フィリピン:セブ島北部地域保健衛生事業 ~そこに住むボランティアだからこそできること~

フィリピン中部を直撃した2013年大型台風「ハイヤン」から丸4年が経ちました。日本赤十字社(以下、「日赤」)は、発災直後の医療救援活動および3年間の復興支援事業を経て、2017年1月からセブ島北部で地域保健衛生事業を行っています。2年にわたるこの事業では、当地の住民でもある赤十字ボランティアによって保健衛生の知識や行動を普及させ、地域全体がより健康な生活を送れるようになることを目指しています。「最も必要としている人々に支援を届けたい」と熱い思いを胸に地道な活動を行う赤十字ボランティア。今回はそんなボランティアの日々の活動の一場面を切り取って、現場の様子をお伝えいたします。

細い坂道の先に

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坂道を登っていく地域保健ボランティア

照りつける日差しの下、7人の地域保健ボランティアは緑鮮やかな茂みの中の1本道を歩いていきます。彼らは皆この村の住民です。足早に進む彼らの背中を追ううちに集落はどんどん遠ざかり、やがて分かれ道を曲がるとうっそうとした森に入りました。「大丈夫?」とお互いに声をかけ合いながら細い坂道を登っていくと、そこには1軒の民家が。

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坂道を登り切りやっと民家に到着

「こんにちは。私たちは赤十字の地域保健ボランティアです。マハルハイ村の健康問題の改善に取り組むために、初期調査をしています。お話をうかがってもいいですか?」ボランティアの1人ジェストニー・エスカラさんは、住民にあいさつをしてから聞き取り調査を始めました。

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セブ島北部に位置するマハルハイ村

この家屋は集落から離れた丘の上に建っており、電気も水道も通っていません。そう言えば、坂を登っているときに、私たちの少し先に10リットルの飲料水のタンクを担いだ男の子の後ろ姿が見えました。ボランティアに聞くと、飲料水は20分ほど坂を下ったところまで汲みに行かなければならないとのことでした。 5分ほど聞き取り調査をした後、ボランティアたちはもと来た坂道を下り次の集落へ向かいます。集落から離れていても、急坂が待ち受けていても、ボランティアたちは村全体をくまなく歩きフィールド調査を進めます。雨が降ればぬかるんで通れなくなりそうな脇道の先にも民家があります。村から町へつながる道でさえ、雨が降ると水浸しになり、坂道はスリップしやすく危険な状態になります。電気や水道が引かれている家もあれば、トイレがない家もあります。出会った村人から聞き取りをしたり、土砂崩れ注意の標識を地図に書き込んだり、集会所に掲示してある住民データをメモしたりと、この日の調査は夕立がくるまでの約3時間続きました。

最も脆弱な人々に赤十字の支援を

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次の集落へ道なき道を行く。地元のことを知り尽くした地域ボランティアだからこそ草の根の活動が可能になっています

村の人々が健康に暮らすために必要な知識は何か。それを明らかにするための初期調査が、マハルハイ村を含む15の村でボランティアの手によって行われました。導き出された結果をもとに、村人たちが健康についての必要な知識を得て実践できるようにするため、ボランティアたちは啓発活動を行っていきます。こうした活動を始める前に、ボランティアは赤十字の活動や地域住民参加型保健事業、調査の手法についての研修を受けました。3日間の研修でフィリピン赤十字社スタッフが何度も繰り返し伝えていた言葉、それは「最も脆弱な人々に赤十字の支援を届けること」でした。

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ボランティアとともに活動する日赤の田村由美要員(神戸赤十字病院所属、右から3人目)

村での地域保健活動がはじめの一歩を踏み出した今、そのメッセージはボランティアに確実に伝わっていると実感しています。冒頭の丘の上の民家は、日赤要員である私はもちろん、ボランティアの活動を見守る現地出身のフィリピン赤十字社スタッフも、その存在を知りませんでした。この村に住んでいるボランティアだからこそ、最も支援を必要としている人々の存在を知り手を差し伸べることができるのです。こうしたボランティアの草の根活動により、公的サービスや他の支援へのアクセスが難しい人々にも赤十字の支援が届けられるような活動が形づくられていっています。

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