バングラデシュ南部避難民*支援:こころのケア

 昨年8月に発生したミャンマーのラカイン州での暴力行為に伴い、多くの人々が隣国バングラデシュに避難を始めてから約5カ月が経ちました。着の身着のままでの徒歩やボートでの避難、避難民キャンプでの不自由な生活、先の見えない将来。厳しい環境に置かれる避難民の「こころ」に寄り添う活動をご紹介します。

※国際赤十字では、政治的・民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています。

困難な状況から立ち上がる力を高めるための様々な活動

ボランティアがCFS前で子供の健康チェック.JPG

子どもの健康チェックをする避難民ボランティア

 日本赤十字社のこころのケア活動の拠点は、およそ3万人の避難民が住むハキムパラというキャンプ。竹とビニールシートで作った小屋で、バングラデシュ赤新月社とそのボランティア、更には避難民ボランティアとともに支援活動を行っています。赤十字のこころのケアは、人々が困難な状況から立ち上がる力を高めることを目的としています。人々が集い、気持ちを共有し、互いに支援するきっかけとなる場を作ることが私たちの活動です。
 例えば、子どもたちが子どもたちらしくいられるように、お絵かきや歌を歌う時間を設けています。平均して一日200人以上の子どもたちが参加しています。困難な状況の中でも特に子どもたちは安全で安心して過ごせる場所が必要なのです。
 また、積極的に人々のもとへも出向いています。例えば、救援物資の配布会場では、子どもの安全をテーマにした啓発活動や赤十字による支援の情報提供などを行います。子どもに対する暴力について語った避難民ボランティアは「『子どもに対する行いは、僕たち自身の未来に対する行いになるんだ』と伝えています。なぜなら、自分が子どもにしたことは、次の世代に繰り返されてしまうからです」と語ります。
 本当に支援を必要としている人は住んでいるテントから出てくることさえできないことが多々あります。そこで、訓練を受けたボランティアがテントを訪問して直接お話を聞き、状況を確認します。ストレスを抱えていても、ボランティアが傾聴するだけで心が軽くなる人々がいる一方、さらにフォローアップが必要なこともあります。そのような場合、こころのケア担当要員が再度訪問して支援を継続します。

自らの力でコミュニティへ貢献を始めた男性

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男性が作成した地図。他の地域でも順次作成している。

 「夜がね、辛いんだよ。故郷の村での暮らしや、逃げざるを得なかった暴力を思い出して眠れない。狭いテントの生活で、明日の食糧、天気、将来・・色々考えてしまう。やっと眠れても悪夢を見るしね」と避難民のホセインさんは語ります。
 このような緊急事態では男性への支援が忘れられがちです。しかし、多くの男性は故郷ミャンマーの村で起こった暴力行為から家族を守れなかったことや、仕事や財産などすべてを置いて逃げて来たことを理由に、この避難民キャンプで大事な家族を支えていくことができないというもどかしさを抱えています。具体的には、家事や育児、遊びや勉強といった避難前の生活に近い活動に時間を使うことが多い女性や子どもと比べ、男性は「大黒柱として家族を支えたいのにすることがない」と悩む人が多くいます。こうした状況で感じるストレスや不安を打ち明けたいと、男性たちは週に2回開催される男性のセッションに集まってきます。同じ境遇にある人同士、お互いの経験を話すことで連帯感を感じることができるのです。
 宮本教子要員(埼玉県赤十字血液センター)は語ります。「ここに集まった男性らに初めて会った時に『困っていることはありますか?』と聞いたところ、『救急車がほしい』と言われました。「私たち(こころのケア要員)は物を配るためにいるのではなく、困難の中で新しい生活を送っていくあなたたちを支援するためにいるのです」と伝えました。また、家や仕事、時には家族まで失くした彼らに対して、まだ住んでいるコミュニティを守る責任が彼ら自身にはあることを繰り返し伝えました。」
 2~3週間ほど粘り強く伝え続けたある日、参加者の一人が自分の住む地域の世帯数や妊婦の数、孤児の数など自ら調べてきて言いました。「私たちの地域には39人も妊婦がいますが、ほとんどはクリニックに行けず、彼女たちの健康状態が心配です。」実際に妊婦が住んでいるという家庭を訪問したところ、大きなお腹では、キャンプの中の急で滑りやすい坂道を上り下りできず医療施設に行くことが難しいという声が多くあがってきました。
 そこで、助産師とこころのケア要員、地域のリーダー、地域の産婆、地区で活動しているNGOと話し合った結果、助産師が妊婦の住む家を訪れ、健康チェックを行うことや、地域の伝統的な産婆への教育活動を始めることができました。宮本要員は「『あなたのしてくださったことはとても地域に役立つことです。大切なことです』と男性にお伝えした時はとても誇らしそうでした」と振り返ります。
また、男性セッションではさらに学校や井戸などの情報をもりこんだ地図を作成しました。宮本要員は続けます「人間には、誰でも立ち上がる力を持っています。困難な状況に直面していても、自分たちにはその力があるとわかったこと、独りではないと知ったこと、将来にほんの少しでも希望を見出せたことがこのような変化につながったのだと考えます。」

目に見えない「こころ」への支援の強化を

 避難民の数は今もなお増加しており、その数は68万8千人に上ります(1月27日国連発表)。過酷な環境下での暮らしが続くことは、目には見えませんが避難民のこころにも大きな負担となってのしかかっています。
 皆さまからのあたたかいご支援は、彼らがそのような状況から立ち上がる力に繋がります。日本赤十字社はこれまで3万人の避難民に対してこころのケアを実施してきました。活動を継続できるよう、引き続き温かいご支援をお願いします。

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