『聞く』から始める感染症予防  ~スーダン赤新月社のボランティアの挑戦~

 日本赤十字社(以下、日赤)は、2017年より、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)を通じて、東アフリカ地域の保健強化事業を支援しています(詳しくはこちら:東アフリカ地域保健強化事業)。2021年度はスーダン、ブルンジ、タンザニアの3カ国において、コミュニティの人びとが主体となって、地域を取り巻く感染症や公衆衛生上の課題の解決に取り組みました。

 2020年から世界各地に拡大した新型コロナウィルス感染症の脅威は、東アフリカ地域も例外ではありません。気候変動の影響で多発する干ばつ、洪水、サイクロンといった自然災害や害虫被害、農作物への悪影響、それにともなう食糧不足、政治・社会不安に加えて、新型コロナウィルスという新たな感染症の拡大で、アフリカの人びとの生活はこれまで以上に厳しいものとなっています。今回のニュースでは、こうした状況の中で、感染症の拡大防止に取り組む、スーダンのボランティアの活躍をご紹介します。

■コミュニティの人びとの声を聞き、行動変容を促す

 新型コロナウィルス感染症の拡大が収まらない中、スーダン赤新月社(以下、スーダン赤)は、ラジオ番組やモバイルシネマ(移動式映画館)を活用して、命に関わる重大なメッセージを発信し、人びとに予防対策を呼びかけています。中でもスーダン赤が重点的に取り組んでいるのが、コミュニティの人びとの声を「聞く」活動です。地域の人びとが感染症をどのように捉えているのかを聞き取ることにより、人びとの行動様式の傾向を理解し、的確で効果的なメッセージを選んで発信することが出来ます。その結果、人びとが感染症予防のために、自ら判断し、行動するようになることを目指しています。

■ボランティアの試みが人びとの考えを変えた

 スーダン赤ガジラ州支部のボランティアたちは、高齢者が積極的にワクチン接種を受けるには、どのような働きかけが効果的であるかを検討していました。人びとの間にはワクチンへの不安や噂が広まっていたので、その実態を確認するための聞き取り調査を行ないました。調査に携わったボランティアの一人、アワド・モハメド・ヌールさんは、次のように話してくれました。

 「私たちは、ワド・アルハダド村で現地調査を行いました。村の人びとはワクチン接種について、『感染を防ぐどころか、接種した2年後には死んでしまう』『ワクチン接種は不妊を引き起こす』という噂を信じていました。私たちは、これらの地域で接種を推奨することや説得することは不可能だと思い、人びとに理解してもらうためには、まず自分たちがワクチン接種を受け、その様子を写真に撮ってみせることだと思いました。」

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自らワクチン接種を受け、ワクチン接種計画を策定するボランティアたち©スーダン赤新月社

 そのアイディアを実践したところ、予想どおり、人びとは、ボランティアたちがワクチン接種を受けても、何も悪いことが起こっていないことに気づいたのです。「ワクチンが危険だというなら、なぜ、ワクチンを受けたボランティアたちは何ともないのだろう、死んでいないのだろう?」村の人たちの一部がワクチン接種に応じると、その話を聞いた多くの高齢者がすぐに集まってきました。アワドさんらは準備を開始し、ワド・アルハダド村のすべての高齢者に届くように、ワクチン接種計画を策定しました。驚くことに、村の若者グループもワクチン接種を希望し始めました。そのニュースはさらに、他の村にも広まり、近隣のマリンガン村とアル・カタティ地区がワクチン接種キャンペーンに参加し、ついにはすべての村が予防接種を完了しました。

 「これは、私たちボランティアのサクセスストーリーです。ボランティア活動の道は容易ではないですが、努力と忍耐、前向きな気持ち、チームワーク、そして何よりも『共通の目標』があれば、人道支援活動に貢献できることを学びました。たとえ、コミュニティが新しい考え方をなかなか受け入れてくれなくても、どんなに閉鎖的であっても、私たちには人びとの行動を変える力があることを学びました。」

■コミュニティの声を反映した事業づくり

 スーダン赤は、人びとが被災したり、貧困状態に陥ったとき、自らの力で課題解決に向けて行動を起こせる力、「レジリエンス」を高めるために、コミュニティの声を聞き、その声を反映した活動づくりに力を入れています。このアプローチを地域保健や防災、救急法などの事業に取り入れるため、スーダン赤の役員、本社や支部の職員、ボランティアに向けた研修も実施しています。今後も「聞く」ことから始める取り組みを継続して行きます。

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研修を受講するスーダン赤の職員とボランティア©スーダン赤新月社

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