社会を分断する 「不安」の感染

新型コロナウイルス(COVID-19)の国内での感染1例目が確認されてから 約3カ月。未知のウイルスの脅威は私たちの日常を変えました。 そして今、第二・第三の感染…「不安と偏見」が世界中に広がりつつあります。

●あなたの周囲で、こんな光景はありませんか?

私たちの社会に、何が起きているのか・・・

トイレットペーパー、さらにはオムツが、店頭から消えた。…マスク不足から端を発し、誤った情報が拡散され、紙製品の買い占めが行われた結果です。このように、「不安」をきっかけに自己防衛本能が働き、人々が利己的な買い占めに走る現象は、これまでも大きな災害の度に起きていました。しかし今回、それとは別の社会現象が表れました。
 日本で生活している外国人留学生の体験談です。留学生数人が飲食店で食事をしていると、離れた席の客たちがこちらをにらみ、ヒソヒソ話。怖くて母国語で会話できない…。外国人に対してだけでなく、同じ日本人同士でも問題が起きています。「咳(せき)エチケット」を巡って殴り合いのケンカが起きたり、花粉症のためマスクをしてクシャミをする人が白い目で見られたり、かつてない過剰な反応が至るところで発生しています。…未知のウイルスから「不安」が生まれ、その不安が社会全体に広まって「偏見・差別」となる。まるで、第二、第三の「感染」です。

なぜ、偏見や差別は生まれるの?

全ては「未知のもの」に対する不安・恐れから始まります。新型コロナウイルスは、一般的な感染対策を徹底して行うことで感染に対する防護力は高まり、万が一感染したとしても、ほとんどの方が軽症で回復します。しかし、新しい病気で不明な要素が多いため、そして何よりも「敵(ウイルス)」が見えないため、どうしても不安が高まります。不安はストレスになり、自己防衛本能が働き、自分の心と体を守ろうとして…見えない敵の代わりに他の「誰か」を排除すべき存在と認識する。こうして「偏見・差別」が生まれてしまうのです。さらに偏見は他の不安要素を引き寄せる可能性もあります。この悪循環を断ち切るには、まずは「脅威の正体」を見極めて不安に乗っ取られないように対処することが重要です。

「不安」から心を守る 5つの方法

落ち着きを取り戻すために、次のような方法を試してみましょう。
[1]
まずはリラックス。
ほっとする時間を作ろう
[2]
熱中できたり
心が晴れる活動に時間をさく。
運動も効果的!
[3]
この「騒ぎ」から一歩引いて、
別の視点を持つ人と話をしてみる
[4]
「その情報は正しい?」
冷静に情報の信頼性を考えよう
[5]
食べて(健康的な食事)、
寝て(質の良い睡眠)、
自分をいたわろう

つい陥ってしまいがちな「不安」の感染に気づき、セルフケアに努めましょう!

いま、私たちに必要なこと。


『病気を恐れる心が偏見や差別を生み出し、
ウイルスの封じ込めを困難にしてしまう。』

森光玲雄:諏訪赤十字病院 臨床心理士/国際赤十字・赤新月社連盟心理社会センター 登録専門家〉

命を脅かすものを恐れる。これはどんな動物にも備わっている本能であり、本来恐怖心は生存の確率を高めてくれる良いもののはずです。しかし、新型コロナウイルスの発生以降「正しく恐れる」ことがとても難しくなってきているように見えます。なぜ、難しいのでしょうか?
 人間の脳は、見えない対象を恐れることがとても苦手です。脅威を明確に認識するためには、見える「対象」が必要なのです。見える対象を遠ざけることでかりそめの安心感が得られますから、安心するために嫌悪すべき対象を無意識的に探します。これが今回、ウイルスを連想させる「人種」「地域」「職種」「人」など が嫌悪の対象となり、偏見・差別が生まれているメカニズムなのです。
「病気を恐れる心が生み出す偏見や差別」。これは、さらに2 つの弊害をもたらす危険性もあります。1つ目の弊害は、偏見や差別が広がると、自分が非難、差別されることを恐れ、必要な相談・ 検査を受けることをためらってしまうこと。結果として、感染拡大を助長してしまう可能性があります。2つ目の弊害は、医療者の疲弊です。検査や治療など、最前線で感染者への対応に忙殺されている全国の医療者。しかし現在、こうした保健医療機関のほとんどが、風評被害や嫌がらせを恐れて神経をすり減らしています。未知の感染症との戦いは長期戦で「最前線でウイルスに対応し続ける医療従事者が倒れたらもうおしまい」。これがSARSやエボラ対応から人類が得てきた教訓です。彼らを忌避や攻撃の対象として扱うのではなく、むしろ応援し支えるべき対象であると社会全体で声を出すことも早期解決につながります。
「正しく恐れる」のは難しいものですが、過度に恐れすぎると気づかぬうちに犯人探しや攻撃に加担していることもあるかもしれません。まずはご自分と家族の感染予防を徹底しつつ深呼吸! こんなときだからこそ身近な人と支え合うことから始めてみませんか。

この記事は赤十字NEWS 2020年4月号の掲載内容をオンライン用に編集したものです。
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