ヤング・リポーターがみた『献血』

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昨年、報道やジャーナリズムに関心を持つ20~35歳の若者を対象に、人道的視点を持った報道作品の奨励を目的とした「第三回ヤング・リポーター・コンペティション」(主催:ICRC駐日代表部等、後援:日本赤十字社等)が開催され、その中で、日本赤十字社賞を受賞した中央大学の柳沢直己さんには日本赤十字社の活動を取材する機会が与えられました。

柳沢さんはこの度、輸血経験のある日本赤十字社の職員へのインタビューや、初めての献血体験をとおして、献血に関するエッセイを執筆しました。


「献血は繋ぐ」

柳沢 直己

「恩返しに誰かを救う側の立場になろうと思った」

 こう語ったのは、日本赤十字社血液事業本部経営企画部献血推進課で働く佐藤潤一さん(27)だ。佐藤さんは学生時代、ラグビー部に所属していた。しかし、試合中に相手チームの選手からタックルを受け、右膝前十字靭帯をほぼ断絶してしまう。「ほぼ」というのは、靭帯が完全に断絶したわけではなく、一部だけが繋がりを保っていたからだ。

「割り箸が割り切れない感じ」

 佐藤さんはそう表現した。靭帯を再び完全な形に治すために、佐藤さんは手術を受けることになった。そしてその時、一度靭帯を完全に切ることになった。また、靭帯を切った後はその場所から出血するため、輸血も必要とされた。当時の心境について、佐藤さんはこう語る。

 「驚きました。まさか自分が輸血を受ける側に回るとはって。それと同時に、他の人の血液が自分の体内に入って大丈夫なのかなっていう不安は正直ありました」

 手術は成功し、全身麻酔から目が覚めた時には輸血も終わっていた。

 「輸血があったから手術が終わったんだ。有難いなって」

 献血協力者へ尊敬の念を持った佐藤さんは、退院後、自身も献血をしようと献血ルームへと足を運んだ。しかし、現在は過去に輸血を受けたことがあると、献血に協力できないこととなっているため、佐藤さんは献血をすることができなかった。

 「献血ができなかったので、もどかしい思いを抱えたまま就職活動を迎えました」

 そんななか、佐藤さんが出会ったのが日本赤十字社だった。佐藤さんは自分自身の経験と血液事業への想いを語り、日本赤十字社へと入社。現在に至る。

 普段は献血の推進や献血協力団体との調整、献血協力者を受け入れるにあたっての手順の見直しなどをしている佐藤さん。新型コロナウイルスの全国的な流行により、業務に影響が出ているという。

 「企業や大学がリモートワークやオンライン授業を導入することで、それらの場所に献血バスを持っていっても人がいなく、例年通りの協力数が得られなくなっています。また、私たち外部の者が敷地内に入ることを敬遠される企業様もいらっしゃって、企業献血の中止も相次いでいます」

 献血協力者が目標人数に達しなかった場合には、他の献血会場で不足分を補ったり、献血バスの配車回数を増加させて対応しているという。また、昨年には盛り返していた献血離れが叫ばれる若年層の献血者数も、今年は厳しい実績になりそうだという。新型コロナウイルスの影響は、献血の現場にまで押し寄せていた。

 苦労もある仕事だが、佐藤さんは仕事についてこう語る。

 「自分も輸血を受けた身なので、献血していただく方と触れ合うっていうのは、その都度感謝を感じることしかありません。なので、あまり大変だなって感じたことはないです。強いて言うなら、献血を推進するための正解例はないので、そこを考えることが大変だったかな。ただそれは苦痛とかではなく、やりがいに繋がっています」

 佐藤さんを動かしているのは今も「感謝」の気持ちだった。佐藤さんは、これからもその「感謝」の気持ちを胸に業務に取り組んでいく。

 「献血によって命を救うことができる。これからも今できることを精一杯やって、与えられた任務に適した活動ができればなと思います」

 佐藤さんへの取材から数日後、私も実際に献血をしてみることにした。献血当日の朝ごはんは事前に言われた通りにしっかりと食べ、有楽町献血ルームへと向かった。

 当日は400mlの献血をした。一般的な量の献血だ。献血ルームに入り、受付をする。広い窓のついた開放的な待合室で待っていると名前が呼ばれた。初めての献血だったため、詳しい説明を受け、書類を書いた。それらが終わった後は血圧を測ったり、問診を受けた。

いよいよ献血だ。歯医者で使われているような大きな傾いた椅子に腰を掛け、体制を整える。目の前にはテレビが映る小型の画面が設置されており、耳元からは音声が聞こえてきた。少しの間担当スタッフの方と話をしていると、献血の時が来た。スタッフの方と話したおかげで、私の緊張は解けていた。ゆっくりと針が腕を刺す。しかし、痛みはあまりなかった。献血をする場所も開放的で明るく、恐怖を感じる要素はなかった。針に繋がったチューブを赤い血液が流れていく。その光景は不思議だった。自分の血液をここまでまじまじと見つめたことはない。ましてや、その血液がチューブを通って袋の中に吸い込まれていくのだ。

 10分ほど経っただろうか。腕に刺された針が抜かれた。ふと袋を見ると、血液で一杯になっていた。400mlという血液の量に圧巻されたが、体に違和感もなく、すぐに待合室に戻った。献血後はめまいやふらつきに襲われる可能性もあるため、待合室で少なくとも10分以上の休憩が求められる。私もそれに従い、待合室に用意された飲み物を飲んだり、お菓子を食べたりして休憩した。ちなみに、献血後は体から献血した血液分の水分が抜けている状態のため、水分補給をすることが推奨されている。

 何事もなく10分が経過し、私は献血ルームを後にした。初めての献血は、意外にもすぐ、そして簡単に終わった。良い意味で私の献血への想像は裏切られた。献血は時間がかかり、それなりの覚悟が求められると思っている人は多いかもしれない。しかし私は思った。献血は気軽に受けて良いものだと。そして、自分の血液が人のためになるかもしれない。こんなにも良いことはないと。