ネパール : 地方部の減災を支える日赤の開発協力

ネパール内務省の発行する災害報告書(2017年版)によると、同国では2015年から2017年までの2年間で、記録上だけでも計2,940件の災害が発生し、9,708人の尊い命が失われたとされています。また、災害がもたらす経済的損失ははかり知れず、特に地方部では住民の主たる生計手段である農耕地や家畜などの資産を奪い、貧困の連鎖を生み出します。本稿では、日本赤十字社(以下、日赤)が取り組む最脆弱層のための地域包括減災事業(2016-2019)を取り上げ、プロジェクトの成果と課題について報告します。

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45の自主防災委員会が発足 : 減災行動のために団結するコミュニティ

日本では、地方行政や地元の消防団、自治会、婦人会、NGO・NPO、赤十字組織など地域に密着した組織が中心となり、防災・減災のための計画づくりや啓発活動、避難誘導訓練、避難所運営研修会などの活動を通じて、災害の脅威を跳ね返すための努力が積み重ねられています。一方、ネパールでは、地域における防災・減災の取り組みが遅れており、地方行政を中心とした地域防災計画づくりや自主防災委員会(以下、自主防)の立ち上げと育成が今まさに行われている段階です。

日赤の支援によって、2016年から2018年にかけて、45の自主防が3郡6市11区で発足しました。彼らを中心に、コミュニティの潜在的なリスクが洗い出され、それらに対する対応策をまとめた災害対策計画が策定されました。また、自主防では、早期に危険を住民に知らせる早期警戒タスクチームや捜索・救助タスクチーム、水供給支援タスクチームの維持・管理を行い、災害に対する備えを進めています。日赤はこうした自主防の活動をはじめ、コミュニティが優先課題として位置付けた問題に対処し、減災行動に取り組むための側面支援を続けています。

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日赤の支援が地域にもたらすインパクト:変容する地域社会

ネパール政府と国際赤十字・赤新月社連盟は同国において、2010年から「災害に強い地域の9つの最低基準」を定め、最脆弱層と呼ばれる人々が取り残されない草の根の地域づくりに取り組んできました。9基準には、地域住民が防災情報へのアクセスを有していることや減災に取り組む地元密着型の自主組織が存在すること、災害対応用の備蓄資金や防災計画を有すること、早期警戒システムが機能することなど、社会インフラ上、住民の安全のために必要な基準が定義されています。日赤はこれらに加え、災害に直面せざるを得ない個人の災害に関する知識や予防行動も、命が守られるための重要な一つの要素であると捉えています。

2018年9月に日赤が実施したアンケート調査によると、支援対象地である6つのコミュニティで無作為に抽出した219人の地域住民のうち、自主防の定めた安全な避難場所を適切に示すことのできた住民は202人で、この219人のうち、自主防から防災情報を受け取っていると回答した人は174人(Aグループ)、自主防から防災情報を受け取っていないと回答したのは45人でした(Bグループ)。さらに分析すると、自主防から防災情報を受け取っているAグループ(174人)のうち、167人(96%,167/174)は安全な避難場所を適切に示すことができ、7人(4%,7/174)は安全な避難場所を適切に示すことができなかった一方で、Bグループ(45人)では35人(77.8%,35/45)が安全な避難場所を適切に示すことができ、10人(22.2%,10/45)が安全な避難場所を適切に示すことができなかったことが判りました。

すなわち、自主防から防災情報を受け取っている人は、そうでない人たちよりも適切に避難場所を知っていることが統計上、明らかになりました。この結果は、自主防を活性化させる日赤の取り組みが、人々の行動にプラスの影響を与えることにつながったことを示唆しています。

プロジェクトの課題と今後の取り組み

日赤が支援する対象地域では、約25%の世帯が出稼ぎ労働のために年間1カ月間以上、故郷を離れていて、自主防メンバーの頻繁な交代や地域の高齢化が課題となっています。また、同国は2017年に連邦制に移行し、行政の再編と地方選挙により、従前の地方防災政策の指針は失効しています。そのため、再編成された地方行政には、防災・減災に関する十分な考え方が浸透しておらず、防災・減災を取り入れた地域開発計画を策定することが難しい状況にあります。

このような背景の中、日赤は、このプロジェクトの成功の鍵は自主防が将来にわたって持続的・自主的に機能し続けていくことであると考えています。そのためには、地方行政と自主防の有機的な連携強化、自主防の安定的な財源確保、政策提言・交渉能力の強化が必要不可欠です。日赤は、国際赤十字・赤新月社連盟とネパール赤十字社とともに今後の活動の見直しを進めていきます。

最後になりましたが、この事業に関する成果は日赤を応援くださる皆様のご支援あってのことです。

温かいご支援をいだだき、ありがとうございます。

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