誰一人取り残さない -赤十字のワクチン接種支援活動-

新型コロナウイルス感染症の収束のカギとなることが期待されるワクチン接種が世界中で進められています。
過去のニュース記事では、新型コロナの収束には「公平な」ワクチン配分が重要であり、その実現のために赤十字は「5本の柱」を掲げていることを紹介しました。今回は、この5本柱に基づく具体的な活動をご紹介します。

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正しい情報を伝え、ワクチン接種率向上に

 赤十字は、各国で保健当局と協力・調整しながら、国内のワクチン接種を支援する活動を展開しています。その一つに、ワクチンの正しい知識を広める啓発活動があります。これは、地域住民の疑問や誤った情報に基づく噂などに対応するため、正しい情報を広め、一人でも多くの人に実際にワクチン接種会場に足を運んでもらうことを目指しています。
 例えば国のワクチンチームの一員としてワクチン啓発活動に力を入れているジョージア赤十字社は、ワクチンに関するビデオやリーフレットを作成し、ビデオやSNS、TVなどで知識の普及に努めています。リーフレットはジョージア語だけではなくアルメニア語、アゼルバイジャン語など多言語でも作成され、一人でも多くの人々に届くよう工夫が施されています。
 新型コロナウイルスの流行初期も、ウイルスそのものに対する誤った情報や噂が広がり、感染予防の観点からは望まれない行動を人々がとり、感染拡大を招いたケースがありました。このようなリスクを正しく伝え、地域住民の人が正しい行動を自分たちで選ぶことができるようになる活動は、「コミュニティ参画と説明責任:Community Engagement and Accountability:CEA」とも呼ばれ、地域に根差した活動をする赤十字が取り組むべき非常に大切な活動の一つです。

公平な接種を求めて:地方に住む人や移民にもワクチンを

 赤十字は、それぞれの国の実情にあわせ、国内での公平なワクチン接種の実現のために、政府当局へのはたらきかけも行っています。
 例えばモルディブ赤新月社は、公的に登録されていない非正規移民もワクチン接種の対象とするよう、政府や保健当局にはたらきかけ、結果、自国民以外の脆弱な立場にある移民に対してもワクチンが無償で提供されることが決定しました。
 オーストラリアでも、赤十字のはたらきかけにより国内のワクチン接種の対象者として一時滞在ビザを持つ人々も認められることになりました。オーストラリア赤十字社で移民プログラムを担当しているヴィッキーさんは、次のように述べています。「政府のこの決定は歓迎すべきことです。可能な限り多くの人々を対象としない限り、真の意味での感染症流行の根絶にはつながらず、ワクチン接種の努力が無駄になってしまいます。また、移民の中にはワクチンの接種の手続きを理解していなかったり、接種を受けることに不安を感じていたり、自分が対象者だと思っていない人たちもいます。そのフォローも必要です。支援が必要な人々が確実にワクチンにアクセスできるような対策、例えば、ビザの有無にかかわらずワクチンを提供したり、パンデミック時にはビザの正規化を検討すること必要だと感じています。」

※CEAの詳細はこちらのサイトをご覧ください(英語)

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 バングラデシュ赤新月社は、国内492の郡のうち、353郡で啓発活動とワクチンキャンペーンを進めており、残りの郡でも今後キャンペーンを行う予定です。バングラデシュ全土に公平にワクチンが行きわたるよう、毎日1,700人の地元ボランティアが国内各地で活動し、ワクチンについての情報提供を行ったり、ワクチン接種会場での登録作業に従事しています。またブラジル赤十字社も、都市部だけではなくアマゾンなど遠隔地に住む住民にもワクチンを届ける活動に従事しています。(写真:ワクチン接種会場で登録活動をサポートするバングラデシュ赤新月社ボランティア©バングラデシュ赤新月社)

これらの活動は、赤十字のネットワークを最大限活かした活動といえます。

コロナワクチンだけではない、子どもたちに必要な予防接種サービス

 現在、多くの人々が新型コロナワクチンに関心を向けていますが、忘れてはならないのが、子ども向けのその他の予防接種です。
 赤十字国際委員会(ICRC)の調査によると、新型コロナ感染拡大の影響で、14の紛争国で、2019年に接種率90%を超えていたポリオワクチンが、2020年に30%まで落ち込んだことがわかっています。また、これらの国々での麻疹・おたふく・風疹のワクチンも、2019年は接種率60%でしたが、2020年は10%以下となっています。こうした定期予防接種の着実な実施のための努力も、一層必要とされています。

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 フィリピン赤十字社では、新型コロナの影響で進まなかった子どものはしか・ポリオのワクチンキャンペーンを進めています。キャンペーンでは、「モバイルワクチンクリニック」をスタート。遠隔地の子どもたち向けにバスでのワクチン接種を行っています(写真:モバイルワクチンクリニックの様子©フィリピン赤十字社)。
 また中央アフリカ共和国赤十字社も、紛争地の子どもたち向けにジフテリア、破傷風などのワクチン接種を行っています。同社は3,200の村に赤十字の支部をもち、支部のボランティアが、各地域で接種対象となる子どもの情報登録を支援しています。2020年は、赤十字の支援で27,000人以上の乳幼児にワクチンを接種することができました。これは、2018年の2倍の数にあたります。

このように、「5つの柱」に基づいて地域の実情に合わせて様々な活動が進められています。 「誰一人取り残さない」ための赤十字の活動は続きます。

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