条約の交渉開始も考えるべき。
②安保理常任理事国が核軍縮プロセスにかかわる安全保障問題の協議を開始すること。
③包括的核実験禁止条約(CTBT)、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)、非核兵器地帯、国際原子力機関(IAEA) 追加議定書などを通じ、「法の支配」を強化すること。
④核保有国が説明責任および透明性を強化すること。
⑤他の大量破壊兵器の廃絶を含む、核軍縮の補完的措置が必要であること。
核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議
締約国は、誠実に軍縮交渉を行う義務があります。
2010年5月のNPT再検討会議では、2000年の同会議で確認された「核兵器のない世界」の実現という目標と整合性のとれた政策を追求することとし、核兵器の保有国はあらゆる種類の核兵器を削減し、究極的には廃絶するためにさらに努力するといったことを再確認することを含めた「核軍縮のための行動計画」がまとめられました。
再検討会議は原則5年おきに開催されることになっています。
核兵器の人道的影響に関する国際会議
各国政府や市民社会、赤十字運動の構成員などが集まり、2013年3月(ノルウェー・オスロ)、2014年2月(メキシコ・ナヤリット)、2014年12月(オーストリア・ウィーン)、2022年6月(オーストリア・ウィーン)の計4回にわたり、核兵器の人道的影響に関する国際会議が開催されました。これらの会議では、核兵器が使用された場合に医学的、環境・気候変動的に大きな影響を及ぼすことや国際人道法を含む、医療法、環境法的適合性の問題、さらには核兵器管理における指揮統制のぜい弱性から生まれるリスクなどについて議論を続けてきました。
核兵器禁止条約(TPNW)の誕生
2017年7月に核兵器の使用や保有などを法的に禁止する核兵器禁止条約(TPNW)が、米ニューヨークの国連本部で開かれた条約交渉会議で採択されました。2020年10月に同条約への批准・加入が50カ国に達したことから、規定に基づき2021年1月22日に発効。2022年6月にオーストリアで第1回締約国会議が開催されました。
ノーベル委員会から日本被団協へのノーベル平和賞の授与
2024年、ノルウェーのノーベル委員会は、核兵器のない世界を実現するために努力し、核兵器が二度と使われてはいけないことを証言活動を通じて示した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に2024年のノーベル平和賞を授与しました。