【速報18】ウクライナ危機:紛争激化から4か月、健康への「二次的な危機」と闘う赤十字スタッフ

 ウクライナにおける紛争が激化してまもなく4か月を迎えようとしています。ウクライナ国内外への避難を余儀なくされた人はこれまで約1500万人と推測され、紛争が中長期化することによる影響は多方面に及んでいます。特にその中長期的な影響が懸念され「二次的な危機」に直面しているものの一つに「医療体制のひっ迫」が挙げられます。

 世界保健機関(WHO)の報告によると、ウクライナ国内の290以上の医療施設等が紛争の被害を受けていて、慢性疾患などを患った人々が治療・検査を適切なタイミングで受けられていない状況が続いています。新型コロナウイルスの影響で紛争が激化する以前より保健医療が疲弊していたこともあり、ウクライナ国内や周辺国における医療体制のひっ迫が懸念されています。

 赤十字は、ウクライナ国内や周辺国で、避難民の移動の要となる場所に救護所を設置し、応急処置、一次医療、こころのケア、その他の緊急対応などの支援を続けています。

(先日ウクライナ西部ウジュホロドでオープンした仮設診療所に関する内容は【速報17】で紹介しています。)

■「二次的な危機」と闘う赤十字スタッフ

 スペイン赤十字社のアルベルト・ゴンザレス医師は、この3か月間、ハンガリーとウクライナの国境にある町ザホニーの駅に設置された救護所で医療支援を行ってきました。ザホニーの駅には毎日何百人もの避難民がヨーロッパの周辺国に避難するために訪れます。

「私がこの任務を経て得たことは、苦しむ状況にある人々を助けられたという実感です。ウクライナ南部のオデーサから列車で避難してきた車いすの95歳の女性がいました。彼女は長時間の避難に疲れ切っていて、身体の痛みや恐怖を訴えたので、薬を処方し、一時避難所で身体を休める場所を探しました。側で話を聞き、言葉をかけると、彼女は安心して眠りにつきました。」

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ザホニーの駅で医療支援を行うアルベルト・ゴンザレス医師

 紛争は身体的な面だけではなく、精神的な健康にも大きく影響を与えています。紛争の恐ろしさを目の当たりにし、故郷を離れて生活を送らなければならないそのストレスは私たちの想像をはるかに超えるものです。長引く不安や悲しみからうつ病が発症することもあるといいます。

 ナタリアさんは現在国際赤十字・赤新月社連盟(連盟)のメンタルヘルス・心理社会的支援(こころのケア)の要員として活動しています。紛争が激化した当初、彼女は7歳の娘とウクライナの首都キーウで生活を送っていました。

 「ある夜窓から聞こえる大きな音と閃光に驚かされ、危機一髪で玄関先にたどり着いたのです。」彼女の人生は一夜にして大きく変わりました。その後、その体験に怯える7歳の娘を連れて車で数時間離れた親戚の家へ避難しましたが、安全を考え隣国のポーランドに避難することを決断しました。ポーランドにたどり着いたとき、避難民を歓迎してくれる赤十字の温かさにナタリアさんは気持ちが楽になったと言います。

 彼女は赤十字国際委員会(ICRC)のスタッフ・心理学者としても人道支援の実務経験があります。自分のスキルを活かし、赤十字の人道支援の手助けをしたいと思ったナタリアさんは、連盟スタッフの一員となり、現在ウクライナ周辺の国々で、ウクライナから逃れてきた人たちに心理社会的支援を提供するプログラムのリーダーとして、ボランティアがこころのケアを行う場所をサポートしたり、チャイルドフレンドリースペースの企画、その他サービス提供者の紹介など、さまざまな活動を行っています。

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避難したポーランドで連盟の心理社会的支援要員になったナタリアさん

画像 子どもたちと交流するナタリアさん

 「紛争の傷は深く、時には一人ではどうにもできないほどです。私はいつ帰国して、故郷にいるウクライナの人々を助けられるかわかりません。まだ帰国するには安全とは言えませんし、数日先の計画しか立てられません。いつか帰れるようになったら、かつてのあの平凡な喜びを故郷に取り戻したいです。」

 ナタリアさんは100日間以上も危機を乗り越えてきた人々のため、彼女のできる最大の支援を続けています。

■拡大・変化する支援のニーズに適応する

 紛争が長引けば長引くほど支援のニーズは拡大します。

 国際連合人道問題調整事務所(UNOCHA)は2022年3月から8月までの間に下記のような人道支援が必要になると予測しています。

予測される支援ニーズ - 1,020万人の食料と生活支援
- 1,210万人の保健支援
- 60万人の栄養面のサポート
- 1,570万人の保護支援
- 1,300万人の給水・衛生及び衛生促進(WASH)支援

 このようなニーズに向けた支援を円滑に行うため国際赤十字は各国政府や国際社会に対し、資金援助の呼び掛けを続けています。

 また変化する支援のニーズにも適応します。

 ウクライナへの帰国を望む避難民の不安を解消するため、交通費・薬・生活用品など、個々のニーズに合わせた使い道が出来る現金給付(生活支援金の給付)支援に力を入れたり、新しい環境での生活や仕事を見つけるため、避難先の地元言語を学ぶコースを開講したり、刻々と変化するニーズに合わせた支援を柔軟に行っています。

画像 避難民を対象にスロバキア語の講座を開講

 ウクライナの国境を超える避難民は少しずつ減り、ウクライナへ帰国する人も少しずつ増えていますが、支援ニーズは依然として膨大で多岐に渡ります。国際赤十字は拡大・変化するニーズに対応し、これからも支援活動を継続します。

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「ウクライナ人道危機救援金」

受付期間: 2022年3月2日(水)~2022年9月30日(金)

使途  : 国際赤十字・赤新月社連盟、赤十字国際委員会、および各国赤十字・赤新月社が実施する、ウクライナでの人道危機対応及びウクライナからの避難民を受け入れる周辺国とその他の国々における救援活動を支援するために使われます。