日本赤十字社名誉社長 近衞忠煇氏の逝去を悼んで
日本赤十字社名誉社長・近衞忠煇(このえ・ただてる)氏(87歳)は、2026年(令和8年)5月23日(土)午後9時45分、解離性大動脈瘤のため日本赤十字社医療センターにて逝去されました。 1964年(昭和39年)の入社以来、半世紀以上にわたり、中立な人道主義のもと国内外の赤十字活動の発展に身をささげられた故人の歩みを振り返り、ここに深く哀悼の意を表します。
弔辞 日本赤十字社社長 清家篤
近衞忠煇・日本赤十字社名誉社長のご葬儀に際し、謹んでお別れの言葉を申し上げます。去る5月12日に開催いたしました、全国赤十字大会にご出席をいただき、元気なお姿を拝し、親しくお言葉をかけて頂く機会を得たばかりでした私どもにとりまして、突然のご逝去には、深い悲しみとともに、言葉に尽くせぬ痛惜の念に堪えません。それだけに、ご遺族のお気持ちは、いかばかりかとお察し申し上げます。
近衞名誉社長は、そのご生涯を通じて、人道の理念を体現され、常に「苦しんでいる人のために尽くす」という崇高な使命を自らに課し、実践してこられました。その歩みは、高い責任と義務を自覚し、社会に尽くす精神の現れであり、私どもに、赤十字運動と赤十字組織のあり方について、深い感銘と大きな示唆を与え続けてくださいました。
赤十字運動というムーブメントにおいて、近衞名誉社長は常に活動の「現場目線」に立ってリーダーシップを発揮されてきました。それは国際赤十字・赤新月社連盟会長として、ボランティアの保護と促進の重要性を提唱されたことに典型的に表れています。また世界中で、見過ごされがちな多くの人道危機の現場を連盟会長として率先して訪れ、実情を見聞され人々を励まされました。そして国内においても、数々の大規模災害の現場に自ら足を運ばれ、被災者に寄り添いながら救護活動の陣頭指揮を執られました。 とりわけ東日本大震災においては、発災直後から全国規模の救護活動をけん引されて、医療支援や復興支援に力を尽くされました。これらは多くの人々の記憶に深く刻まれています。
同時に、近衞名誉社長は、赤十字の人道の理想をぶれずに掲げ続けられました。それは国際赤十字・赤新月社連盟会長として、核兵器の非人道性を世界に訴え、その廃絶に向けた国際的な機運を高め続けられたことに象徴されます。 また紛争下において紛争当事者を非難したりすることで、攻撃を受けたり、国外退去となって、本当に助けを必要とする人々を助ける機会そのものを失うことのないよう、「赤十字の沈黙を守る」という言葉に象徴される「中立」の原則を堅持することの大切さを強調されました。
一方そうした赤十字運動を担う赤十字組織のあり方、という面でも近衞名誉社長は卓越したリーダーシップを発揮されました。それはご自身でよく言われた「Spirit of Togetherness(連帯の精神)」を持って「Good listener(良き聞き手)」として小さな赤十字・赤新月社の声にも丁寧に耳を傾け、世界中のどの社も取り残されない国際赤十字・赤新月運動の団結を維持・強化するために力を尽くされたことなどに象徴されています。
これは日本赤十字社の組織を維持・強化されるということでも同様でした。 限られた予算の中での新規事業の立ち上げ、資金調達手段の拡大、災害時の救護応援体制の見直し、そして4年制の赤十字看護大学設立による看護師教育の抜本的な拡充など、現在の日本赤十字社を形づくる改革を進められました。これらは、時を経ても変わることのない赤十字の理念を、社会や経済の変化の中で実現し続けるために、赤十字の組織や活動方法は柔軟に変わっていかなければならないことを示してくださっています。
こうした近衞名誉社長の輝かしいご功績に対して、日本国天皇からは旭日大綬章を、そして国際赤十字・赤新月運動からは世界中のRed Crosser、赤十字人に与えられる最高の栄誉である、アンリー・デュナン記章を授与されています。赤十字の創始者アンリー・デュナンと同じ5月8日の誕生日であられる近衞名誉社長は、このアンリー・デュナン記章を授与されたことを、ことのほか喜んでおられたことを覚えております。
近衞名誉社長のご生涯は、真の意味でのノブレス・オブリージュを貫かれたものでありました。それを、「人道に空白地帯を作らない」という信念を持って、最も困難な状況にある弱い人たちに寄り添い、謙虚な姿勢でそこに手を差しのべるという形で示されました。その傍らには常に近衞名誉社長を支えられ、伴走されたご令室、甯子さまがおられました。
近衞名誉社長はまさしく「人道の巨星」であられました。そのご逝去には、真に「巨星落つ」、の思いを禁じ得ません。その温厚で誠実なお人柄と、分け隔てなく人と向き合われるお心は、国の内外で多くの人々の敬愛を集めてまいりました。近衞名誉社長の、赤十字運動へのまことに大きなご貢献とともに、その温かいお人柄を改めてしのび、心からの感謝の気持ちを込めて、お別れのご挨拶といたします。
令和8年6月1日
日本赤十字社 社長 清家篤
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