9月9日は世界救急法の日:                                               企業等のニーズに応える「コマーシャル・ファーストエイド」

 「救急法の普及」は国際赤十字・赤新月社連盟が世界共通の活動に掲げるものの1つで、これまでに赤十字を通じて訓練を受けた人の数は2,300万人にも上ります。毎年9月の第2土曜日は世界救急法の日として、世界中の赤十字・赤新月社で救急法のイベントを開催するなどしています。
 
 一人でも多くの人びとへ救急法を持続可能な形で提供するため、近年多くの社が力を入れるのが「コマーシャル・ファーストエイド」です。これは、企業等を対象に、実費に加え追加の費用を頂くことで、質の高い救急法講習をカスタマイズし実施するという試みです。今回は、日本赤十字社(以下、「日赤」と言う。)が支援する東南アジア、大洋州諸島の2つの地域の「コマーシャル・ファーストエイド」の事例をご紹介します。

■正しい救急法の知識の普及をめざす~カンボジア~

IMG_9975.jpgホテルの従業員を対象としたコマーシャル・ファーストエイド講習の様子(©カンボジア赤十字社)

 カンボジアは、1970年代の長い内戦によって多くの市民の犠牲を出しましたが、2000年代に入ってからは都市部を中心に著しい経済成長を遂げています。一方で、洪水や干ばつといった自然災害が深刻で、感染症の蔓延や食糧の不足など、様々な人道リスクをもたらしています。

 こうした状況下、カンボジア赤十字社(以下、「カンボジア赤」と言う。)は救急法の普及に力をいれています。本社と支部を合わせて170人の指導員が中心となって各地で講習を行っており、特に本社では毎月5回ほど講習を行うほか、指導員の養成やリフレッシュ講習も実施します。講習を受講するのは、一般市民や学生、ボランティアなどで、全て無償で行います。

 一方、コマーシャル・ファーストエイドの取り組みとして、企業やホテルの従業員等を対象に有料の救急法講習も開催しています。カンボジアには、アンコールワット等を目当てに世界中から観光客が訪れますが、こうしたツーリズムを安全面で支えるため、より専門性の高い講習を提供しています。

 課題は、未だ多くの人びとが応急手当の正しい知識を知らないことです。火傷をしたら患部に蜂蜜を塗るなど、伝統的な民間療法も残っています。農村部では毒蛇に噛まれて命を落とす人が多く、こうしたリスクに適切に対応出来るようにする必要があります。
 
 日赤は、2008年~2013年までカンボジア赤の救急法事業の強化を支援しました。カンボジア赤救急法担当Op Puthea氏は「日本の人びとからの長年の支援に大変感謝しています。当時教えて頂いた教材やスライドは、クメール語に翻訳して今でも大切に引き継いでいます」と述べています。

49d489b7-a63f-4f15-a9af-6ae37ac0784e.jpgクメール語に翻訳された救急法教材(©カンボジア赤十字社)

 資機材や専門スタッフの不足など様々な困難はありますが、「国民の3人に1人が救急法を身に付ける」を目標に普及に取り組んでいます。     

連盟タイ・カンボジア・ラオス・ベトナム国クラスター事務所保健要員                                   木村 仁美)

■ニーズに応じた救急法講習で、多くの人へ届ける~フィジー~

 大洋州に浮かぶ島々は、サイクロン、地震、津波、火山噴火、干ばつなど、あらゆる災害リスクさらされており、世界で最も災害に脆弱な地域と言われています。これら島嶼国では、狭小な島が広範囲に散らばっている地理的特性と国家財政の脆弱さから、依然、十分な保健サービスが提供されておらず、気候変動の影響で頻発・激甚化する自然災害に備え、市民が自らの手で命を守る救急法の普及が重要な課題となっています。

 大洋州の各国にある赤十字社は、救急法ビジョン2030(First Aid Vision 2030)が掲げる「2030年までに、すべての家庭、職場、学校において、救急法の講習を受けた人が1人いること」の実現に向け、一般企業・民間団体を対象としたコマーシャル・ファーストエイドと、住民を対象とした、地域資源(古布やぬいぐるみなど)を活用して低コストで実施する救急法の2つを重点柱に掲げています。

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フィジー開発銀行職員対象の救急法講習の様子(©フィジー赤十字社)

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 観光資源に恵まれ、国民的スポーツであるラグビーなどの国際試合やスポーツイベントも多く開催されるフィジーでは、ホテルや旅行会社、スポーツ業界団体などに対する救急法の普及に力を入れています。20231月から6月までの間でフィジー赤十字社は、一般企業や公的機関などに対する有料の救急法講習を計121ヵ所で実施、受講者は2,476人に上りました。顧客のニーズに応じ、表の7種類の講習から選択・組み合わせる形で提供しており、最近では小売業界(アパレル)、政府機関、援助機関に対しても講習を実施しています。

 今後の拡充に向けては、マーケティングを強化するほか、高等教育機関との協定など、地域住民だけでなく、産官学全てで救急法を普及し、より多くの人びとが応急手当の知識を体得することを目指します。

(大洋州地域事務所災害リスク管理要員 辰巳 碧)

 日赤はこれからも国内外で、救急法講習の普及に取り組み、災害等のリスクに強い社会づくりを目指します。

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