モンゴル赤十字社の挑戦

地域住民が求めるニーズに確実に応えるために

皆さんは、赤十字が世界190の国と地域に広がる人道支援ネットワークであること、日本赤十字社(以下、日赤)はその一員であり、各国の赤十字社と連帯していることをご存知でしょうか。190の各国赤十字社は、「人々の苦痛を軽減し、いのちと尊厳を守る」という普遍的な原則を共有し("人道")、全世界で1600万人にのぼるボランティアを中心に("奉仕")、互いに支え合いながら("世界性")、それぞれの国のニーズに根差した活動を日々続けています。※赤十字の基本原則(人道・公平・中立・独立・奉仕・単一・世界性)より

今回の国際ニュースがご紹介するのは、日赤が支援する海外の赤十字社の一つ、モンゴル赤十字社です。第二次世界大戦下の1939年に設立されたモンゴル赤十字社は、ウランバートルに本社を構え、全国32の支部を拠点に全国で活動を展開しています。「モンゴルは、寒波や洪水といった自然災害に頻繁に見舞われる国です。広大なこの国でいち早く支援を届けるには、支部がいかに迅速に動けるかが鍵となります」と、モンゴル赤十字社のプレジャフ副事務総長は語ります。「しかし、私たちは組織としてはまだ力が弱く、支部が地域のニーズに応えきれているとは言えません。まずは全国の支部の底上げが先決だと考え、日赤に"組織強化"のための支援を求めました」。

組織強化支援とは、その国の人々が求める人道的使命を達成できるよう、組織的に弱い赤十字社の自立を後押しすることです。日本の皆さまからのご支援が、どのようにモンゴル赤十字社を支えているのか。今年9月末に現地を訪れた愛知県支部の近藤佑介係長がお伝えします。

road to umunugobi.png ウランバートルと地方都市を結ぶ真っ直ぐな一本道。あたり一面何もない平原に、時折家畜の群れが現れる。

赤十字普及活動の真髄に触れる

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「理念を伝えれば共感してくれます」と語るノルドフさん

首都ウランバートルから南へ660キロ。時折遊牧民が家畜を移動させる光景を見ながら、大平原の中を車で7時間ひた走ったところにあるウムヌゴビ県を訪れました。モンゴル赤十字社はウランバートルに本社を置き、各県とウランバートル内各区に支部を、その下の行政区(ソム)に地区・分区を組織しています。日赤の支援がどのように役立てられているのかを確認するために、県庁所在地ダルンザドガトとハンホンゴル行政区をそれぞれ訪問しました。

ハンホンゴルでは、地方行政から地域医療を委嘱されている女医、ツェツェゲ・ノルドフさんにお会いしました。この行政区には約480人が暮らしているとのことですが、彼らは移動しながら牧畜を行う遊牧民。まとまった集落があるわけではありません。あたり一面何もない平原の中に、ノルドフさんの住居がポツンと建っていました。住民は診察を受けるために、何キロも離れたところから彼女のもとにやってきます。そこから少し離れたところに建つコミュニティセンターの一角に、赤十字の窓口―地区・分区―が設けてありました。「これを使って赤十字の理念を住民に広めるんですよ」とノルドフさんが見せてくれたのは、モンゴル語で書かれた赤十字7原則。彼女はこの集落で医師として人々の健康を守りながら、40年以上にわたり、赤十字の普及活動をたった一人で地道に続けているのです。現在の課題を聞くと、「医療器具や医薬品が不足していて、人々の健康管理を十分にできていない。地域住民が赤十字に求めていることはたくさんあります」とのこと。

真のニーズは地域から吸い上げなければ見えてこない

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より多くのニーズに応えるために組織力を高めたいと語るエンフジャルガル事務局長(右)と近藤係長(左)

こうした地域ごとのニーズは、その上の県支部に集約されます。山積するニーズの中から優先課題を洗い出し、現在の支部のキャパシティで取り組めること、取り組めていないことをきちんと理解・把握するために、モンゴル赤十字社は、国際赤十字・赤新月社連盟の支部評価ツールを導入しています。限られたリソースをどこに投じれば最も効果的な支援となるのかを分析しながら、より効率的な事業マネジメントを目指します。「日赤の支援がなければ、こうした組織改革を進めることは不可能でした。日本の皆さまの温かい支援に心から感謝しています」と、ウムヌゴビ県支部のエンフジャルガル事務局長から謝意を伝えられました。

外部の支援が去った後、地域に残るのはその国の赤十字

今はまだ、外部からの支援がなければ十分な事業を実施することができないモンゴル赤十字社ですが、こうした組織強化の取り組みを進めながら、いずれは自分たちの力でモンゴル中の人道事業を担っていこうという熱意をすべてのスタッフから感じました。外部からの支援は、永遠に続くものではありません。日赤が目指しているのは、こうした海外の赤十字社の力を伸ばし、ひいては、その地域で赤十字の助けを必要としている人々に継続的に支援を届けることなのだと、改めて感じました。この熱意を支援側である日赤でも共有し、私たちも国際赤十字の一員として、そして同じ赤十字の担い手として、それぞれの国で必要とされる赤十字の活動を推進していきたいと思います。

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